プリキュアの“恋愛描写”は20年間でどう変わった? 「彼氏」すら表現できなかったプリキュアがわんぷりで「カップル誕生」を描けるまでに至った理由:サラリーマン、プリキュアを語る(1/2 ページ)
プリキュア21年の「恋愛描写」の歴史を振り返ります。
「犬飼さん、僕は君が好きだ」
まさか、プリキュアでこんなにも甘いセリフが聞けるとは。
まさか、プリキュアで恋愛をここまで真正面から描くとは。
「カップル誕生」に大人のプリキュアファンも大きな盛り上がりをみせた、2024年10月の「わんだふるぷりきゅあ!」。
プリキュアシリーズで「恋愛」がどのように描かれてきたのか。プリキュアで「恋愛がタブー視」されていた時期があったのは本当なのか? プリキュアの「恋愛描写」の変遷を見ていきたいと思います。
kasumi プロフィール
プリキュア好きの会社員。2児の父。視聴率などさまざまなデータからプリキュアを考察する「プリキュアの数字ブログ」を執筆中。2016年4月1日に公開した記事「娘が、プリキュアに追いついた日」は、プリキュアを通じた父娘のやりとりが多くの人の感動を呼び、多数のネットメディアに取り上げられた。
- これまでのプリキュア連載一覧
祝カップル成立
「わんだふるぷりきゅあ!」絶好調です。
9月13日に公開された映画「わんだふるぷりきゅあ!ざ・むーびー! ドキドキ・ゲームの世界で大冒険!」(・はハートマーク)も興行収入11億5000万円を突破。歴代プリキュア映画で2位の興収を記録するなど、好調が続いています。
10月6日放送の第36話「特別なワンダフル!」では、かねて犬飼いろは(キュアフレンディ)に恋心を寄せる同級生の兎山悟くんがついに、いろはちゃんに告白しました。
戦いの中で、悟くんが「誰にもとられたくない存在」であることに気付いたいろはちゃん。夕暮れの海岸で「悟くんが特別なワンダフル」であることを告げ、晴れて2人はカップルとなりました。
その翌週の放送は「初デート」回。悟くんの「犬飼さん」呼びが「いろはちゃん」呼びになり、さらに手もつないじゃったりして、「悟くんといろはちゃんを見守る会」と化したSNS上の大人たちは、その甘すぎる描写に悶絶(もんぜつ)したのです。
友達の「好き」と恋愛の「好き」の違いを、恋愛の概念がよく分からない犬のこむぎを通して子どもたちに分かりやすく説明していたのも良かったですよね。
下世話な言い方にはなりますが、ついに「彼氏持ちのプリキュア」が誕生しました。これはプリキュア21年の歴史をみても画期的な出来事なのです。
プリキュアシリーズで描かれてきた恋愛
とはいえ、21年もの長い歴史のプリキュアシリーズでは過去作においても数多くの「淡い恋愛描写」はありました。
初代「ふたりはプリキュア」の美墨なぎさ(キュアブラック)は藤P先輩に淡い恋心を抱いていました。以降のシリーズでも「スプラッシュスター」の日向咲(キュアブルーム)は、美翔舞(キュアイーグレット)の兄、和也さんに憧れ、「Yes!プリキュア5」の夢原のぞみ(キュアドリーム)はパルミエ王国の王子、ココとの恋愛模様も描かれました。
初期のプリキュアは「年上のお兄さんに憧れる」少女漫画的な恋愛が描かれることが多かったように思います。
以降「フレッシュプリキュア!」では桃園ラブ(キュアピーチ)に恋する同級生、知念大輔が告白するも最終回で「言っわなーい!」と答えをはぐらかされたり、「スマイルプリキュア!」では日野あかね(キュアサニー)と、英国の青年ブライアンとの淡い恋愛模様が描かれたりもしました(あの第36話「熱血!?あかねの初恋人生!!」は名作中の名作ですよね)。
その他にも数多くのコメディータッチの「淡い恋愛」は描かれてきましたが、恋愛要素をストーリーの主体に置くことはなく、答えを出して2人の関係性が大きく変わるような直接的な恋愛はプリキュアではほぼ描かれてきませんでした。
恋愛を描くことはタブーだった?
プリキュアに「直接的な恋愛の物語」が少ない理由について、プリキュアの脚本を数多く手掛けている成田良美さんは、2013年刊行の書籍『プリキュアシンドローム』(幻冬舎)の中で、当時は保護者側から「恋愛は避けて欲しい」という反応があり、徐々に恋愛描写が薄まっていったことに言及しています。
成田 やはり視聴者が三、四歳の女の子なので、保護者の方たちからも「恋愛はちょっと……」という反応があり薄まった形です。私が小さい頃に見ていたアニメでは本気で恋愛をやっていたんですけど、いまはあまりないみたいですね。
幻冬舎『プリキュアシンドローム! “プリキュア5”の魂を生んだ25人』(P263)
また成田さんは、恋愛を主軸とした「ハピネスチャージプリキュア!」(2014年)を手掛ける際にも、「プリキュアで恋愛を描くことはタブーになりつつあった」「恋愛エピソードは避けてほしいと言われる」こともあり、プリキュアで恋愛を描いて良いか何度も確認したことを、後にオフィシャルコンプリートブックの中で語っています。
成田 『プリキュア』は子どもが観るということもあって、恋愛を描くのはタブーになりつつありました。実際に脚本を担当するときも、恋愛のエピソードは避けてほしいと言われることもあるくらいで。ですが、今回は長峯さんが「やりましょう」と言ってくれたので、「ついていきます」という気持ちでしたね。
ただ私自身が長く『プリキュア』に関わっていることもあって、「本当に書いていいんですか?」と何回も確認しました。
学研プラス『ハピネスチャージプリキュア! オフィシャルコンプリートブック』(P80)
この「ハピネスチャージプリキュア!」はまさに「恋愛」を一つのテーマとした作品で、主人公の愛乃めぐみ(キュアラブリー)と神様ブルーと幼なじみの相楽誠司くんの三角関係が物語の主軸に置かれ、最終的には愛乃めぐみがブルーに失恋してしまいます。
「主人公プリキュアが失恋する」という衝撃的な展開は大きな話題となり、その後に相楽誠司くんと「ちょっとだけ良い関係に進展した」描写で最終回を迎えることになりました。
このように、一度は「恋愛」にチャレンジしたものの、以降の作品ではその反動なのか「恋愛」は大きくフィーチャーされることはなく、あくまで物語に華を添える程度の描写が続きます。
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