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穂積さん、初の作品集「式の前日」がいきなり売れた理由

ネットで話題となり、デビュー作がいきなりのヒットとなった穂積さんの「式の前日」」について聞いてみた。

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 コミックのヒットというと、固定読者をつかんだ連載作品をまとめた長編がほぼ占めてしまう。そんなセオリーのなか、デビュー作がいきなり注目された作家がいる。

 2010年にデビューした穂積さんの初の作品集となる「式の前日」は、Twitterやまとめサイトなど、ネットを通じた口コミで評判が広がり、発売後わずか3日で増刷が決定。2カ月後には、初版の約10倍の部数まで伸びるヒットとなった。

 著者の穂積さんは、2010年にコミック誌「月刊flowers」の新人賞で2位に当たる「銀の花賞」を受賞した。その受賞作が表題作ともなっている「式の前日」だ。

 「式の前日」は、結婚式の前日、縁側のある日本家屋で過ごす男女の姿を描いた作品。わずか16ページの作品だが、ラストには思わぬサプライズが。ほか5作も淡々としたリズムで進みながら、最後にずしんとくるメッセージがあり、思わず読み返してしまう展開となっている。その気持ちをシェアしたいと思う読者の声がTwitter上で「何度も読み返したくなる短編」などと口コミを誘発したようだ。

画像 「式の前日」(穂積・著)450円
(C)穂積/小学館フラワーコミックスα

 担当編集者である小学館月刊flowers(フラワーズ)編集部の戸叶研人氏に話をうかがった。

「売れ方の傾向としては、“口コミ”での影響が強かったです。Twitterなど、SNS上の“きわめて個人的な感想”の力強さを、あらためて実感しました。特に書店員さんから多く支持をいただいたのも大きい要因かと思います。時に『ステマでは?』と思われるケースも最近はあるのかもしれませんが、SNSの影響力とスピード感はヒットを生み出す強い味方です」

 穂積さんの作品についての評価は従来より高かったが、かといって特に宣伝に力を入れたわけではなかった。

「収録作品自体が連載作品ではなく、読み切り短編という点。そして何より、著者の知名度がまだ低い状態でのリリースのため、十分な部数設定も宣伝もかけられませんでした。宣伝担当者が作品を気に入ってくれ、頑張ってはくれたのですが、やはり口コミの力が強かったですね」

 月刊flowersの読者は高校生から30歳代を中心に50歳代以上の女性までと幅広い。子供の頃からマンガ好きで、ともに成長してきた女性がマンガを卒業せずに読み続けるに値する、知的好奇心旺盛を満たす作品を提供している。

画像 月刊 flowersは毎月28日発売、定価550円

 「式の前日」では、収録作6編の多くが身近な家族との関係を描いており、従来の少女マンガの枠ではくくれない作品がそろっている。これも、少女マンガのセオリーにとらわれない、作品性を追求したマンガを掲載できるフィールドがあったことから生まれたといえる。

「収録されている作品はすべて、ラストにちょっとしたサプライズがあるいとう特徴がありますが、それは特に優先的に意識している部分ではなかったと思います。あくまでも、『大切な人だから大事に思う』という、本来人間が持っている感情の部分をモチーフにし、それをキャラクターや物語に昇華されています。穂積さんの魅力と武器は、作品のジャンルや枠にとらわれない“普遍性”だと思います」

 穂積さんは月刊flowersにて、「さよならソルシエ」という初の長編を連載中だ。

「12月28日発売の月刊flowers掲載分で、5話めになります。初の本格連載ということもあり、穂積さんにとっても挑戦作、意欲作です。有名な画家・ゴッホと、知る人ぞ知る実弟・テオドルスの物語で、19世紀末のパリを舞台にした伝記ロマンです。画家として、かたや画商として、2人とも生前は決して輝かしい人生を歩んだわけではありませんが、のちの画壇界に多大なる影響を与えたわけです。そんな“切なさ”とヒロイズムが同居した作品を目指しています。個人的には、いわゆる“青春もの”ととらえていたりします」

 担当編集者の戸叶さんから見た穂積さんの作品の魅力は、「別れ」の描き方にあるという。

「すべてではありませんが、『式の前日』をはじめ、ほとんどの作品には別れのシーンがあります。大切な人との別離、死別、すれ違い……。それを、悲しい出来事としてではなく、希望に満ちた新たなスタートとして描いている点に、一読者として元気になれます。連載中の『さよならソルシエ』でも、穂積さんが紡ぐ独特な日常感と、終盤のに期待してください。『ソルシエ』は魔法使いという意味なのですが、タイトルに込めたものも含め、ラストに大きなサプライズがある…かもしれません」

 戸叶氏も、今回の売れ行きでネットの口コミ力を実感した。しかし、その根底にあるのは書店の、書店員の力があってこそだと語る。

「作品をリリースする際に出版社側ができることには限界があります。どれだけ素敵な作品を作っても、どれだけキャッチーな装丁まわりを考えても、どれだけ印象的な販促物を作っても、(ネット上も含めた)書店という場が読者には最初で最後の接点であり、最終的に書店員さんから読者に“届けてもらう”わけです。作品の売り方を考える際、書店さんでの売れ方をイメージすることが、今後も重要になると思います」

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