ニュース
» 2023年09月03日 09時00分 公開

「これなら毎日食べたい」 富山のかまぼこが “かわいすぎる”とSNSで話題 近年は苦境も……文化守る老舗の思い(1/2 ページ)

地元メーカーに取材しました。

[ねとらぼ]

 カラフルな色合いとかわいらしいデザインが特徴の富山県の名産品「細工かまぼこ」が、SNSで話題を呼んでいます。富山ではお祝い事に欠かせない食べ物として長年親しまれてきましたが、近年は需要が減少し、苦境に立たされています。ねとらぼ編集部は、地域独自の文化を受け継ごうと試行錯誤する地元メーカーを取材しました。

細工かまぼこ 色鮮やかな富山の名産品「細工かまぼこ」が話題(画像提供:梅かま

 「かわいすぎる」「これなら毎日食べたい」――。7月中旬、X(Twitter)ではある「かまぼこ」の写真が話題を呼びました。かまぼこと言えば、半円形で紅白柄が特徴の「板かまぼこ」や、宮城県の名産で楕円形が特徴の「笹かまぼこ」が有名です。しかし、今回話題になったかまぼこは、犬や猫などの動物、スイカやバナナといった果物、カニや鯛などの海産物が色鮮やかに表現され、一般的なかまぼこの姿とは一線を画しています。

 

 正体は「細工かまぼこ」と呼ばれる富山県の名産品です。地元のかまぼこメーカーで構成される「富山県蒲鉾水産加工業協同組合」(以下、組合)の担当者によると、その誕生には諸説あり、「祝い膳である山海の珍味(特に鯛)の代替品」として生まれた説が有力。「和菓子の意匠を参考にした説」や、鯛漁で知られる県東部の魚津市で明治末期に鯛が不漁となった際、地元のかまぼこ屋が四国から細工の名人を招き、鯛のかまぼこづくりを始めた説もあるそうです。

細工かまぼこ 「バナナ」の細工かまぼこ(画像提供:梅かま
細工かまぼこ 「すいか」の細工かまぼこ「細工かまぼこ」が話題(画像提供:梅かま

 富山では、結婚式などの祝い事に細工かまぼこが欠かせません。地元メーカー・梅かま(富山市)の提供資料によると、もともとかまぼこ消費が盛んな富山で細工かまぼこが広く親しまれるようになったのは高度経済成長期のこと。もともと富山の結婚式では引き出物を近所にお裾分けして、めでたさや華やかさを共有する習慣があり、生活水準の向上で「豪華な引き出物」の需要が生まれると、細工かまぼこが人気を集めたといいます。 

細工かまぼこ お祝い事で提供される細工かまぼこ(画像提供:梅かま

 作り方は、まず魚のすり身を型に入れ、食紅で着色。専用のヘラなどを用いて、職人たちが手作業でかまぼこに命を吹き込んでいきます。現在県内で細工かまぼこを販売しているのは、組合加入社のうち15社程度。各社の販売店やネットショップのほか、東京都内のアンテナショップでも買えます。大型のかまぼこは数万円程度しますが、動物や果物など小型のものなら500円程度から購入可能です。また梅かまでは、世界に一つだけの細工かまぼこを作れる体験教室も開催しています。

細工かまぼこ 梅かまの体験教室で作れる細工かまぼこ(画像提供:梅かま

近年は売上減少も……試行錯誤する老舗社長の思い

 編集部は8月17日、富山県東部・黒部市のメーカー「生地(いくじ)蒲鉾」の中陳新平社長にも話を聞きました。1927年創業の同社は細工かまぼこの老舗として知られ、これまで多くのかまぼこ職人が修行に訪れるなど、細工技術の高さが評価されています。

細工かまぼこ 細工技術の高さで知られる生地蒲鉾。過去に品評会に出品された「ホワイトタイガー」の細工かまぼこ(画像提供:生地蒲鉾
細工かまぼこ 過去に品評会に出品された「くじゃく」の細工かまぼこ(画像提供:生地蒲鉾
細工かまぼこ 過去に品評会に出品された「鴨」の細工かまぼこ(画像提供:生地蒲鉾

