歌いにくいからこそ歌われる――ボカロ曲がカラオケで人気な理由、JOYSOUNDに聞いた カギは「攻略」(2/2 ページ)
「JOYSOUND」で配信されているボカロ曲は全3500曲。その管理を手がける担当者が「ボカロ×カラオケ」を熱く語ります。
ひとりの担当者が月に50〜60曲を選出
――聞いていると、別にボカロを会社全体の戦略として推進したわけではないんですね。
石井 ただ、私自身のことを言うと、2009年に「リアルタイムリクエスト」の担当者になったとき、ボカロや東方アレンジのリクエスト数の多さに驚いたんですね。当時はボカロに詳しい人間も社内におらず、私自身も初音ミクという名前を聞いたことがあるくらいでしたが、非常に可能性を感じました。なので、「これはチャンスかもしれない」と思いまして、ボカロや東方系楽曲の入曲に力を入れました。
――以降は、石井さんが選んでいるのですか?
石井 そうです。スピードが勝負なので、私が1人で月に50〜60曲を選出しています。最近のボカロの状況を見ていると、ニコ動にライトユーザーが増えているので、どうしてもランキング上位など目につきやすい位置にある曲にアクセスが集中している現状が見受けられます。そうすると、良い曲であっても埋もれてしまうんですね。だから、埋もれた良曲をなるべく引っ張ってきて、弊社の子会社にあたる音楽出版社と連携しながら、なるべく多くの人に広めていきたいと考えています。
例えば、音楽出版社が関わるイベントで以前ご一緒した声優さんのネットラジオ番組でボカロのコーナーを持っていると知り、その番組のスポンサーとなって、自分がボカロ楽曲やボカロPさんの紹介をしたり、ゲストに招いたりするといった活動も行っています。
――あの……ちょっと個人的な質問をさせて欲しいのですが(笑)、普段はどんな風にボカロを聴かれているんですか?
石井 えっ(笑)。
……まず会社に来たらニコ動を立ち上げて、ひとまずランキングはチェックします。あとは、日付でソートして、新着の動画を聴いていきます。
――人気の楽曲を素早く入れるのは重要だと思うのですが、やはりその判断は人気の歌い手に歌われているかですか……?
石井 いえ、それは判断の一部に過ぎません。一番重視しているのは、やはりマイリスト数です。カラオケで歌われやすいのは、再生数が多い楽曲よりも、やはりマイリスト数が多い楽曲なんです。それ以外については、「これは良い曲だ」と思ったPの方の作品を音楽出版社の方で預からせていただき、カラオケ配信を行ったりしています。
例えば、最近ではツマーさんやyksbさんはこれから伸びていく方だと思いますね。
――かなり新着を真剣に探す感じになりますよね。
石井 そうですね。新しいPの人を見つけてはTwitterでフォローしているので、新着告知のツイートから聴きに行くことも多いです。もちろんニコ動にメアドを書いている方たちばかりではないので、相互フォローになった瞬間にDM、という感じです(笑)。
あと、最近はもうみんな忙しくなってしまったのですが、初期の頃はボカロP同士がとても仲が良くて、一緒に飲み会などを開いていたんですね。そこに顔を出して挨拶をして、顔を覚えてもらったりしていました。
――地道ですね(笑)。
島村 そういえばコミケやボーマス(THE VOC@LOiD M@STER)に潜入してたよね。
石井 そうそう、ブースに足を運んで、挨拶に行ったり。そのうち、Pの方と仲良くなってしまって、売り子を頼まれたこともありました(笑)。
ボカロ楽曲の権利処理の歴史
――ボカロPのような存在を商業に繋いでいく中で、「最初に声が掛かる」という点でカラオケはその最前線になったのではないかと思うのですが。
石井 そうですね。やはりお金が絡んでくると、作家さんだけでなくファンの方にも影響があるんです。その誤解をどう解いていくかが、当初は大きな課題でした。やはり作家さんは活動に見合った対価を受け取るべきだと思うのですが、当時はそういう考え方への風当たりが非常に強かったです。また、JASRACに登録していないと楽曲著作権使用料が支払われないのですが、やはりそこへのユーザーの理解や説明も難しくて。
島村 少し補足すると、以前ネット上で「JOYSOUNDはボカロで儲けておきながら、Pにお金を払っていない」という批判が高まったことがあったんです。ただ、これには誤解がありまして、我々はカラオケ機器やコンテンツをカラオケ店舗に提供するビジネスですので、そもそもJASRACに信託された曲であっても、カラオケで歌われること自体は直接の収益につながらないんです。
――あ、そうなんですね。
島村 もちろん、ボカロのファンの方にカラオケボックスに足を運んでいただくことで、JOYSOUNDをお店でご指名いただける方が増えれば、カラオケ機器の導入に繋がるというのはあるのですが……。そうした誤解が解けたのが、2010年にJASRACをはじめ、当社を含む関連会社の担当者や、デッドボールPさんが出演したニコニコ生放送の配信でした。その頃から少しずつ、ボカロPが商業に乗り出すことへの風当たりは弱くなっていきました。
ちなみに、現在はほとんどの楽曲がJASRACに登録されている状況です。2010年から始まった部分信託によって、ネットなどでの活動に制限がかからずに分配を受けることができる仕組みが出来たことが大きいと思います。
――最近は、Pの方に連絡を取ると、どういう反応になるのですか?
石井 やはりカラオケという存在をステータスに感じてくださっている方が多いようで、非常に好意的です。
ただ、JASRACに楽曲が登録されていないと、Pの方に使用料が支払われませんから、当社としても著作権の説明会を開催したりしました。最近は、私個人への相談も増えてきて、レコードメーカーから「ボカロ曲をCDに入れたいのだけど」と聞かれたり、Pの方から「企業から楽曲を使いたいと言われた」と相談を受けたり……(笑)。プライベートの時間で、可能な限りお答えするようにしています。
島村 会社としても、単にカラオケでプロモーションのお手伝いをするだけでなく、信託業務などで全般的にサポートしていこうとしています。
石井 個人的には、ユーザーの側の啓蒙も必要だろうと思っていますね。違法ダウンロードやアップロードの問題点などをユーザーにどう能動的に学んでいってもらうかも課題です。
――10代にボカロ楽曲がウケる理由を聞きに来たら、思いがけずボカロへの熱意を聞かされてしまったのですが(笑)、よく考えるとエクシングとしても、ボカロ文化全体の広がりこそがカラオケ業界全体の盛り上がりにつながっていくわけですね。
島村 そうですね。やはりボカロ文化が広まることで、“ボカロ楽曲を歌いたい!”とカラオケ店舗に足を運び、JOYSOUNDをご指名くださるお客様が増えていくわけですから。
石井 個人的に思うのは、ボカロを息の長い文化にしたいということです。最近、ボカロの熱気が落ち着いてしまったと言われていて、ランキング上位にも過去の人気作に似せたような曲が増えています。でも、ランキングの外側には、現在あるものに媚びずに素晴らしい歌詞や曲を作っている人が、実はまだまだいるんですね。そこを上手く広めたり、彼らが活動していく上で面倒な仕組みをサポートしていって、ボカロの今後の発展につなげていけたらと思っています。
稲葉ほたて(@jamais_vu)。ネットライター。サークル「ねとぽよ」主催者の片割れ。サイゾー、PLANETS等に執筆。ネット周りの話をいろいろ書いてます。
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