「妊娠中でも寿司が食べたい」をかなえる「加熱寿司」 3分で完売し日常用バージョンも登場、開発の背景を聞く(2/4 ページ)

» 2023年07月23日 11時30分 公開
[谷町邦子ねとらぼ]

クラファン成功も、一般販売では「ゼロベースで練り直す」こだわり

 Twitterで呼びかけた渡邊さんは、当初、働いていた食品会社に提案しようと考えていたそうです。しかし、会社では他に優先するべき業務が多く、主に扱っている商品が寿司ではなかったため、実現不可能か、とてつもなく時間がかかるように思えたと話します。

 「大きな会社なので人やお金といった資源は豊富にあるのですが、その分スピード感には欠けることになる。今待っている妊婦さんに届けられないのが嫌だったので、スピード感優先で自分でやることにしました」(渡邊さん)

 出産後、幼い子どもを育てながらクラウドファンディングをしていたときは、「初めての育児で知らないことばかりで、不確実な子ども、不確実な事業、2つ両手に抱えていた」と余裕のないものだったそうです。クラウドファンディング成功後、退職し個人事業主「加熱寿司」として一般販売を目指します。その際、好評だったリターンの加熱寿司を、押し寿司から握りずしにするなど大きく改良を加えています。

 「すべて改良したと言っていいくらい、まるっと、本当に別のものですね。クラファン時に得たノウハウやいただいたご意見をもとに、ゼロベースで練り直す、みたいなことをしました」(渡邊さん)

てまり寿司×加熱寿司 一般販売に向けてイチから作り直した「加熱寿司」

 寿司については、シャリ酢や米の配合にこだわり、冷解凍後のシャリの品質向上を目指しました。冷凍には液体急速凍結機「凍眠(とうみん)」を新たに採用し、菌の繁殖が盛んになる10℃〜60℃の温度帯を早く通過させるなどして、安全性を高めているといいます。さらに「凍眠」で素早く冷凍することで、鮮度・味・見栄えといったクオリティを高く保っていると渡邊さんは説明しています。

てまり寿司×加熱寿司 「凍眠」はマイナス30度のアルコールで凍結。凍結速度は世界最速とのこと

 「外側のお洋服と言うか、パッケージ、資材に関しても、加熱寿司の体験をより理想的に、より良いものにするために、さまざまな試作を重ねました」(渡邊さん)

 お客さんが撮影した写真のなかにお寿司が崩れて見えるものがあったので、配送時に崩れない専用のトレーを金型からデザイン。また、箱を木箱にして高級感を演出しました。

てまり寿司×加熱寿司 「加熱寿司」のシャリ、ネタを1つひとつ採寸し設計した専用トレー。素材は急速冷凍やレンジ解凍が可能なポリプロピレンを採用

 目標金額の1113%を達成し、成功していると言えるクラウドファンディングですが、どのようにしてこれだけの改善点を見つけたのでしょうか。

 「お客様からの意見にはネガティブなものはなかったんですけど、それはクラウドファンディングという、応援してもらえる、下駄をはかせてもらえる状態だから。それを理解していたので、ネタがどうだったか、シャリがどうだったかなど、インタビュー形式で積極的に聞きに行きました。お客さんの声だけでなく、私自身がやってみて、もっとこうしたい、もっとこうすべきだ、というところを追い求めていった部分もありました」(渡邊さん)

てまり寿司×加熱寿司 木箱に入れられ、高級感をまとって送られます

 魚の目利き・寿司づくりには寿司職人、液体急速凍結機「凍眠」では「テクニカン」、専用トレーでは「廣川」などの企業からの協力を得て作られた「加熱寿司」。個人による事業にも関わらず、さまざまな人や企業からどのように協力を取り付けたのか。大手食品会社勤務で得たノウハウが生きたのか尋ねると、渡邊さんは「そういったこともあるけれど、ごく一部」だと答えました。

