「出前館」崩れた寿司を素手で直す配達員 「不衛生」「怖すぎる」と物議 問題の背景にある3つの論点(1/3 ページ)
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授の山口真一さんが解説。
大手宅配サービス「出前館」の配達員が、崩れた寿司を素手で直す動画が9月中旬ごろにX(Twitter)上にアップされ、不潔だとして批判を浴びた。実際に動画を見ると、配達員と思われる人物が容器内の寿司を素手でつかんで形を整えている様子が映されている。しかもその後、寿司をそのまま配達してきたというから驚きだ。
日テレなどの報道によると、出前館は利用客からの報告を受け、メールで謝罪したという。また、動画拡散を受け、該当配達員に対して厳重な処置を取り、被害者にあらためて謝罪と返金対応をした、と報じられている。
今回はたまたま利用客が配達バイクを見ていたことから問題が発覚したが、ほとんどの利用客は配達バイクが到着しても、その様子を窓から確認しないだろう。もしかしたら見ていない間にそのようなことがされているのではないのかと思うと、不安な気持ちになる利用客も少なくないのではないか。
実は同様の事例は過去にも発覚している。YouTuberグループ「フィッシャーズ」のンダホさんは2022年、デリバリーサービスを置き配で利用したところ、配達員に注文した料理を食べられるという被害に遭った、とYouTube上で報告した。配達員は料理が入った箱を置く際に誤って箱の中の料理に指を突っ込んでしまい、その後、箱についていたソースを3度口にしたという。
このような不祥事は、場合によっては消費者が宅配サービスの利用を控えるなど、業界全体にダメージを与える可能性もある。なぜこのような問題が起きてしまうのか。その背景には、(1)宅配サービスの急激な拡大、(2)配達員の業務委託形態と簡易な研修、(3)SNSの普及という3つの論点が挙げられる。
背景1:宅配サービスの急激な拡大
現代の多忙な生活のなかで、時間は非常に貴重な資源となっている。そのなかで、食品を自宅や職場などに届けてもらえるサービスは多くの人々にとって欠かせないものだ。天候に左右されず、また特定の場所に足を運ばなくても、食べたいものを食べられるのは大きな利点と言える。
そうしたなか、COVIDー19(新型コロナウイルス感染症)感染拡大による自粛生活が、宅配需要を決定的なものにした。エヌピーディー・ジャパンの調査によると、2022年の宅配市場の売上高は7754億円。コロナ禍の落ち着きにともない前年比では1.6%減であるものの、2019年比では85%増になっている。
急激な需要拡大にともない、提供企業は迅速に宅配サービスの拡大を図った。その結果、体制整備や研修が充実しないままサービスが提供され、人手不足のなかで体制が未整備なばかりか、研修を十分に受けていない配達員が食べ物を扱う事態が発生している。
背景2:配達員の業務委託形態と簡易な研修
特に宅配サービス業界では、業務委託形態が一般的な雇用形態である。これは、労働力の確保と業務の柔軟性を保ちつつ、コストを抑制する目的で採用されている。
一方で、この雇用形態は企業と配達員の直接的な関係が希薄であり、配達員の教育や管理、モラルの確保が困難であるという欠点も内包している。配達員が独立した業者として業務を遂行するため、企業は配達員の業務に対する直接的な指導や干渉が限られ、結果としてサービス品質の均一化が難しくなってしまうのだ。
研修体系も、また問題の一因である。多くの場合、配達員は研修動画の視聴と簡単なテストの完了で業務を開始できる。この状態では、配達員が食品衛生や顧客対応、緊急時の対応策など、重要な知識や技能を十分に習得できず、サービス品質にばらつきが生じるリスクが高まる。
急速に市場が拡大して人手不足になるなか、消費者のニーズを支えるためにはできるだけ多くの人に配達員になってもらう必要がある。研修が簡素なことは市場の流動性を高め、すぐに働きたい配達員にとってもメリットが大きい。しかし、食べ物を扱う配達員の質が担保されないリスクにつながることを忘れてはいけないだろう。
背景3.SNSの普及
もう1つ、SNSが普及したことで、消費者がリアルタイムでサービスの品質やトラブルを共有することが容易になった点も背景として挙げられる。かつては顧客からのクレームやフィードバックは、企業のカスタマーサービス窓口を通じて、比較的静かに、そして限定的に処理されていた。
だが、SNS時代には1つの小さなトラブルも瞬く間に大勢の人々に共有され、議論の対象となり得る。今回のように証拠の写真や動画も撮影・投稿されることも多く、その場合は特に説得力が高まり、拡散されやすくなる。このような事例を積極的に取り上げるニュース系のインフルエンサーなども存在する。
これらのことから、企業に対する評判はSNS普及前に比べて簡単に移り変わる得るものになっている。業務委託者であっても、その行動がどこかで見られ、企業の評判に傷をつける可能性があるのだ。もちろん、消費者にとっては問題に対して声を上げやすくなり、企業の問題点をより一層知りやすくなったとも言える。
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