 同社の細工かまぼこは鯛や鶴、亀といった縁起物から、かぼちゃのイラストを描いた「ハロウィンかまぼこ」までラインアップはさまざま。また、似顔絵やオリジナルイラストをかまぼこで表現する受注生産も受け付けています。

細工かまぼこ ハロウィンかまぼこ(画像提供:生地蒲鉾
細工かまぼこ 受注生産ではオリジナルデザインのかまぼこを作ってくれる(画像提供:生地蒲鉾

 しかし、中陣社長によると、同社の細工かまぼこを取り巻く事情は厳しいものだといいます。結婚式の引き出物として人気を集めた細工かまぼこは、日本の景気が良かった30年ほど前には同社の売り上げの多くを占めていましたが、今では「売り上げの10分の1にも満たない」(中陣社長)ほどに減少。時代とともに購入客のニーズが変わり、売れ行きが落ちていったといいます。

 同社ではこうした苦境を打開するため、それまで大型が主流だったかまぼこを小型化し、消費者が手軽に買えるように工夫しました。そして2010年代には、細工かまぼこの技術を応用した新商品「にゃんかま」を発売。猫の肉球そっくりの、なんともかわいらしい一口サイズのかまぼこです。

細工かまぼこ 生地蒲鉾の「にゃんかま」(画像提供:生地蒲鉾

 中陣社長は「我々が販売するかまぼこは柔らかく、弾力があるのが特徴でした。これを生かして猫の肉球を模したかまぼこを作ってみると、触感がぷにぷにとして気持ちよく、『これはいけるのでは』と思い、製品化しました」と振り返ります。現在では5個セットのほか、鯛などの細工かまぼことの詰め合わせ商品が販売されています。

細工かまぼこ 「にゃんかま」と細工かまぼこのセット商品も販売(画像提供:生地蒲鉾

 通常のかまぼこと比べると売り上げ面での貢献は少ない細工かまぼこ。それでも、かつて細工かまぼこの普及に力を入れ、多くの弟子を育ててきた先代社長・和悦さん(現会長)の思いを絶やしたくないと、中陣社長は語ります。

「細工かまぼこは富山の大事な食文化の一つです。食べるだけではなく、もらった人が喜んでもらえるような商品は作り甲斐があります。『手を変え品を変え』で、いろいろな細工かまぼこに挑戦し、この灯を消したくないと考えています」