 「前職で営業や海外駐在、マーケティングと幅広く経験させていただいたのと、社会人大学院の経営学修士で得た知識で、最低限の商品を世に出すためのフローというか、商品開発から販売までに何をすればいいかはだいたい分かっていました。だから、心理的なハードルも低かった。そういう意味では役立ったと思います。一方で、お寿司という『畑』や、会社ではなく個人で事業化させていく体験においては、完全に初めての経験だったので、その2つの意味では前職の経験が生きる、なんてことはなく本当にチャレンジだったなーと感じております」(渡邊さん)

 店舗や企業からの協力を得るための戦略的、効率的な方法はなく、行動あるのみだったようです。

 「例えば資材業者の場合、何百社も問い合わせして、断られたり、無視されたりの連続が当たり前で、その中で1社、『協力します』って言ってくれたところと一緒にさせていただいているんです。もちろん自分なりに仮説をもって考えながら動くというのが前提ですが、動かないとどんな良縁にも恵まれない。良いものを届けることで妊婦さんが喜び、我慢から解放され、パートナーから妊婦さんにギフトとして送っていただくことで夫婦関係がより良いものになって、子育てに向けて良い時間を過ごしていただければと、その一心で動いていました」(渡邊さん)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2410/31/news032.jpg 結婚相手を連れてくる妹に「他の人に会わせられない」と言われた兄、プロがイメチェンしたら…… 「鈴木亮平さんに見えた」大変身に驚がく
  2. /nl/articles/2410/31/news177.jpg 天皇皇后両陛下主催の園遊会、“お土産”に注目 ジョージア大使「大好物です」「娘たちからも大好評」
  3. /nl/articles/2410/30/news190.jpg 「2007年に紅白出場」 38歳になった“グラビア界の黒船”が1年ぶりに近影公開→驚きの声続々
  4. /nl/articles/2410/31/news183.jpg 「姉はミスヤングマガジン」で“美人姉妹” 筋肉率79.9%の女子高生プロレスラーが全身の計測結果を公開→「驚異的……」と反響
  5. /nl/articles/2410/30/news146.jpg フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  6. /nl/articles/2410/31/news166.jpg ドジャース奥様会の最新ショット 大谷翔平の妻・真美子さんの不在を残念がる声も……「あれっ!?」「探してしまう」
  7. /nl/articles/2410/31/news031.jpg イヤになるほど雑草ボーボーの庭が、プロがやってる“ある対策”で…… 驚きの効果が140万再生「凄すぎ」「感心しました」
  8. /nl/articles/2410/31/news014.jpg ホテルのベッドにある“謎の布”は何のため? ホテル従業員の解説に「それは知らなかった」と驚きの声
  9. /nl/articles/2410/30/news207.jpg 捨てられて痩せ細ったレオパのため、有給3日使って看病したら…… 「ちょっと泣いた」驚きの変貌に感動→8カ月後の現在について聞いた
  10. /nl/articles/2410/31/news034.jpg どこが間違ってるか分かる? たぬきイラストの正誤比較に「ずっと間違えてた」「任天堂のせい」の声 作者に話を聞いてみた
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた
  2. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  3. 大家に「好きにしていいよ」と言われて薄暗い部屋をDIY改装したら…… あまりの変貌に仰天「すっげえええ」 投稿者に話を聞いた
  4. 「どうやったら今の顔に???」 “顔面国宝級”と呼ばれる美容外科医が“整形前”の姿公開し衝撃広がる 「どんな人でも変われる」とメッセージ
  5. 「笑いが止まらない」 深夜のバイクで職務質問 → バッグから出てきたものは…… 警官も笑った“とんでもない光景”が1000万表示 「キマってますねぇ」
  6. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  7. 「またディズニー離れが……」 ディズニーランドの“クローズ情報”に「受け入れられない」「妥当」さまざまな声
  8. 「ふざけてる」「作品を知らないのになぜ?」と怒りの声 マクドナルドと「HUNTER×HUNTER」コラボの“PR施策”が物議【台湾】
  9. 自宅の犬小屋に住み着いた野良猫が、1年後…… まさかまさかの“現在”に「うわあ!よかったねえ!」「お幸せに」と100万表示
  10. たった築8年で“ぶっ壊れた”マイホームのリアル おそろしい戸建て事情に「声出た」「我が家もそうでした」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた