昨年4月に開催され、現役プロ棋士がコンピュータ将棋ソフトに大きく負け越して話題になった「第2回将棋電王戦」。今年開催される第3回に先駆けて、船江恒平五段が将棋ソフト「ツツカナ」に再戦を挑む「電王戦リベンジマッチ」が12月31日に開催されました。
前回、ツツカナにあと一歩のところで逆転負けを喫した船江五段。何度人間が優勢を築いても決して動揺せずに喰らいついてくるコンピュータ将棋の強さを、多くの人に印象付けた対局でした。敗れはしたものの船江五段はその後もツツカナを研究パートナーとして活用しており、「ツツカナと新婚生活をしているようなもの」と語るほどの相思相愛ぶりは棋士と将棋ソフトの新しい関係性として話題に。プロが2度も同じソフトに負けてしまえば格付けがはっきりしてしまうというリスクはありますが、「ツツカナともう一度指してみたい」との想いから今回のリベンジマッチに名乗りを上げました。
プロの意識を変えた電王戦
対局・解説会場となったのは、この日を最後に移転が決まっている原宿・ニコニコ本社。会場には200人近いファンが詰めかけ、会場の外にまで人があふれるほどの盛り上がりを見せました。
解説陣は前回と同じ鈴木大介八段と聞き手の藤田綾女流初段に加え、ともに電王戦を戦い終局後の涙が話題を呼んだ塚田泰明九段が登場。第2回電王戦の結果はプロ棋士達のコンピュータ将棋に対する意識も大きく変えたようで、「電王戦をきっかけに、自分の指した将棋をソフトで分析して研究するようになった」というエピソードも披露されました。
前回の指し手をなぞる展開に
序盤は30手を過ぎるまで前回とまったく同じ指し手で進むという展開に。人間が同じ手を指してもツツカナはランダムで指し手を変えることがあるのですが、この日はたまたま前回と同様の進行が続いたそうでまさに「リベンジマッチ」にふさわしい局面に進んでいきました。また、時間の使い方は対照的で、常に1手を数分考えるツツカナに対し、船江五段は序盤をノータイムで進めソフトの得意な中盤〜終盤に持ち時間を残す作戦。十分にコンピュータ将棋対策を立ててきた様子をうかがわせます。
ちなみに解説の鈴木八段は前回の電王戦後、船江五段と改めて指し手を検討したそう。船江五段が鈴木八段の考えた手を聞いて「いい手ですねー」と言ったというまさにその局面が登場すると、「ここで船江君が僕の言った手を指すかどうかで僕たちの友情が試されます」と盛大にフラグを立てます。案の定、船江五段があっさりと違う手を指すと、鈴木八段は「なんて奴だ!」と声をあげ会場の笑いを誘っていました。
豪華ゲストも多数
電王戦恒例の「素敵なゲスト」には中学生美少女棋士として人気の竹俣紅女流2級などが登場し、コメントは大盛り上がり。また、電話コーナーの「ティロフォンショッキング」には、「リベンジマッチ」という棋士には珍しいカタカナでの題字を書いた船江五段の師匠・井上慶太九段などが出演しました。ちなみになぜ「ティロフォン」なのかというと、ニコ生で頻繁に流れる将棋アプリのCMで西尾明六段が奏でる速弾きギターに合わせた「ティロティロティロティロ」という弾幕からとられたようです。なお、公式の曲名も「ティロティロ」になってしまったもよう。
完璧な指し回し
先に前回の進行と違う手を指したのはツツカナ。この攻めには無理があり、解説陣は船江五段有利の見解を示します。ただし、わずかな気の緩みであっという間に逆転されてしまうツツカナの恐ろしさはすでに経験済み。昼食休憩後には早くも船江五段が待っていた勝負所となり、節約していた持ち時間を一気に投入して長考に入ります。
局面が二転三転した前回とは違い、気力体力の充実した状態で読みを入れる船江五段は、完璧な指し回しでツツカナに逆転の隙を与えません。逆にツツカナの攻めが緩んだ瞬間を見逃さず、最後は“詰め将棋の名手”の面目躍如でツツカナの王を鮮やかな即詰みに討ち取り、85手で勝ち。「10倍返しで勝ちたい」という対局前の宣言通り、完璧な勝利を収めました。
終局後の感想では「楽しく指せました」と笑顔を見せた船江五段。事前対策の立てやすさなど船江五段に有利な条件はありましたが、それでも練習での成績は「五分五分」だったというところにツツカナの強さが感じられます。
ツツカナ開発者の一丸貴則さんが、記者会見後に慣れない正座で足がしびれてしまった場面では、会場も一丸さん達も爆笑。相思相愛の両者らしく、最後は和やかな雰囲気での終了となりました。
この日のために禁酒をして臨んだ船江五段。勝利の美酒で一年を締めくくることができたようです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 安倍首相がサプライズ登場で振り駒 「第3回将棋電王戦」対戦カード発表、小田原城も会場に
「第3回 将棋電王戦」の発表会に登場した安倍首相。「ニコニコ動画は思い出深い場所。参議院選や総裁選時も出たので、ホームグラウンドだと思っている」と話した。 - 森内名人、必勝の「カツカレー定跡」で竜王奪還なるか なぜかカレーに注目が集まった竜王戦第5局、結果は……
今シリーズ、カツカレーを食べた対局は全て勝っている名人。 - 将棋竜王戦のニコ生解説に羽生三冠 全タイトルホルダー出演+電王「ponanza」導入で将棋界の英知が集結
絶景の対局部屋や大人気のおやつなど、勝負以外のおもしろポイントに注目してみました。 - 第3回将棋電王戦の出場プロ棋士5人が決定 「実力も話題もドラマもあるメンバー」
既に決まっていた屋敷伸之九段を含む出場棋士5人がニコファーレに集結。毎度おなじみのカッコイイPVも公開されたぞ。 - 「第3回将棋電王戦」開催決定 A級棋士らが参戦、出場ソフトは統一ハードを使用
プロ棋士側は本番と同じソフトおよびハードで事前に練習対局ができるなどルール変更も。 - 昨日の敵は今日の友――「電王戦タッグマッチ」開催 電王戦の棋士&将棋ソフトが再び集結
初戦と決勝の解説は森内俊之名人が担当。かっこ良すぎるプロモーションビデオは必見です。 - 200万人が目撃した激戦をもう一度 「将棋電王戦」がDVD化
8月23日より限定発売。 - 囲碁vs将棋 プロ棋士が「人狼」「麻雀」で戦う企画をニコ生で放送
ニコニコ超会議2の囲碁vs将棋7番勝負は将棋棋士の勝ちだったが、今度はどっちが勝つ? - 運営さん、ちーっす! ドワンゴの新オフィスに行ってきた
7月に移転した新オフィスではフリーアドレス制を採用。チームの垣根を越えたコミュニケーションを促進します。 - 「ラブライブに精神世界を全部持っていかれるかと」 高橋九段のブログが話題、9割は2次元の話
ブログは3月にスタート。萌えアニメや声優にハマっているみたいです。