コップのフチ子は自由の女神――カプセルトイメーカー「奇譚クラブ」社員10人でヒット連発の秘密を肌で感じてきたよ
数々のユニークなカプセルトイを生み出し、ヒットさせてきた「奇譚クラブ」。アイデアの源や少人数の会社だからこその強みを聞いてみました。
社員10人という少人数ながら、数々のユニークなカプセルトイをヒットさせている「奇譚クラブ」。2012年7月の登場以来累計650万個を売り上げた「コップのフチ子」シリーズや、ネットで話題になった死亡フラグ立ちまくりのネコ型スマートフォンスタンド「ここは俺がくいとめる! お前は先に行くニャー!」、はたまた「土下座ストラップ」など、2度見、3度見したくなる商品を続々と生み出してきました。
一体そのアイデアの源はどこにあるのでしょうか。「奇譚クラブから新作がでるらしいぜ!」と情報が公開されるやいなや「マジか、おらワクワクすっぞ!」と毎回鼻息をフンフン荒げる筆者が奇譚クラブ本社にお邪魔して、秘密に迫ってきました。
オフィス訪問……どうみても民家です、本当にありがとうございました
9月某日。東京・恵比寿駅からスマートフォンのGoogleマップを片手に慣れない都心を歩く田舎暮らしの筆者。あの……おかしいんですよ。奇譚クラブ本社の住所、どう考えてもオフィス街から離れていて、どちらかといえば住宅街の中なんです。これ本当に正しいのかな? とブツブツつぶやきながら歩くこと約12分。目の前に現れたのは、普通の民家と見まごう白い一軒家。表札にはたしかに「奇譚クラブ」の文字が。
約束していた時間まで一軒家の前で「本当にここでいいんだよな?」ともじもじ待機していたところ、家の中からチェックのシャツに赤いズボンがオシャレなお兄さんが「ねとらぼさん、ですよね」と声をかけて下さいました。この方が奇譚クラブの「しき“広報”せいた」さんです。良い意味でラフ。とっても人当りがよさそうな方だ! 緊張もほぐれほっと一安心。
いよいよ奇譚クラブ本社に足を踏み入れます。緑豊かな庭が目に優しく、都心なのに空気がおいしい気がします。そして、その中でひときわ存在感を放つ大きなゴリラ。思わず写真に撮りました。
案内された部屋は広いリビングダイニングといった印象。壁沿いには同社が手がけた商品が陳列され、ちょっとしたインテリアになっています。テーブルの下に配置された切り株を模したイスも、「ここはただのオフィスじゃないぞ」感を漂わせています。机の上に目をやると「コップのフチ子」や「コップのソコ子」が全員集合しているではありませんか。豪華ラインアップでお送りしております。
しばらく広報のしきさんとお話をしているとグレーのTシャツに青い短パン、帽子がワンポイントになっているこれまたさりげないオシャレが光る、ラフな感じの男性が現れました。なんとこの方、奇譚クラブ主宰の古屋大貴さんだったのです! 失礼しました(土下座)!! さておふたりがそろったところで、早速奇譚クラブに関して気になっていたあれやこれやを伺いましょう。
「フチ子は自由の女神」 面白カプセルトイを生み出す企業の秘密とは
――さまざまなユニーク商品を生み出していますが、その発想の源はどこからきているんですか。
古屋 普通は作家さん(※カプセルトイをデザインするクリエイター)に企画を発注する時に「こんな感じで考えてください」とか「これはダメです、あれはダメです」とか注文をつけると思うんですけど、僕らが頼む場合は制限をつけないんです。だから「パンチラ」とかいう案が上がってくる(笑)。普通はパンツ見えちゃダメでしょ! 他のメーカーは「パンツは見えないようにしましょう!」って言うと思う。
しき 基本僕らは作家さんから来たもの(アイデア)をそのままやります!
