みなさん、縄で縛られたことはありますか?
筆者は先日、生まれて初めて縄で縛られる体験をしました。内容はM字開脚のまま全身をイスに縛り付けられるという、なかなかハードなもの! デザインフェスタの「きまぐれ緊縛体験」ブース取材中、経験豊富な縛り子さんの手を借りてのできごとです。
なぜいま緊縛なのか
縄で体をきつく縛る“緊縛文化”を題材にした作品が、ここ最近さまざまな形で登場しています。
例えば映画「自縄自縛の私」が来年2月公開されます。「女による女のためのR-18文学賞」の大賞を受賞した、同タイトルの小説を映画化。人に隠れて自縛に興じるヒロインの心境を描いた作品です。ほかにもSMマンガ「ナナとカオル」の劇場版2作目が今年に公開。かわいいマスコットを亀甲縛りにした「緊縛ストラップ」なんてものも、デザインフェスタにはありました。
でも分からないのが、「どうして体を縛るの?」ということです。「自分を縛ることで自分を解き放つ」――「自縄自縛の私」の公式サイトにはあります。体を縄で縛って“自己解放”とは一体どういうことなのでしょうか。
はじめての緊縛体験
イスへの縛りつけが完了したとき、M字開脚の筆者は焦りを感じていました。両腕を後ろに組んで、股を大きく開いたまま、本当に身動きが取れない。動かせるのは、首から上、手首から先、膝から下くらい。ここまで自由が利かなくなるなんて……。
驚いたのは一瞬で、すぐさま恥ずかしさに襲われます。
縛られている場所は、「きまぐれ緊縛体験」のちょっとしたお立ち台。デザインフェスタの来場者が30人ほど立ち寄って筆者の姿を見ていきます。中には制服を着た女子高生も……これは恥ずかしい。数少ない可動部である首を使って、必死にうつむきます。
「みなさん、普段お仕事をがんばっておられるでしょうこのお方の、情けない姿をみてください!」
ぎゃー!! できる限り恥ずかしさから逃れたい筆者に、観客の視線を浴びさせる厄介なMCが。ブースの主催である、「東京棲んでるガールズ」メンバー、しんろくさん(@scene6)です。
「そこの女子高生、この大人のだらしない姿をみていかがですか!?」
ちょ、ホント勘弁してくれ、その子に一番見られたくないんだ。
「あなたも顔をあげて、女子高生の目をみるんです!(と言ってグイッと筆者のアゴをあげる)」
ひいいいいいい。黒髪の文化系っぽい女子高生が、メガネ越しに自分を見ているー!
一方、悲惨に思いながらも、会場に笑いを生みだすMCに救われているところも。巧みな話術のおかげで、ハードな状況もピエロになった気分で乗り切ることができました。
そんな中、欠かすことができないしんろくさんのMCに、気になる一言が。
「育ててきた息子がこのような姿になっているなんて知ったら、ご家族の方はどう思われるでしょうか!?」
父さん、母さん――。実家の鹿児島から食べ物やお金の仕送りをして、都会に暮らす自分を支えてくれました。今、息子は東京ビッグサイトにて、赤い縄で縛られています。M字開脚です。
も、申し訳ねえ……。
縛られる=恥ずかしい、という一般的な認識を、かろうじて筆者も持ち合わせていたようです。ブースにはいない家族や友人といった、心の内に描く、がっかりさせたくない人への背徳感。人に隠れて緊縛行為に興じる人たちの心境に、相通ずるものなのではないでしょうか。
緊縛は一種の破壊セラピー?
しかし反面、やってやったぜ! というすっきり感もあったのです。
してはいけないと思い込んでいることを、大胆に行うと気持ちいいもの。お皿を割ってストレスを発散させるお店「皿割りカフェバー」なんてものが話題になったくらいです。物を壊してストレスを解消する「破壊セラピー」は、海外ではれっきとした心理療法だそうです。
「自分のダメなところも認めてほしいという欲求は、失敗の許されない人間ほど持っていても不自然ではないです」としんろくさん。
「『きまぐれ緊縛体験』は、ギャラリーは多いけれど確率的に再会する人はほぼいない。社会的ダメージはほぼゼロという、見た目のわりにクリーンな行為です。たぶんこれでギャラリーが家族や親族だったら、ごめんなさいや背徳感では済まなかったはず。安全に危険な思いを体験する、そういうツールとして緊縛は存在しているようです」(しんろくさん)
筆者へのまなざしが珍獣を見るかのようだった女子高生と、また出会う可能性は極めて低い。人にはないしょで緊縛したときと、ほとんど同様の後ろめたさと解放感を味わっていたのです。
「自縄自縛の私」の“自分を縛ることで自分を解き放つ”とは。見られたくない相手に隠れた安全なところで、後ろめたくなる行為をしてストレスを解消させることでした。
一見共感しにくい緊縛文化も、抑圧的な社会でストレスをかかえて暮らす人にとっては、大きくうなずける要素を持っていたのです。あらゆる作品に登場するのも、緊縛が人々の心に響くテーマであるからといえるでしょう。
縛られた筆者の写真をみて電話をかけてくるであろう両親も、きっと許してくれるに違いない……はず。
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