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歌いにくいからこそ歌われる――ボカロ曲がカラオケで人気な理由、JOYSOUNDに聞いた カギは「攻略」(1/2 ページ)

「JOYSOUND」で配信されているボカロ曲は全3500曲。その管理を手がける担当者が「ボカロ×カラオケ」を熱く語ります。

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 「10代はボカロ世代、20代はアニソン世代!?」――昨年12月、「JOYSOUND」を運営するエクシングが発表したカラオケ年代別ランキング(年間)には、こんな言葉が書かれていた。実際、以下の表を見て分かるように、年代を下るにつれてアニソンの率が明らかに高まっていき、そして10代になるとボカロの影響力が大きくなる。

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 このランキングは90年代以降の音楽シーンでのJ-POPとカラオケの蜜月関係を知る人には、少々驚きの結果かもしれない。ただ、プレスリリースをよく見てみれば、ここで集計されているのは、JOYSOUNDのカラオケ・ソーシャルメディア「うたスキ」会員の歌唱履歴。そもそもネットユーザーに偏ったランキングであると言えるかしれない。

 だが、実はJOYSOUND全体での歌唱履歴で集計されたランキングでも、数年前からハチ feat.初音ミク,GUMIの「マトリョシカ」、WhiteFlame feat.初音ミクの「千本桜」などが上位に食い込んでいて、やはりボカロ楽曲の台頭は著しいのだ。実際、筆者も数年前からカラオケボックスの歌唱履歴でボカロ楽曲を見かけることが顕著に増えた。

 一体、なぜ世界はこんなことになってしまったのか――ニコニコ動画やボカロはネットのアングラ文化ではなかったのか! 古き良きネットを知るユーザーからそんな嘆きの声(?)のひとつも聞こえてきそうなランキングだが、果たしてその実態はどうなっているのだろうか。今回は、そんな昨今の謎だらけの若者ボカロ事情を探るべく、エクシングでボーカロイド楽曲の担当する音楽出版グループディレクター・石井圭さんと広報担当の島村舞さんにお話を伺ってきた。

“歌いにくい”からこそ歌われる

――昨年末に発表された10代のランキングに、ボカロ楽曲が多数ランクインしています。どういう人達が歌っているのでしょうか。

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音楽出版Gディレクター・石井圭氏。以前は着うた担当だったそうです

石井圭(以下、石井) すでに現在のボーカロイドは、10代の間ではニッチな趣味ではないんですね。1つのジャンルとして完全に確立しています。なにせ学校の教室にいれば、お昼の放送で普通に流れてきますから、たとえ興味はなくても知っている人が相当数いる状態です。

――となると、一部のオタクのヘビーユーザーが歌ったことによるランキング上昇ではないのですか。

石井 それではランキングには入らないですね。ライトユーザーが広く存在しているのが、現在のボカロだと思います。いまやアニメを見ているからオタクではないように、ボカロを聴いているからオタクというわけでもなくなっていると思います。

島村 かつてと大きく違うのは、音楽との一番の接点が必ずしもテレビではなくなったことです。特に若い子になるほど、音楽との接点はネットになっています。20代後半〜30代くらいまでは、まだ音楽番組で曲を知ることが多いのですが、10代になると検索エンジンやニコニコ動画などで曲を知る機会が多いようです。そういう状況の中で、ボカロがかつてのようなマイナージャンルではなくなったのではないでしょうか。

――カラオケでは、どんな歌われ方をしているのですか?