古屋 あと、面白いものが生まれる環境を作ってるっていうのはあるよね。そして、どうして「コップのフチ子」や「コップのソコ子」みたいな商品が生まれたかというと、それはデザインをしたタナカカツキさんの“能力”ですよね。フチ子に関して言えば、やっぱりカツキさんのアイデア力というか発想力が強い。
――そう、フチ子さん! 実は私、フチ子を初めて見たときの衝撃が忘れられなくて。フィギュアは台座があって、棚などに飾るものだと思ってたんですが、コップのフチに着目するとは! しかも、ただ座っているだけではなく、ぶらさがってみたり、よじ登ってみたり……。
古屋 自由だよねー。フチ子は自由の象徴、自由の女神だからね。
しき 今ものすごく適当に後付け設定しましたよね。
古屋 いや、ずっと思ってたよ! もちろんいろいろな意味を込めて。「フチ子は自由の女神です」って言いたかったけど、言う機会がなかっただけ。
しき 初めて聞きました(笑)。
――なるほど、フチ子さんは自由の女神だったんだ! あと、個人的にすごく気になっていたのですが、企画会議というのは普段どんな感じなんですか。
古屋 月に1回、人数は8人ぐらいかな。
しき ええ、奇譚クラブは社員が10人なので……経理と営業以外、全員参加しますね。だから8人ぐらいです。この部屋のテーブルをみんなで囲んで会議します。
古屋 そう、この部屋で決まる。会議の開始、初めのセリフは「さぁ、決めようか!(キリッ)」って。……ウソ! ウソ! そんなキザなこと言わない!
しき 「さぁ、決めようか!(ウソ)」って書いてもらっていいですよ。
古屋 だいたい1つの企画が良いか悪いかは5秒で決まる。5秒かからないかな、うん、2秒で決まるね。説明が始まっちゃうと、もうその企画は終わり。
しき 「これがこうで〜」とか説明が始まると、もう「萎え〜」ってなっちゃいます。面白い企画はみんな一瞬で「おおっ」「ガタガタッ」と反応があるから分かりやすい。
古屋 一発芸をみんなで見せ合う感覚だね。この部屋が劇場になる。1回の会議につき新商品のアイデアは合計で10個ぐらい出るかな。人によっても違うし、多いときはものすごく多く出てくる。少ないときは5、6個ぐらいの時もある。
――なるほど、こうしてインタビューをしていてあらためて感じるのですが、このお部屋はすごく話しやすい空間ですよね。環境づくりが素晴らしいなぁ、と。
古屋 そうそう、外は緑いっぱいだし……ある意味“病気”の人がいっぱい集まってくる(笑)。病棟だから、奇譚クラブは(笑)。
しき カウンセリングみたいな感じですよ。
古屋 奇譚クラブは基本的に“自由”なんだけど、受け身の人間はウチの会社にいらない。自分でクリエイトしないといけない。だから“怖い自由”に満ちている。それを楽しまなければいけない。まぁ、でも各々が自分で考える場合もあるけど、外から面白いクリエイターを連れてくる場合もある。最近、自分たちの力で考えた企画といえば「スマホのおふとん」。あれはウチのデザイナーが考えた。
――そもそもオフィスが一軒家ですよね。 ビックリしました!
古屋 オフィス街が嫌いなの。サラリーマンがネクタイをつけて行進している光景は、なんだか萎えてくる。みんなビルに吸い込まれていくのを見るとね……。もともとオフィスは大崎にあったんだけど、僕らの服装、すごく浮いたし(笑)。「なにしてんだろーここでー」と思ったから、いろいろ縁があってここに落ち着いたという。
しき この近辺はデザイン事務所が多いんですよ。この家も元はデザイン事務所だった。となりもデザイン事務所です。
カプセルトイだからこそ……制約の中に息づく商品への「愛」
――カプセルトイメーカーということですが、カプセルトイというさまざまな面で制約がある中で面白いものを作る苦労はありますか。
古屋 制約というと、売り場の面でもカプセルトイはなかなか厳しい。今はいろいろなガチャガチャの市場がひらけているけど、まぁ子ども向けの売り場がほとんどなわけで。そうすると「公序良俗に反しちゃいけない」となる。サイズと値段もそう。あまり色数が多いと、多く生産はできない。
――コストとクオリティではどちらを重視しているんでしょうか。
古屋 クオリティ重視。コストに関係なくアイデア勝負みたいな商品もあるから。でも結局、立体造形物になってくると「どれだけふざけるか」も考えなくちゃいけない。ふざけすぎるとどんどんコストがあがる。そこの境界線が難しい。
