AI人形ホラー「M3GAN/ミーガン」レビュー ChatGPTが話題の今だからこその絵空事ではない恐怖(2/3 ページ)
この映画を見終わると、現実でタブレットを持たせたまま放っておいた子どもが、いつの間にかアプリやゲームの中毒になっていたり、怪しげなYouTubeの動画で“教育”されていたとしたら……などと、ゾッとする親御さんも多いだろう。
劇中では他にも、ジェマが「収集用のおもちゃ」をケイディにあたえようか迷い、結局は良くない結果を生んでしまう様も、普遍的な子どもの接し方のメタファーとして秀逸だった。
それでいて、子どもを軽んじることなく、子どもにも主体的に考える聡明さがあるのだと、劇中で明示しているのも誠実だった。それが具体的にどういう形で打ち出されるかは、ネタバレになるので秘密にしておこう。劇中で起こったことを反面教師にして、親子関係を見つめ直すきっかけにもできるはずだ。
無邪気な発想から、実体験も反映した内容に
本作の製作を務めたジェームズ・ワンは、製作総指揮のスタッフおよび同僚と「殺人人形が出てくる映画が意外と少ない」と話し合っていたという。なるほど、例えばジェームズ・ワンが監督を務めた「ソウ」でも人形は出てくるが、それは「代理で話をする」立ち回りにすぎない。そのうちに彼らの会話は「アナベルとターミネーターを融合させた殺人人形の映画が面白そうだ」という形に発展し、結果として「超常現象ではなく、テクノロジーが暴走する映画を思いついた」そうだ。
また、脚本および共同で原案を手掛けたアケラ・クーパーは、「私もめいやおいの子守をしたことがあるから、突然幼い子どもの世話をフルタイムでしなければならなくなる恐怖は理解できる」「私たちはヒロインであるジェマをどん底から引きずり出し、彼女が大人として成長するまでの軌跡を明確に描きたかった」とも語っている。
そんなわけで、「ミーガン」は「殺人人形が活躍する映画を作ろう!」という無邪気な発想により生まれたものの、テクノロジーが暴走するホラーという点で今日的でもあり、脚本家の子守りの実体験も反映されているのだ。スタンダードな娯楽性たっぷりのホラーでありながら新鮮味があり、子どもへの教育のメタファーとしても面白い内容に仕上がった理由も、そこにあるのだろう。
ところで、もう1つ必見の大傑作がある
実は「ミーガン」を見て、先に挙げた「悪の教典」「クレしん ヘンダーランド」の他に、もう1つ強く連想した映画がある。それは、「AIロボットの少女が、ひとりぼっちの女の子の元にやってくる」という大きな共通項のある「アイの歌声を聴かせて」だ。
「アイの歌声を聴かせて」は2021年10月29日の劇場公開から絶賛に次ぐ絶賛がSNSで寄せられ、約6カ月半にわたり全国の劇場でロングラン上映が行われ、第45回日本アカデミー賞優秀アニメーション賞を受賞した。その監督である吉浦康裕は、「ミーガン」に公式コメントを寄せていたりもする。
SF青春コメディー×ミュージカル映画である「アイの歌声を聴かせて」の劇中でも、「AIの怖い存在かもしれない」側面が描かれている。さらに同作は、話題沸騰中のアニメ「機動戦士ガンダム 水星の魔女」の大河内一楼が共同脚本を務めており、いずれも“母親”を軸にしたなかなかに絶望的な展開が待ち受けている点も興味深い。
とはいえ、「アイの歌声を聴かせて」は「最後にきっと、笑顔になれる。ちょっぴりポンコツなAIとクラスメイトが織りなす、ハートフルエンターテイメント!」という触れ込みの通り、ジャンルとしては「ミーガン」とは異なる。人によっては(具体的には小島秀夫監督も)マジ号泣するほどの大傑作なので、AI人形ホラーをとことん突き詰めた「ミーガン」と併せて、ぜひチェックしてみてほしい。
(ヒナタカ)
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