「遠隔地とキス」を発展させると「どこでもドア」になる? 触覚デバイスがもたらすコミュニケーションの未来像とは:あの“梶本研究室”に行ってみた(前編)(2/3 ページ)
電気通信大学のある学生が「遠隔地の相手とキスができるデバイス」を作った。電話やビデオチャットでは伝わらない「触覚」を、もし遠距離の相手に伝えられるとしたら――。同デバイスを開発した、電気通信大学 梶本研究室に「触覚デバイス」の未来を聞いた。
研究から実用化へ――「ハンガー反射」デバイス
もう1つ面白かったのが、「ハンガー反射」への疑問から生まれたという「側頭部圧迫による反射運動の研究」だ。開発者の1人である佐藤未知さんによれば、現在これは特許出願中で、医療目的での臨床研究も進められているという。
ハンガー反射とは、針金のハンガーを頭に装着すると、自動的に頭が横を向いてしまう現象のこと。それなら同じように、側頭部に一定の圧力を加えれば人間の頭の動きを自由に制御できるのではないか――と考えたのが研究のきっかけだ。
デバイスは頭にかぶって使用し、4方向に突き出た出っ張りが、装着者の頭部を圧迫する仕組み。圧迫の強さを変えることで、装着者の頭を好きな方向へ向けることができるという。
筆者も半信半疑で試してみると、確かに自分の意志とは関係なく、首が左右に動いてしまう。もちろん抵抗することもできるが、何というか「体の軸をずらされる」ような感覚があって、ある程度意識していないと正面を保つことができない。まるで巨大な見えない手に「こっちを向け」と頭を捕まれているような感覚だが、デバイス側では「ねじる」力は一切加えていないというから面白い。
現在、この研究は「斜頚(しゃけい)」と呼ばれる、首がある方向へ勝手に向いてしまう病気の治療に使えないか臨床研究が進められているとのこと。治療に使う場合はここまで大がかりなデバイスは必要なく、個人の症状に応じて一定の強さで圧迫するバンドのようなものが使われるという。
「2年前くらいにこの研究がNHKで紹介されて、それをたまたま見ていたお医者さんから連絡があったんです。この病気は治療法がまだ確立されていないんですが、この装置を使うことで勝手に首が動いてしまう力をある程度打ち消すことができる。現在は患者さんにもに使ってもらいながら、さらに研究を進めているところです」(佐藤さん)
「触覚」ならではの新しい体験
オープンラボではこれ以外にも、梶本研究室の様々な研究成果を実際に体験してみることができた。以下、面白かったものを紹介していこう。
腕をアリが這い上がってくる「虫HOW?」
これは研究室本来の研究とは別に、「IVRC(国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト)」というコンテストに出展するため、研究室の学生がチームを組んで製作したもの。その名のとおり「虫が這う」感触を再現したもので、出展された「IVRC 2007」では総合優勝に輝いている。
モニタには地面が映し出されており、ヒジまである特殊な手袋を装着してそれに触れると、地面を歩いていたアリたちが少しずつ腕を這い上がってくるという仕組み。手袋の内側には短い釣り糸(テグス)が飛び出ていて、それが小刻みに動くことで「虫が這う」感覚を再現しているのだが、確かにアリがモゾモゾと這っているような感覚。設定によっては「アリ」ではなく「ゴキブリ」で体験することもできるが、こちらはリアルすぎて泣いてしまった体験者もいたそうだ。
声優が耳もとでリアルにささやくヘッドフォン
ヘッドフォンに触覚刺激を加えることで、よりリアルな音響体験が得られるのではないか――という研究がこちら。耳たぶ部分に振動アタッチメントが付いており、「音の震え」に応じてアタッチメントが振動するため、まるで耳元でささやかれているかのような感覚が味わえるという。
実際聞いてみると、確かにすぐ耳元でしゃべっているような「空気の震え」が伝わってくる。そのほかアクション映画などもこれで見ると、爆発シーンのたびに耳たぶがぶるぶると振動し、まるで音響の効いた映画館で見ているような感覚が得られるのも面白かった。
ヘッドフォン自体の音響性能とは関係なく、ユーザーの音響体験を増幅できるという点は興味深い。臨場感がより増すという点では、恋愛ゲームやホラーゲームなどに活用しても面白そうだ。(こちらの動画では実際に「ラブプラス」や「ナナシノゲエム」で実験している様子も)。
指を動かしていないのに「動かしている感覚」?
金色の電極部分に人差し指を置くと、指を動かしていないのに、まるで指を滑らせているような錯覚が得られるというデバイス。仕組みは単純で、例えばデバイス側で手前側へスクロールするように電流を流すと、置いている指の方はまるで奥側へと指先を滑らせているような感覚が得られるのだそう。
電気刺激を用いているためか、指先がピリピリとしびれるような不快感はあるものの、なるほど確かに指先が滑っているような感触がある。この技術を応用すれば、スペースを節約しつつ、なおかつより直感的な操作が可能な、新しいタッチパッドなども提案できるという。
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