千代の富士さんがほめてくれた――ちゃんこ屋から元力士俳優がもう一度、まわしを締めるまでの10年私の人生が動いた瞬間(1/2 ページ)

Netflixオリジナルドラマ「サンクチュアリ-聖域-」で猿谷役を演じた澤田賢澄さんへインタビュー。

» 2023年07月19日 07時45分 公開
[のとほのかねとらぼ]

 人生100年時代といわれる現代、「何歳からでも新しいステージに踏み出すのは遅くない」という考え方が広がっています。著名人も例外ではなく、ある分野で成功を収めた人が転機を経験し、別のフィールドで奮闘する姿は多くの人に勇気を与え、モチベーションやインスピレーションを与えています。

澤田賢澄

インタビュー連載 「私の人生が動いた瞬間

 Netflixオリジナルドラマ「サンクチュアリ-聖域-」で、ひときわ存在感を放っていた役者がいた――関取復帰を目指す元小結で、主人公の猿桜の兄弟子として物語で重要な役割を担った猿谷。言葉数こそ多くはありませんが、つつましく、ひたむきにけいこに向かう姿や、断髪式での涙に胸を打たれた人は多いのではないでしょうか。

 演じたのは、元幕下・千代の眞、澤田賢澄(さわだ けんしょう)さん。弟は、現在十両の千代の国で、腎炎を患い2012年9月場所で現役を引退しました。その後は、10年間にわたって飲食店を経営。コロナ禍で飲食店の経営が傾いていたときに舞い込んだ「サンクチュアリ-聖域-」のオーディションをきっかけに、現在は力士俳優として活動しています。

 わらにも縋る思いでたどり着いた先にあった“相撲”。一度はまわしをつけることもなくなっていましたが、「(相撲は)やっぱりめっちゃおもしろいです」と再びまわしを締める澤田さんに、人生の転機を聞きました。


厳格な父から逃げるように入った相撲界

――「サンクチュアリ-聖域-」に出演されていた方が、ほとんどは相撲未経験の方だと知ったときは驚きました。澤田さんが先導されて、1日300回ほど四股を踏まれていたそうですね?

澤田賢澄(以下、澤田) やっぱり四股が踏めないと、腰ができないんです。素人みたいな仕切り(相撲の取組における立ち合いの構え)をされても絵にならないので。

――その成果は、元力士の澤田さんから見ても表れていたと思いますか?

澤田 そう思います。現役の相撲取りや親方が見ても、「どっかの大学相撲連れてきたの?」と驚いていたぐらいなので、四股がしっかりできていればちゃんと力士に見えるんですよ。

――相撲界から見ても本物だったんですね。周りからの反響はありましたか?

澤田 第72代横綱の稀勢の里さんは配信後、「夫婦で泣いた」とすぐに連絡をくれましたし、第69代横綱の白鵬さんからは「俺は猿谷の『点を線で結ぶ相撲』というせりふが好きだから言ってくれ」と銀座のど真ん中で言わされました(笑)。

澤田賢澄 白鵬さんもお気に入りの「サンクチュアリ」

――澤田さんはあらためて力士の体を完成させるために35キロ増量されたそうですね。

澤田 栄養士の方とトレーナーの方に調整していただいて体を作ったんですが、今37歳で、量が食べられなくなって大変でした。あの時期はカレーに助けられましたね。

澤田賢澄澤田賢澄 猿谷のビフォーアフター

――もともと空手の経験があった上で相撲の道に進まれたんですよね。相撲以外の選択肢はなかったのでしょうか?

澤田 父親が星飛雄馬のお父さんみたいな昔気質じゃないですけど、厳しい父親だったんです。だから、「お前が自立しているならお前の選択肢でいいけど、そうじゃないんだから俺が与えた選択肢で選べ」と全寮制の高校に行くか、実家が寺なのでお坊さんになるか、相撲部屋に入るか選択肢を渡されて、もう一択、相撲界でした。とにかく家を出たかったんです。

――家を出たい一心で飛び込んだ相撲部屋も相当厳しい環境だったんじゃないでしょうか。

澤田 もともと空手でも厳しい練習をしていたので、けいこ自体は問題なかったんですけど、相撲部屋の上下関係や私生活はかなり厳しかったですね。

――「サンクチュアリ」でも描かれていましたね。ほぼほぼいじめなんじゃないかという……。

澤田 いじめなんて日常茶飯事でしたよ。猿桜さんと一緒で、実家からの荷物を捨てられたこともありました。「はい」か「すいません」しか言っちゃいけなくて、「いいえ」は反抗になる社会だったんです。でも、僕の場合は、父親に対してもそうだったので、相撲部屋の方が楽じゃんって思っていました。

――相撲を辞めようとは思わなかったんですか?