 祝福の象徴として、富山県民に親しまれてきた細工かまぼこ。富山に行ったら、その華やかさを楽しみ、味わってみてはいかがでしょうか。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2312/02/news048.jpg 「明らかに写真と違う」 東京クリスマスマーケットのフードメニューが物議…… 購入者は落胆「悲しかった」
  2. /nl/articles/2312/03/news054.jpg 藤本美貴、“全然かわいくない値段”のテスラにグレードアップ スマホ一つでの注文に「震えちゃ〜う!」
  3. /nl/articles/2312/02/news075.jpg 黒木啓司の妻・宮崎麗果、1年空けずにフェラーリを追加購入 愛車は高級外車ぞろい「何台目!?」「カッコいいの一言」
  4. /nl/articles/2312/07/news009.jpg 「入居者が全くいない」ボロボロの築古アパートをリノベしたら……? 驚愕の“激変ぶり”に「すてきです!」
  5. /nl/articles/2312/03/news018.jpg 黒猫に見えるニャンコ、“かわいすぎる秘密”をかくし持っていた……! まさかの事実に「じゃないんだ」「白い……!」
  6. /nl/articles/2312/03/news015.jpg ハムスターが「寒い寒い!」とスライディングお布団→「スヤァ」 人間味あふれる“ぬくぬく姿”が「可愛すぎ注意」と話題
  7. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. /nl/articles/2312/03/news012.jpg 猫たちがストーブの特等席を陣取るが、大事な事に気付き…… 「おかあさーん!!」とシンクロで訴える姿に冬の訪れを感じる
  9. /nl/articles/2312/02/news003.jpg ちいかわデザインのおくすり手帳を開いたら……? “まさかの中身”に衝撃走る「絶対に笑ってはいけない」
  10. /nl/articles/2311/30/news197.jpg 一世風靡の52歳元アイドル、がん受診の遅れ巡って後悔しきり 同じ病で亡くした母思い「怖さわかってるはずなのに」「自業自得なんです」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 大好物のエビを見せたらイカが豹変! 姿を変えて興奮する姿に「怖い」「ポケモンかと思った」
  2. 「3カ月で1億円」の加藤紗里、オーナー務める銀座クラブの開店をお祝い “大蛇タトゥー”&金髪での着物姿に「極妻感が否めない」
  3. 愛犬と外出中「飼いきれなくなったのがいて、それと同じ犬なんだ。タダで持ってきなよ」と言われ…… 飼育放棄された超大型犬の保護に「涙止まりません」
  4. ミキ亜生、駅で出会った“謎のおばさん”に恐怖「めっちゃ見てくる」 意外な正体にツッコミ殺到「おばさん呼びすんな」「マダム感ww」
  5. 永野芽郁、初マイバイクで憧れ続けたハーレーをゲット 「みんな見ろ私を!」とテンション全開で聖地ツーリング
  6. 道路脇のパイプ穴をのぞいたら大量の…… 思わず笑ってしまう驚きの出会いに「集合住宅ですね」の声
  7. 柴犬が先生に抱っこしてほしくて見せた“奥の手”に爆笑&もん絶! キュンキュンするアピールに「あざとすぎて笑っちゃった」
  8. 病名不明で入院の渡邊渚アナ、1カ月ぶりの“生存報告”で「私の26年はいくらになる?」 入院直後の直筆日記は荒い字で「手の力も入らない」
  9. 小泉純一郎元首相、進次郎&滝クリの第2子“孫抱っこ”でデレデレ笑顔 幸せじいじ姿に「顔が優しすぎ」「お孫さんにメロメロ」
  10. デヴィ夫人、16歳愛孫・キランさんが仏社交界デビュー 母抜かした凛々しい高身長姿に「大人っぽくなりました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「酷すぎる」「不快」 SMAPを連想させるジャンバリ.TVのCMに賛否両論
  2. 会話できる子猫に飼い主が「飲み会行っていい?」と聞くと…… まさかの返しに大反響「ぜったい人間語分かってる」
  3. 実は2台持ち! 伊藤かずえ、シーマじゃない“もう一台の愛車”に驚きの声「知りませんでした」 1年点検時に本人「全然違う光景」
  4. 大好物のエビを見せたらイカが豹変! 姿を変えて興奮する姿に「怖い」「ポケモンかと思った」
  5. 渋谷駅「どん兵衛」専門店が閉店 店内で見つかった書き置きに「店側の本音が漏れている」とTwitter民なごむ
  6. 西城秀樹さんの20歳長男、「デビュー直前」ショットが注目の的 “めちゃくちゃカッコいい”声と姿が「お父さんの若い頃そっくり」「秀樹が喋ってるみたい」
  7. “危険なもの”が体に巻き付いた野良猫、保護を試みると……? 思わずため息が出る結末に「助けようとしてくれてありがとう」【米】
  8. 「やばい電車で見てしまった」「おなか痛い、爆笑です」 カメがまさかの乗り物で猫を追いかける姿が予想外の面白さ
  9. おつまみの貝ひもを食べてたら…… まさかのお宝発見に「良いことありそう」「すごーい!」の声
  10. 「3カ月で1億円」の加藤紗里、オーナー務める銀座クラブの開店をお祝い “大蛇タトゥー”&金髪での着物姿に「極妻感が否めない」