『ぼっち・ざ・ろっく!』から生まれた異端の「酒クズ」スピンオフ 『廣井きくりの深酒日記』作者くみちょう&原作者はまじあきインタビュー(2/3 ページ)

» 2024年02月01日 18時00分 公開
[たろちんねとらぼ]
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はまじ:「意外と真面目にバンドのこと考えてるんだなー」とかは思いました。本編で飲まないとめちゃくちゃ真面目に考え込んじゃう「素面きくり」を出したんですけど、それはくみちょう先生のネームを見てから固まったキャラクターだったりします。

くみちょう:連載の1話はきくりさんとぼっちちゃんが出会うまでの裏話なんですが、実は最初に作ったネームは1巻の最後に収録されてる7話なんです。

廣井きくりの深酒日記 アルコールが抜けるとシリアスな表情に(7話17P)

――作曲に行き詰ったきくりがやけ酒した結果、終電で高尾山口駅に行ってしまい山の中で作曲する回ですね。確かにシリアスになって将来のことを思い悩む姿が出てきます。

くみちょう:それまでは「高校時代は陰キャだった」って設定くらいしか出てなかったんですよね。

はまじ:これを見て本編で酒を抜いて車を運転する廣井の回を描いたんです。スピンオフとズレないように設定を固めている最中だったんですが、「素面きくり」はくみちょう先生基準で決まりました。

くみちょう:逆に私はそれを見て「きくりさん、ちゃんと飲まないこともできるんだ、よかった」って安心しました。

――ちゃんとやめられるんだ、と(笑)。『深酒日記』はあくまでギャグとしての“酒クズ”キャラを扱ってるとは思うんですけど、お酒まわりの描写で気を付けていることってありますか?

はまじ:「手の震え」とかそういう笑えなくなっちゃう描写はしないように、というのは担当さんから一貫して言われてますね。

くみちょう:そのあたりは『深酒日記』の担当さんも含めてチェックしてもらってます。

――なるほど。実は自分もお酒の飲みすぎで膵(すい)臓の病気になって長期入院したことがあって、今は禁酒してるんですけど、だからこそきくりの生き様みたいなものに共感があるんです。飲みすぎはもちろんダメだけど飲まざるをえない人もいるというか、そういうちょっと悲哀の部分にグッときます。

廣井きくりの深酒日記 お酒による「幸せスパイラル」の弊害(6話1P)

くみちょう:女子高生の「結束バンド」は眩しすぎる、って人たちにはやっぱりきくりさんのほうが刺さるのかもしれないですね。

はまじ:ライブハウスが舞台なので世界を広げるためにも大人キャラは必要だ、っていうのは担当さんも言ってました。確かに「結束バンド」だけの話だったらもっとかわいい感じの話でまとまってて、廣井のファンになってくれたような層は取り込めなかったのかなと思います。

最高の“ファン”だからこそ描けた本編と相互に影響しあうスピンオフ

――はまじ先生の中で「こういう廣井きくりを描きたい」という部分と『深酒日記』でイメージのズレなどはなかったですか?

はまじ:最初はぼっちちゃんの師匠ポジションで出てきてかっこいい感じにしようと思ってたんですよ。だけどどんどん面白酒クズキャラみたいになっちゃって……自分の中では思っていたように動かなくなってました(笑)。

くみちょう:言ってましたね。そこが好かれてる理由でもあると思うんですけど。

――逆にくみちょう先生が描きたい「きくり像」というのもあります?

くみちょう:面白キャラとしての“酒クズ”の面はもちろんですけど、「本質はアーティスト」っていうのはちゃんと描きたいなと思ってました。ただの酒クズじゃなくて「1番は音楽」というちゃんと芯があるかっこいいお姉さん。

廣井きくりの深酒日記 音楽への思いは一途(3話15P)

はまじ:それを言われていいなって思ったし自分が間違ってたな、って思いました(笑)。

――原作者側が改心した(笑)。本編とそこまで相互に影響しあうスピンオフって珍しい気がします。

くみちょう:それ以外にもきくりさんのかわいいところや優しいところなど、いろんな魅力を出したいと思って。そのためには志麻やイライザとか巻き込まれてるキャラクターたちも好きになってもらう必要があるので、早めに「SICK HACK」の2人を好きになってもらおうと思ってましたね。

はまじ:私もスピンオフをやるってなったときに、廣井のキャラは立ってるけど他の2人は本編でもほとんど出てきてないから大丈夫かなって心配でした。

くみちょう:でも原作を読んだときにはまじ先生のキャラの作り方がやっぱりサービス精神溢れてるなと思ったんです。志麻さんとか数コマしか出てこないんですけど、きくりさんのかわりのお詫びで菓子折りを持ってくるとか。

廣井きくりの深酒日記 きくりのバンド「SICK HACK」の志麻とイライザ(2話21P)

――「ちゃんとした人なんだ」ということが分かるキャラになっている、ってことですか?

くみちょう:ただのちゃんとした人じゃなく「ここまでちゃんとしてんだ?」みたいなのがいいんです。それで大体人となりが分かるから、「日頃から事前に菓子折りを買っておく人で、菓子折りのランクも意識してる人なんだろうな」ってキャラができていく。普通はなかなかそこまでできないというか、やっぱりはまじ先生がすごいなって。

――なるほど……くみちょう先生もめちゃくちゃいい読者ですね。

はまじ:ありがたいです……! 『深酒日記』のおかげで志麻やイライザのキャラに深みが出たので、本編にもっと出しても大丈夫だなって。「SICK HACK」の3人で回す話があってもいいかもしれないです。

――そうした本編への逆輸入的なことを狙って始まったスピンオフなのかと思ってたんですが、戦略的にそうしたというよりはシンプルにくみちょう先生のキャラクター理解度が高すぎてそういう効果が生まれたと……(笑)。

はまじ:そうです。くみちょう先生が有能だから!

くみちょう:いやいやいや。いちファンとしては出しゃばりすぎかなあって思うんですが……だいぶ自由にやらせてもらってます。

はまじ:ぼっちちゃんたちが江ノ島に行ってるとき、「SICK HACK」はそうめん食べて平和に過ごしてたんだなあとか、作品をどんどん深く描いてくれるから本当にありがたいです。どんどんやってください!

【インタビュー出席者】くみちょう、はまじあき、COMIC FUZ編集部・高橋、まんがタイムきららMAX編集部・瀬古口、ねとらぼ編集部・たろちん

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