クリエイターにチップを贈れる「Grow!」で米国へ Twitter仲間と起業したバンドマン(1/2 ページ)
「Grow!」はクリエイターにチップを贈れるプラットフォーム。「なぜいいコンテンツを作っても、無名の人はもうけられないんだろう」と悩めるバンドマンが一念発起して起業し、開発した。7月には本社機能を米国に移転する。
「なぜいいコンテンツを作っても、無名の人はもうけられないんだろう」――カズワタベ(渡部一紀)さん(25)はバンドマンだった1年前、途方に暮れていた。ネットで曲を公開するとたくさん「いいね!」されるにも関わらず、自主制作でCDをリリースしても、ライブを開催しても収益面はうまくいかない。「いいものを作れば素直に収益を得られる仕組み」が欲しい。
大学卒業後に就職せず2年間バンドに専念してきたが、欲しかったサービスを作るために音楽活動を休止することを決意。一念発起して起業し、作ったのがクリエイターに“チップ”を贈れるプラットフォーム「Grow!」だ。7月には会社の米国移転を控えている。彼の人生と、Grow!に込めた1人のクリエイターとしての思いをひも解いてみよう。
Twitterに出会いが
ワタベさんは洗足音楽大学出身。在学中に同級生らと結成したクラブジャズバンド「Tough&Cool」のギター兼プロデューサーとして、ライブや作曲活動に明け暮れてきた。卒業後は好きだったバンドに専念するため実家に留まり、就職もしなかった。とは言えバンドの収入は限られていたため、企業のサイト運営のアルバイトをしながら生活していた。
Tough&Coolは自主制作したファーストアルバムを2009年8月に全国リリース。CDは700枚ほど売れたが、収益はゼロに等しかった。音楽業界全体でCDが売れなくなっている上、ライブの収入は「たかが知れている」。ワタベさんはバンドのプロデューサーとして、「(ファンに)同じ方法でアプローチし続けるのは最適なのか」と自問した。ある程度のお金を稼げなければ「バイトでもしていない限り、コンテンツ(曲)を作り続けることはできない」からだ。
一方で、ブログやMySpaceにアップロードした曲はたくさんの人に聴いてもらえたし、評価してくれる人も多かった。うれしい反面、ネットで「いいね!」してもらうだけで、直接収益を得られないもどかしさを感じていた。有料でダウンロード販売する方法も考えたが、ユーザーがお金を払うのをためらって視聴すらしてもらえなければ、SNSで話題になった時の「拡散性が最大限活用できない」とためらっていた。
「なぜいいコンテンツを作っても、無名の人はもうけられないんだろう」とずっと疑問に思っていた。ネット上では気軽にコンテンツを発信できる一方、提供側に知名度があるなどクオリティーが担保されていない限り「基本無料で提供するもの」として捉えられがちと、ワタベさんは言う。ここを打開したかった。そんなとき、後に起業仲間となる一ツ木崇之さんとTwitter経由で出会う。
ツイートボタンやFacebookの「いいね!」ボタンに目を付け
ワタベさんのTwitterアカウント(@kazzwatabe)のフォロワー数は約7700。ネットが大好きで、Twitterユーザーとのオフ会はほぼ毎日のようにやっているそうだ。それゆえ面識のない一ツ木さんと「お茶する」のも特にためらいはなかったという
ワタベさんと一ツ木さんはもともとTwitterのフォロワー同士。面識はなかったが、ネットでひんぱんに交流していた。2010年の夏、当時ベンチャー企業を経営していた一ツ木さんからTwitterで「お茶しよう」と誘われた。以前からつぶやきを見ていて一ツ木さんを「面白そうな人だ」と思っていたこともあり、ワタベさんは快く承諾。すぐに意気投合した2人は、改めてもう1度会うことにした。
ワタベさんがネットに感じていたジレンマを一ツ木さんに話してみると、2人とも同じ違和感を感じていることが分かった。それは、コンテンツの対価を直接ユーザーから受け取らず、ページに広告を載せることで間接的に儲ける収益モデルだ。これでは広告ありきでコンテンツがないがしろになってしまう可能性があると2人は懸念。ユーザーが価値を感じたコンテンツに、素直にお金を払う仕組みがあれば――と議論はどんどん盛り上がった。
2人が目をつけたのは、外部サイトに手軽に設置できるFacebookの「いいね!」ボタンやツイートボタン。ボタンを通じてコンテンツの名が知られていくその瞬間に課金できれば、無名のクリエイターでも稼ぐことができるのではないかと考えた。こうして、専用ボタンをクリックするとクリエイターにチップを贈れるGrow!の原型が出来上がった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.