旧帝大卒アイドル「学歴の暴力」が読み解く、アイドル×高学歴の方程式 恥じらい・プライド・不安定、なぜ高学歴女子とアイドルは相いれないのか(2/3 ページ)

» 2023年11月15日 12時00分 公開
[小西菜穂ねとらぼ]
「学歴の暴力」 「学歴の暴力」

アイドル×高学歴=? 両者を隔てるものの正体

―― “高学歴とアイドル”、なかなか結び付かない2つの要素がかけ合わさるとどうなるのか。今回の取材の目的には、この疑問の解像度を上げたいという目的があります。皆さんが思うことを率直に聞かせてください。追加メンバー募集時には、別の媒体の取材に「思った以上の応募数」と答えていましたね。

なつぴ アイドルだけではなく、社会人になって「もう人生安定しちゃったな」というタイミングで、まだまだやりたいことがある女の子って意外と多いんだと驚きました。私自身は勉強しかできないならちゃんとそれを生かして生きていけばいいのにと、社会人になってもアイドル……というか自分に向いてもいないことを「やりたい」と思い続けていたことへ正直コンプレックスがあったので「同じように思ってる人っていっぱいいるんだ」と安心しましたし、同じ目的を持ったメンバーと活動ができてうれしいです。

―― 「学歴の暴力」に関しては、旧帝大卒と他のアイドルにはない厳しい加入条件が設けられているにもかかわらずです。個人的な想像ですが例えば勉強に時間を取られて夢をかなえ損ねたとか、高学歴ならではの理由や後悔も背景にあるのでしょうか?

なつぴ たくさん見たってわけではないんですけど、「高学歴だからちゃんと真面目に生きなきゃ」みたいな呪縛に取りつかれている子はいると思います。ずっと真面目に勉強をして生きてきて、ちゃんとしてきた自分とは真逆のキラキラしたアイドルに私も憧れました。学歴と直接関係があるかは分からないんですけど。

あろえ 現金なことを言ってしまうと、人によるかな。同じ大学出身の子でもアイドルに全然興味がない人もいれば、アイドルになりたいとまではいかなくても、ライブに行くとか文化自体が好きって人もいます。逆に高学歴の中にも、一般社会と同じく一定数は「アイドルになりたい」と思う人がいるということでは

 ただ、一般的にアイドルを目指すならダンス教室に通わせてほしい、歌を習わせてほしい、オーディションを受けたいと考える中高生の段階で、学校の事情でかなわないまま大人になって結局諦めた人もいるでしょうね。実行に移すだけの母数や下地がない分、たどり着ける人が少ないのかもしれません。

―― なるほど。進学校であればスケジュールが厳しく、そもそも芸能活動を禁止にしている場合もあるというイメージでしょうか。

なつぴ 私が大学でアイドルのコピーダンスをするユニドルの活動をしていて思ったのは、東大の女の子には「やりたいんだけど、そういうことをやってる自分がすごい恥ずかしい」という感覚がある。他大のキラキラしたユニドルの子たちがかわいく自撮りをしていても、自分たちはかたくなにしない。かわいいニックネームで自己紹介をしていても、「私たちは無理無理、そういうのは恥ずかしい」。

 自撮りはモザイク付きで、自己紹介も「はい、名前です」でおしまい。高学歴だからこそ、かわいいアイドルしぐさに憧れるのは恥ずかしいことだという意識は他の大学よりあるかもしれませんね。

あろえ 京大にはそもそもダンスサークルや、K-POP、ジャズダンスを踊る女子サークルはあっても、ユニドルのようなサークルがなかった。私が在学中に作ったんですけど、結局他の活動があるとかゼミが忙しいとか、大会を目指すほどの心意気がある子を集めるまではいかなくて、年に1回の文化祭のために期間前後は集まる団体として一応今も残ってるみたいではあるんですけど。

 近くの同志社さんや京都女子さんには、めちゃめちゃいっぱいアイドルコピーダンスのグループがあるんです。比較すると、「やりたい」って思っている人が少ないのか、「やりたいって言っちゃいけない」と思っているのかは分からないですけれども、なつぴちゃんが話したように心理的な引っ掛かりはあるのかもしれないですね。

あずき アイドルで成功することと、学業で点数を取ることって全然違うと思うんです。アイドルって、正解がないじゃないですか。今まで正解を目指してきた人たちが正解がないことへ向かっていくのってすごく難しい。勉強で点を取るには、今までの経験からこの道筋を進んだらいいと分かっているから怖くないし、社会的にも“いいこと”とされているから目指しやすい。

 アイドルでの成功は、それが社会的に正義とされているわけでもないし、自分の路線と全く違うベクトルで戦わなきゃいけない。今まで勝っていたプライドだけはあるからこそ「勝てないかも」って恐怖があるのかな。

りりり みんなの話を聞きながら「確かにな」と思いました。いろんなことが見えているからこそ、自制心が働くのか、そうは言っても変身願望は誰にでもあって、募集に反響があるのはそのせいかも。ハロウィーンの仮装なんてノリノリじゃないですか。普段の自分は保ちつつ、一方であずきちゃんがいう“社会人プリキュア”みたいな(笑)、メインストリームを歩きつつちょっとだけ横道にそれたい願望がある。それが大人になってからのアイドル活動へつながるのかなと思っています。

アイドル×誹謗中傷=? 高学歴が考える解

―― もちろん楽しいことばかりではなく、アイドルが誹謗(ひぼう)中傷の的になるケースは少なくなく、なつぴさんはアイドルを題材にしたアニメ番組「推しの子」テレビ放送時に関連した投稿が話題になりました。かつては「AKBに入るため東大にまで入ったのにオーディションで落ちた」というツイート(当時)で容姿を中傷された過去もあり、現在に至るまで中傷と闘っています。この問題についてどう思いますか?

なつぴ 今も完全に慣れたってわけじゃないんです。普通に生きていて知らない人からひどい言葉を浴びせられるってまずないじゃないですか。知らない人にいきなり悪口を言うなんてありえないことで、だから最初のうちは「あの人たちの曲がった精神をどうにかしてあげないと」って気持ちもあり、単純にムカついたので言い返していたんです。

 でも自分がすごく消耗してしまって、最近は「応援してくれる人の言葉だけ聞こう」って思うようにしています。前ほどは気にならなくはなりましたが、それでも自分の思ったことを発言すると全く知らない人が傷つくようなことを言うのっておかしい話だとは今も昔もずっと思ってます。

「学歴の暴力」なつぴなつ 「自分の思ったことを発言すると全く知らない人が傷つくようなことを言うのっておかしい話だとは今も昔もずっと思ってます」

りりり 私がたまに言われるのは「高学歴って言ってるけど九大?」。偏差値的には(グループ内で)私が一番低いので「だよね〜」と自分でも否定できない。ただ私個人は、りりりさんと私は違うキャラ、いわゆるメタ認識でいるのであんまり気にしていないんです。

 2つ思うのが、なつぴちゃんがボコボコにやりあってるのを見ると「たくましいな」って思う反面「元気か?」「うち来る?」と心配になる。第三者として見ていると、当事者の心理状況が文字以上の情報で読み取れないので、必要以上に心配になっちゃう。悪口を言ってる人のアカウントを時々見に行くんですけど、すべからく人生が辛そうなんですよ。心が荒んでいるな、日常は大丈夫なんだろうかと「君たちもつらいんだね」ってあわれむという裏技もあります。

 少しスケールの大きい話になるんですけど、女でアイドルでって社会的なポジションの低さも感じます。「こいつだったら言っていいだろう」って思われてるんだろうなって悲しい気持ちになりますね。ムキムキの屈強な男性だったらこんなに言われなかったのでは?

あろえ 私は小学校まで公立、中高からはいわゆる進学校で、小学校まではいじめがあったんですけど、中高大学はほとんどなかったんですよ。中傷って何も意味がない。言われた人も、聞いてる周りも嫌な気分になるし、利点があるとすれば言った本人の気分がスカッとするのかも? でも自分が嫌な気分になるリスクもあるんじゃないかな。そこまで分かっているからか、京大では無縁だったという認識があります。

 「何で人は誰かに気持ち悪いって言うんだろう」と一度こういう趣旨のツイートをしたらかなりの引用リツイートがつきました。正論だからか、直接リプライで反論してくる人はいなかったんですけれども、一言言いたくなっちゃったんでしょうね。その人たちの気持ちも共感はできないけど考えてあげなきゃいけないのかな。

 なつぴちゃんみたいに全部言い返そうかなって思うときもあります。でもちょっとスカッとするくらいで気をもむし向こうも嫌な思いするし、だからもう見ないでおこうって思っちゃうことが多いです。ただ言わない方がみんな幸せだよねとはずっと思っているし、それを高学歴の人には理解してる人が多いんじゃないかなって自分の経験から思っています。

あずき 中傷を受けても、私はそれ以上に自分自身が自分のことをよく思っていないので、「前に出てる以上、こういうこと言われるだろうな、自分には悪いところがたくさんあるし」とむしろ何か探してしまう自分もいて、自分で自分を痛め付けるつけるじゃないですけど何も言われないことに恐怖を覚えてしまうんです。半分は安心して、半分は言い返したくなる。自分も自分のことをいいと思っていないし、相手も誰かに感情をぶつけたいと思っているし、お互いさまだな、ありがとうって気持ちで適当に流してます。

―― 本来であれば学歴だけでも十分誇っていいはずなのに、お話をお聞きする限りそろって自己評価が高くないのが意外です。

なつぴ 自信がないからこそ、学歴で自信をつけようという面が私にはありました。アイドルをやっていても、自信というか自分のことをいいとは全然思わないですね。

りりり 3人に関しては、自省心なのか向上心なのか、自分自身に課すハードルがすごく高いと感じます。人と比べて十分いろんないい部分を持っているけど、良くも悪くも足りない部分をより伸ばそうって気持ちが強いみたい。みんな表だけじゃない裏方の仕事も、平日の仕事が終わってからこなしていて、普通にスペック高いじゃないですか。業務と並行してプラスαで活動できている時点ですごい。片手間じゃなくてどうやったら良くしていけるかまで考えているから尊敬しています。一方で、向上心が高すぎてちょっと息苦しくなっちゃうのかな。

あろえ 私の場合は、端的に言うと期待したくないんですよね。「自分はできる人間」と思っていると失敗したときにがっかりするじゃないですか。だから期待値を下げておくことによって人生を楽しくしたい。「もともとあんまりできない人間だし」って思っておくと失敗しても落ち込まないし、うまくいったら「ラッキー! よくできた」って喜べる。悪い意味で自分を低く見ているわけではなくて、毎日を楽しく過ごすための手段です。

「学歴の暴力」あろえあろ 「悪い意味で自分を低く見ているわけではなくて、毎日を楽しく過ごすための手段です」

―― その考え方は確かにライフハックとして生かせそうです。

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