澤田 理不尽な暴力やいじめが嫌になったことはありましたけど、逃げようと思ったことはなかったです。辞めるなら、全部暴露してから辞めてやろうとは思ってましたけど。


親方・千代の富士さんがほめてくれたちゃんこ

――澤田さんは幕下まで番付をあげて、腎炎で引退を決意されます。もう戦えないと分かったときの心境を教えてください。

澤田 僕はタイミングでした。病気を患って、治療してそこからまた復帰しようにも、病気でどんどん体重が減ってしまっていたので食べることが苦痛になっていたんです。そんなときに、弟の千代の国が幕内に上がって、「俺の役目は終わった」と思って決心しましたね。

――それから飲食店を経営されますが、中学生から相撲部屋に入って、新しい社会に出ていくのはなかなか覚悟が必要だったんじゃないでしょうか?

澤田 次のステージでは横綱になってやろうとワクワクしていましたね。でも、外のことを何も知らなかったので、光熱費ってこんなに高いの? というところからのスタートでした。

――相撲部屋は衣食住は保障されてますもんね。

澤田 お相撲さんって、髪の毛の鬢付け油を落とすのにシャンプー1本使うくらい時間かかるんですよ。だからシャワー出しっぱなしにして洗ったりしていると親方やおかみさんに「使わないときはシャワー止めなさい」と言われていて、「ケチ臭いな」とか思ってたんですけど、いざ1人暮らしをして自分でシャワーを使うじゃないですか、めっちゃ止めますね(笑)。

 相撲界にいたときの感覚のまま世に放たれると、金銭感覚も豪快だし、「今月俺どうやって飯食えばいいんだ」ってときは結構ありました。相撲部屋ってすごく守られていて、甘えていたんだなと思いました。

――飲食店をやることは決めていたんですか?

澤田 僕が飲食に行こうと決めた理由が、千代の富士さんが僕の作ったちゃんこをほめてくれたからなんです。当時の九重部屋は、マネージャーが元料理人だったので料理がすごくおいしかったんですよ。その方は今、旧九重部屋で「ちゃんこ千代の富士」をオープンしています。

 千代の富士さんは、本当に褒めない方だったんですけど、ある日「今日のちゃんこうめぇな」ってマネージャーに言っていて、「それ賢澄が作ったんだよ」って俺が作ったことが分かると一変して「ぬるいよ」って(笑)。ただでは褒めてくれないんですよね。でもそれくらいおちゃめで、恥ずかしがりやな方でした。

――それはうれしいですね。

澤田 自分が作った料理をおいしいって言ってもらえるのはうれしいなと思って、最近までは地元の伊賀でちゃんこ居酒屋「ダイニングまくに」を経営していました。

――飲食店はコロナ禍で相当ダメージを受けたのではないでしょうか。

澤田 田舎だったこともあって、コロナ禍は外に誰もいなくなってしまっていました。借りられるものは借りて、テイクアウトに切り替えて、ギリギリなんとかやっていた状態で「サンクチュアリ」のオーディションのお話をいただいたんです。


       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/19/news028.jpg 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
  2. /nl/articles/2411/19/news126.jpg 元「おニャン子」内海和子、娘・ゆりあんぬの“胃の粘膜ぶっ壊す”食事に激怒! 有名飲食店に謝罪し「出禁にして」「違う星の人そんな気がしてなりません」
  3. /nl/articles/2411/19/news150.jpg 「情報を漏らされ振り回され……」とモデラー“限界声明” Vtuberのモデル使用権を剥奪 「もう支えられない」「全サポート終了」
  4. /nl/articles/2411/19/news083.jpg 「恐ろしい」 北海道の道路標識 → “見落としたら絶望”のとんでもない表示に衝撃走る 「普通にホラーでは?」
  5. /nl/articles/2411/18/news019.jpg 優しそうな“おかっぱ頭”の男性→プロがカットしたら…… “別人級の仕上がり”が470万再生「えっ!? って声出た」「EXILEみたい」
  6. /nl/articles/2411/19/news114.jpg 平愛梨、“夫・長友佑都選手”に眠れなくてLINE送信→“まさかの返信”に「なんやねん」「もう寝るしかない」
  7. /nl/articles/2411/18/news025.jpg “無給餌”で育てたメダカが2年後、驚きの姿に→さらに半年後…… 放置しておいたビオトープで起きた“奇跡”に「ロマンを感じる」
  8. /nl/articles/2411/18/news120.jpg 「天才が現れた!」 森永が教える“秋らしい”お菓子の作り方→たこ焼き器を使ったアイデアに「すごいすごい可愛い」
  9. /nl/articles/2411/19/news009.jpg 固い着物をリメイクしてみたら…… 生まれ変わった“まさかのアイテム”に「しゅげー!」「凄い素敵です」
  10. /nl/articles/2411/19/news062.jpg 「上げ底の先」 その名に偽りなし、高専の文化祭に出現した「限界節約ホットドッグ」が本当に限界だった
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた