あなたは気付ける? ありえない加工がされた昭和戦前の振袖、ハッとする違和感に「製作者の意図なのか?」(1/2 ページ)
染色業界の常識の中ではありえない着物。
YouTubeチャンネル「着物お手入れチャンネル〜アンティーク着物再生京都森本〜」に投稿された、ありえない加工がされた着物が話題です。動画は記事執筆時点で6万4000回以上再生され、コメント欄には「解説すごく面白かったです」「製作者の意図なのか? 依頼者の要望なのか?」といった声が寄せられていいます。
「亀甲繋ぎの文様」と「花の丸」デザインの振袖
投稿主は、京都にある「染色補正森本」の代表を務める森本景一さん(@antiquekimono)。染色補正という着物の修復技術を極め、これまでたくさんの着物を再生してきました。
そんな森本さんが今回紹介するのは、ありえない加工があるという昭和戦前の振袖。色は、金茶色で「亀甲繋ぎの文様」と「花の丸」があしらわれたデザインです。当時は紫色系統が流行っていたそうで反対色となる金茶色は珍しく、目立つものだったとのこと。とても美しいですが、一体どこがおかしいのでしょうか?
違和感に気付いた投稿者
森本さんによると、昭和戦前までの振袖にはだいたい五つ紋がつけられていて、その場所はミリ単位できちっと決まったものだそうです。着る人のサイズに合わせた変動もほぼないとのこと。そして今回の振袖にも「丸に違い鷹の羽」の五つ紋が入っていますが、問題は胸の紋の位置です。
胸の紋の正しい位置は、肩山から紋の天までが鯨尺の四寸のところです。しかし右胸の紋はなんと肩山から五寸以上のところに入れられていたのです。森本さんが本来の位置に印をつけると、だいぶ低い位置にずれていることが分かります。
さらに左胸の紋は……右以上に下がっています。位置がずれているだけではなく、まさかの左右非対称。長年着物業界に携わっている森本さんでも、これを見て本当に驚いたそうです。
その理由は……
それでは、なぜこのようになってしまったのでしょうか? 昔、奢侈(しゃし)禁止令という、ぜいたくを禁止して倹約を推奨、強制する法令および命令の一群が出され、着物の全面紋様が禁止された時代がありました。そのときは半分ぐらいから下に模様が入る「腰高模様」が主流で、上は無地だったため五つ紋がキレイに入ったそうです。
ところが昭和に入ってから全面模様が復活。はじめのころはスペースを確保して紋を入れていたそうですが、だんだんと模様が優先されるようになり、模様の上に強引に紋を入れるようになっていったとのこと。その際、インパクトを付けるために模様に負けない彩色を紋に施したのだとか。
別誂で間違いないというこちらの着物。もしかしたら模様を優先して作った結果……後回しにした紋は模様の上に強引に入れる方法ではなく、模様の邪魔にならないところに入れられたのかもしれないとのこと。あくまで森本さんの考察なので推測の域を出ませんが、この着物を着ていたのは型にとらわれない人物だったのかもしれませんね。
紋の位置を変えるケースはほぼなく、染色業界の常識の中ではありえないという森本さん。しかし江戸時代は寸法が違い、胸紋は現在より15.2ミリ上に入っていたそうです。使っていた物差し自体が違い、現在は鯨尺で江戸時代は曲尺だったとのこと。
とんでもない加工がされ、森本さんにとってはショッキングな着物だったそうですが、今回もキレイに再生。シミや汚れがなくなり美しい姿を取り戻しました。不思議な着物と解説がとても興味深い動画でした。
YouTubeチャンネル「着物お手入れチャンネル〜アンティーク着物再生京都森本〜」では、着物の解説やお手入れに関する動画が投稿されています。また「染色補正森本」のWebサイトもあるので気になる人は遊びに行ってみると良さそうです。
画像提供:「着物お手入れチャンネル〜アンティーク着物再生京都森本〜」さん
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