――個人的に生物フィギュアシリーズ「NATURE TECHNI COLOUR(ネイチャーテクニカラー)」はクオリティがはんぱない! と胸が熱くなるのですが、初めて見たとき価格が300円とは信じられませんでした。コストは相当なものですよね。
古屋 あれは見事に赤字だね。まっかっか! だから年に1回ぐらいしか発売できなくなっちゃった。クオリティを重視しすぎて、やりすぎてしまった感じ。しかもそれをビジネスに乗せようとしたから……。僕らのやっていることはビジネスに乗っかりづらい。
古屋 きっと永続的なものの根っこには、ちゃんとこういった「やりすぎ感」があるんだと思う。辞書や辞典を作るのにも10年、20年かかるじゃない。時間をかけて作られたものはすごいよね。そこには“情報”が詰まっているから。こういうことの中に真理があって、最初はみんなが忌み嫌うものも、ゆくゆくは“文化”になっていく。
――なるほど、カプセルトイから現代日本の“文化”が見えてくるようです。
古屋 「ネイチャーテクニカラー」を作るにあたっては小笠原に行った。奇譚クラブの社員旅行は富士山、竹富島……、それから京都・大阪・神戸に学ランとセーラー服で行ったりとか。学生服着用強制で。京都でお茶屋遊びして、大阪で吉本新喜劇を見て、神戸で宝塚歌劇を鑑賞するという。“芸”を学ぶ社員旅行をしました!
――うわああ、ものすごく楽しそう!! 面白商品を生み出す豊かな想像力の源を垣間見た気がします! ここまで苦労などをお聞きしてきましたが、カプセルトイを作っていてうれしい、ワクワクする瞬間はどのような時でしょうか。
古屋 「世界のパンチラ」というシリーズを作ったとき! 大型量販店から撤去になっちゃって。その時は「やった!」って感じがした。
あと楳図かずお先生をモデルにしたフィギュアストラップ。これは良かった。先生に「似てない!」って言われたけど(笑)。あとエガちゃん(江頭2:50)が好きだったからカプセルトイにして、実際に会えたときはうれしかったなぁ。
しき これも250万個ぐらい売れましたよ!
――先ほど社員数が10人と伺ったのですが、少人数の会社だからこその強みとはなんだと思われますか。
古屋 決断スピードが速い。個人個人がバラバラに動いても大丈夫だし。奇譚クラブは個人裁量が大きい。
しき そうですね。「もう勝手にやっちゃう!」みたいなところもあります。自分の名刺の裏に「コップのシキ子」の写真をつけたのも、あれ勝手にやりました。普通の会社なら怒られますよね。
古屋 怒らないかわりにほめもしなかったけどね(笑)。
――それでは最後に、カプセルトイにとって一番重要なこととはなんでしょうか。
古屋 カプセルトイは開けた時のショックや飾ったときのショックが大事。心を動かさないといけない。人を感動させないと、意味がない。
「まだ、どこにもないもの」を 奇譚クラブという名の宇宙の広大さを実感
奇譚クラブから発売される商品はいつも私たちに「ええっ、そんなのアリ!? 出オチじゃないか!」という笑いと衝撃をもたらしてくれます。手に取った小さなトイから感じられる豊かな発想の源、アイデアがわき出る泉のヒミツについて、筆者はいつも知りたかったのです。
実は正直に告白すると、筆者はインタビューをする側にも関わらず、いつのまにか自分について語ったり、古屋さんたちとのたわいもない雑談を楽しんでしまいました。突飛な自分でも受け入れてもらえる、なんでも腹を割って話すことができる、呼吸のしやすさ、居心地のよさを取材中ずーっと五感で感じていたような気がします。
今回の会社訪問によって「奇譚クラブの全てが分かっちゃったぞ!」と不敵な笑みを浮かべてしまいそうになる一方、我々にははかりしることのできない爆発力を持った広大な宇宙なのだ! とその深淵さにゾクゾクするような興奮も覚えます。きっと奇譚クラブは日々「どこにもないもの」を探して旅を続けている……これからもずっと。
社員数10人の小さな一軒家。そこにはカプセルトイのようなドキドキ、ワクワク、そして無限の想像力がつまっていました。
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