「仮想と現実の境界についての問いがあります」 東京藝大の卒展で話題の“お嬢様人形”作者に制作理由を聞いた(1/3 ページ)
作品は「平成芸術賞」を受賞しています。【訂正あり】
1月28日から2月2日まで開催された「第72回 東京藝術大学 卒業・修了作品展」は、現代らしくさまざまな作品がSNSで多くの反響を呼んでいます。ねとらぼ編集部では“お嬢様アンドロイド”としてX(Twitter)で話題となった作品の作者であるマッキン愛奈(@LUKE_machina)さんを取材。その制作理由や今後の展望を尋ねました。
「仮想と現実の境界」を問う作品
話題になったのは、Xユーザーのよすかわ(@rdlf)さんの動画です。赤いドレスを身にまとった「お嬢様」のような人形が、“アンドロイド”のような無機質な表情をしながらも、お嬢様らしいしぐさを披露するミスマッチさが注目を集めるきっかけとなりました。
そんな作品の名前は「少女 通り過ぎていく人々のために」。巨大な少女の人形を模したインスタレーションであり、話題の投稿では“アンドロイド”とあるものの、実際にはマッキンさん本人が中に入って人形を操作しているとのことです。
本作において、マッキンさんは「アナログ/デジタル、人形/人間、過去/現在」といったさまざまな対になる関係を表現しており、それらの根幹には共通して「仮想と現実の境界についての問い」があるとしています。
例えば、人形のスカートの中をのぞくと、鑑賞者は“数秒前の過去の自分”の映像や写真を見ることができる仕組みになっているのですが、そこには「アナログ(肉体)とデジタル(データ)」「現在(映像や写真をまなざす自分)と過去(映像や写真に写る自分)」といったさまざまな境界が立ち現れるのです。
ドレスの赤色は「女性や愛、欲望、暴力、怒りを象徴する色」であるそうですが、スカートの中をのぞくという背徳的行為を通じて、そうした感情を包括した“自分自身”と対峙することになるというその構成には、思わずゾッとする感覚を覚えます。
「卒業制作にふさわしい集大成」として作成 今後は“ゲーム”に関心
平成建設による若手芸術家への奨学金制度「平成藝術賞」を受賞した本作は、いったいどのような思いから作られたのでしょうか。
なぜ本作を制作したのか、その理由について尋ねると「これまでの自身の活動を振り返り、卒業制作にふさわしい集大成としてこの作品プランをまとめました」とマッキンさん。制作の根拠にしている事柄は多々あるそうですが、今回は特に「“私だからこそ、今だからこそ、この展示だからこそ発表する意味のある”作品にすること」に気を付けたといいます。
作品の反響については「作品を多くの人の心に届けることができて、大変光栄に思います。私を支えてくれた家族や、協力してくれた友人達への感謝の気持ちで胸がいっぱいです」と感謝を述べつつ、「絵や彫刻だけじゃなくて、『こんなのもあるんだ!』と興味を持つきっかけを作れていたらとてもうれしいです」と、本作の鑑賞をきっかけに芸術への興味関心が広がることに期待を込めました。
また、今後の活動については「昨今“第10芸術”ともいわれるようになったゲームの要素を取り入れた、インタラクティブなメディアアート作品をチームで制作し、発表したい」とのこと。ゲームを「身体拡張の一種」と捉え、「大学院進学後は、これまでのテーマだった『仮想と現実』に『身体』も加え、研究をさらに深めていきます」と展望を述べました。
なお、マッキン愛奈さんは2024年6月から7月にかけて、平成記念美術館ギャラリーで開催予定の「第10回 平成藝術賞 受賞作家展」に新作を出展予定。正式な情報は平成記念美術館ギャラリーの公式サイトで更新されます。
【2024年2月15日修正】本文およびタイトルにおいて「仮装と現実」という表記がありましたが、正しくは「仮想と現実」でした。お詫びして訂正いたします
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