島村 ボカロ楽曲の最大の特徴は、cosMo(暴走)Pさんの「初音ミクの消失」が分かりやすいですが、非常に早口であったりして、人間が歌うことを想定していないところです。「いかに歌うか」というゲーム感覚で楽しまれている面も強いと考えています。

――例えば、90年代のJ-POPブームなどはカラオケと一緒に発展してきたと思うのですが、そのときに重要だったのは、カラオケでの歌いやすさだったように思います。それが、ボカロの場合はむしろ「歌いにくい」から歌われるようになっているということですか。

島村 友達同士の間で、難しい楽曲をいかに余裕を持って歌うかを競っているようですね。上位にランクインしているアニソンなどもそうですが、最近のカラオケでは、楽曲の「攻略」というのが楽しみの大きな一つになっていると考えています。

石井 ボカロの場合は歌い手さんが格好良く、面白く歌ってアップしているのも大きいと思います。憧れもあるのではないでしょうか。

――ちなみに、男女比率はどのくらいなのでしょうか?

島村 わりと男性も歌っていますね。比率としては、男性4に対して女性6くらいではないでしょうか。

10代 ボカロランキング(2014年2月度) 曲名 歌手名 男性(%) 女性(%)
1 千本桜 WhiteFlame feat.初音ミク 39.1 60.9
2 脳漿炸裂ガール《本人映像》 れるりり feat.初音ミク、GUMI 37.1 62.9
3 天ノ弱 164 feat.GUMI 41.5 58.5
4 六兆年と一夜物語 kemu 41.3 58.7
5 ロストワンの号哭 Neru 40.2 59.8
6 いーあるふぁんくらぶ みきとP feat.GUMI、鏡音リン 36.1 63.9
7 マトリョシカ ハチ feat.初音ミク、GUMI 39.1 60.9
8 東京テディベア Neru 38.2 61.8
9 夜咄ディセイブ じん feat.IA 31.8 68.2
10 カゲロウデイズ じん feat.初音ミク 38.2 61.8
※JOYSOUNDのカラオケ・ソーシャルメディア「うたスキ」の会員による歌唱

「ユーザーの求めに応じて増えていった」

――JOYSOUNDは、カラオケ業界の中でどういうポジションなのでしょうか?

島村 この業界は現在、第一興商さんのDAMと当社の2社だけです。ボカロ楽曲については第一興商さんに先駆けて、2007年という早い時期から取り組んで、現在では3500曲以上配信しています。

――相当な曲数だと思うのですが、どういう戦略でボカロ楽曲を入れるようになったのでしょうか?

島村 ユーザーの求めに応じて増えていったというのが正しいと思います。

 2006年の11月に弊社が始めたSNS「うたスキ」の「リアルタイムリクエスト」というサービスで、カラオケに入れて欲しい楽曲に投票できるようにしたのです。ユーザーからの要望を吸い上げて、アルバム楽曲やシングルのB面などを拾い上げる想定で作ったのですが、ある時期からボカロ楽曲がそこに入り始めました。

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ユーザーからの要望に応える「リアルタイムリクエスト

石井 明らかに名前を聞いたことのない楽曲が混じりだしたんです。それで調べてみたら、「あれ!? これはレコード会社の楽曲じゃないぞ」となったんですね(笑)。そこで、ひとまず試しに入れてみたのが、OSTER projectさんの「恋するボーカロイド」と、ika_mo(鶴田加茂)さんの「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」の2曲でした。2007年12月のことです。

 入れてみると、ユーザーの間ですぐに話題になり、さらにボカロのリクエストが増えてしまい、それに対応する形で楽曲が増えていきました。

島村 ボカロ楽曲として初めて年間ランキングに入ったのは、2009年のsupercellさんの「メルト」の9位だったのですが、その翌年(2010年)の年間ランキングではボカロが半数を占めました。

――そういうランキングの状況について、当時の社内の空気はどういう雰囲気だったのでしょうか?

島村 実は、社内でもボカロ楽曲の認知度は高くなく、あまり注目されていなかったです。外の空気と一緒でした。そもそも、ボカロがメディアでしっかり取り上げられるようになったのは、GoogleやトヨタのCMに起用されて以降で、まだ1、2年程度のように思います。当時、テレビ局から「カラオケのランキングをください」と言われたので見せたら「これは地上波では使えない」と言われたりしたくらいです(笑)。最近は「千本桜」なども有名になり、だいぶ状況が違ってきましたが。

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