「ウォンバットは人間大好き」「なでないと鬱になる」 研究者が明かす真相に驚き「別に全然人間大好きじゃない」(1/2 ページ)
「飼育下では寿命が7倍伸びる」といった情報も否定しています。
「野生のウォンバットは別に全然人間大好きじゃない」。ネット上でたびたび拡散される「ウォンバットは人間が大好き」「飼育下では寿命が7倍伸びる」といった情報を、ウォンバット研究者の高野光太郎さんが否定しています。正しい生態を解説したX(Twitter)の投稿は、記事執筆時点で565万件の表示数を突破。高野さんに詳しい話を聞きました。
高野さんはオーストラリア在住のウォンバット研究者。タスマニア大学理学部動物学科・同大学院生物化学修士課程を修了後、メルボルンでの就労経験を経て、現在はサンシャインコースト大学・健康学部でウォンバットの研究に携わっています。2022年には著書『ウォンバットのうんちはなぜ、四角いのか?』(晶文社)が発売されました。
たびたび拡散される内容は「ウォンバットは人間が大好き」「抱っこも大好き」「野生下の寿命は5年程度だが、飼育下では寿命が7倍伸びる」といったもの。しかし高野さんによると、野生のウォンバットは人間が好きなわけではなく、飼育下で寿命が伸びるのは野生下に存在するような天敵や感染症、交通事故のリスクが少ないからなのだそうです。
また、同じく拡散される「人になでられないと鬱になる」という情報については、動物園で赤ちゃんのころから人間に育てられ、毎日多くの来園者と触れ合ったことのある個体の非常に特殊なケース。単独行動で夜行性のウォンバットは、基本的に人間を含めた他の動物との接触を嫌うそうです。
ねとらぼ生物部では、“四角いうんち”を使う不思議なコミュニケーションや、反抗期を迎えると母親に攻撃的になるといったウォンバットの知られざる生態の他、誤情報がたびたび拡散される理由に対する見解など、高野さんに詳しく話を聞きました。
―― 野生下のウォンバットの基本的な性格、生態を教えてください
ウォンバットはタスマニア島を含めたオーストラリア南東部の森林や草原に生息する有袋類の動物です。つまり、おなかの袋の中で子育てをする動物です。みなさんが「ウォンバット」と聞いて思い浮かべるのはヒメウォンバットという種類でしょう。大人の体長は最大約1メートル、体重は大きいもので30キロを超えます。
そのずんぐりむっくりなビジュアルのせいで大きめのモルモットぐらいだと思っている人も多いのですが、実際近くで見てみるとかなり迫力のある大きさです。意外と知られていないのですが、ウォンバットは穴を掘る地球上最大の生物でもあります。その鋭い爪と強じんな足を使って作る巣穴は長さ20〜30メートルにもなり、僕らの家と同じように寝室、トイレ、台所など、用途に合わせたお部屋が用意されているのです。
夜行性の彼らは昼間の暑い時間帯は巣穴の中で寝て過ごし、夕方涼しくなってくると巣穴から出てきて食べ物である植物を探して活動します。また、ウォンバットは単独行動をする動物です。基本的には他のウォンバットが近づいてきたり自分のテリトリーに侵入したりするのを嫌います。
特に自分の巣穴は他の誰にも踏み込まれたくない領域らしく、うっかり他のウォンバットが入ってこようものなら荒々しく追い返すでしょう。そして彼らがそれぞれのテリトリーを主張するために使うのが、かの有名な“四角いうんち”だといわれています。
巣穴付近に頻繁に設置されているその立方体は、その形状のおかげで転がることなくその場にとどまり続けます。視力が決して良くないウォンバットたちはそのフンを使った嗅覚への働きかけで、他の個体とコミュニケーションを取り、自分のテリトリーを主張するようになったというわけです。
このような習性からウォンバットたちは、人付き合いならぬ、ウォンバット付き合いが非常に苦手で、ひとりでいることを好む動物だということが伺えると思います。ディンゴやキツネなど、天敵が生息する地域では、これに加えさらに臆病になるので、100メートル離れていてもひとたび僕ら人間が風上に立てば、その匂いから気配を察知し逃げてしまうこともあります。
―――寿命について、飼育下では平均15〜25年といわれており、35年近く生きたケースも報告されています。「天敵がいない」「感染症や交通事故のリスクが少ない」環境において、ウォンバットは最長で何年生きられると考えられますか
「天敵がいない」「感染症や交通事故のリスクが少ない」環境というのは自然界ではほとんど起こり得ないので、飼育下での寿命はおっしゃる通り15〜25年ほどになると思います。ちなみに野生個体の寿命は長くても15年ほどといわれています。
五月山動物園(大阪府池田市)のウォンバット「ワイン」が現在34歳で世界最高齢の個体だといわれています。これはウォンバットにとっては驚異的な年齢で、飼育員さんたちの知識と努力と愛情が可能にしたことだと思います。ワインにはこれからも健康にさらに歳を重ねていってほしいですね。
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