「雀始巣(すずめはじめてすくう)」。3月半ば頃から、スズメたちはさかんに巣を作り始めます。漫画でもおなじみの、町に朝を知らせる「チュン、チュン」というさえずり。昔から、もっとも私たちの身近にいる鳥ですよね。それなのに、ちょっと近づくとバッ! と逃げ、決して目を合わせてくれません(雀涙)。そんなツレない謎だらけのチュン族ですが、暮らしぶりはたいへん実直。しかも、私たち日本人にかなり似ているようです!
夏まで「子育て」本気モード!
スズメの1年は、春〜夏の「子育て期」と秋〜冬の「子育てしない期」にハッキリ二分されます。春が来たら即、子育てモード! なぜなら栄養たっぷりの昆虫たちが、(啓蟄で)もぞもぞと出てくるからなのですね。
雄たちは、2月くらいから本気の婚活に入ります。自分のDNAを残すため、巣作りの場所やお嫁さんを巡り転げ回るケンカも厭いません。しかも、通りかかる雌には片っ端からプロポーズ! 一方雌たちは、声・ルックス・財産(新居物件とかですね)をクールに検討して返答するようです。婚活と平行して行われる巣作りの材料は、枯れた雑草の茎や葉など。卵を並べる産座には、ソフトな鳥の羽根や獣の毛も使います。ブロック塀・排水管・看板・信号機・・・穴さえあれば「ベランダに干したパンツでも可」というくらい、人工物のちょっとした隙間に愛の巣を作ります。
少し意外なのは、巣が家族の生活の場ではなく、あくまでもベビールームだということ。産まれたばかりのヒナの体調が安定すると、ママも近くの木など別室で寝るのです。巣立てば二度と戻りませんが、次の子育てに再利用されることはあるようです。
卵は24時間絶えず温めなくてはなりません。夫婦の協力体制が不可欠なので、鳥類の約90パーセントが一夫一妻制です。夫が妻の食事を運ぶ鳥もいますが、スズメの場合は日中パパが抱卵を交代します。産むのはママですが、哺乳類と違って授乳しない鳥類は、両親が同等に育児可能なのです。
卵は1日1個、合計で4〜6卵産みます。 同時に孵るよう全て産み終わってから温め始めますが、 なぜか最後に産んだ卵だけ色が薄くて「止め卵」と呼ばれているそうです。もう温めていいよ〜という合図でしょうか。約2週間で卵が孵ると、両親は毎日せっせとエサ運び! タンパク源の昆虫をメインに、そこで入手できる植物(とくに種子など)で育てます。産まれてから2週間で体重が10倍くらいになるヒナたち。養う親鳥は、小さな体でどんなに大量の食物を運ぶことでしょう。
それから2〜3週間、いよいよ巣立ちです。子スズメは、親がエサを運んでくれなくなるのでしかたなく巣を出ます。それでもまだしばらくは、近くで親に面倒をみてもらいながら「路上教習」……私たちの目に触れやすいのは、この頃なんですね。
子スズメの羽根は薄い茶色で、体も締まる前でポワ〜ンと大きく、やつれた親がなお小さく見えます。エサのとり方・飛び方・水浴び。ポテポテ歩きうずくまったりするので、いつ天敵に襲われるかと見ていてハラハラします。お腹が空くと、羽根を震わせて「ごはん!ごはん!」と甘えて鳴きます。その口に親は何度もエサを入れてやり、1週間ほどして少したくましくなった頃、次の子育てに入るのです。 8月末頃までに2〜3回、子育てするそうです。
「ちょいワル」なお花見? 小さい者代表
桜が咲く下に、花びらに混じって花が丸ごと落ちているのを見かけたことはありませんか? 雨風が原因かと思っていたら、スズメが可愛い顔で花見に来ては、なんとちぎって落としていたのでした!
スズメは桜を食べます。桜の蜜を吸う鳥の多くは、メジロのように花の正面からくちばしを入れて吸い、花粉を付着させて運びます。ところがスズメは、花ごと食いちぎって顎筒から蜜だけ吸って下に落としてしまうので、「盗蜜」などと言われます。スズメのくちばしは、雑食に適した太くて短いシンプルな作り。そのため、だいたい何でも食べることができるかわりに、あまり特化された食べ方はできないらしいのです。お箸でパスタもチャーハンも食べる感じでしょうか。
今のところ、人間のお花見に影響するほど大量の花は落としていないようなのですが、年々「甘党」のスズメが増えているという噂も……けれど、桜を一輪くわえて愛でているかのような姿はとても愛らしいので、「盗み食い」しているなんて思われないのかもしれません。
日の出とともに起きてさえずるスズメですが、曇りの日は何分か遅くなり、雨だとさらに何分か遅くなるのだそうです。子育て中は1日せっせとエサを運ぶのですが、午後はちょっと活動がゆるくなるとか(その気持ちわかります)。夕方になると、巣の近くでしばらくさえずってから近くの軒下や木立で寝ます。子育てが終わったスズメは、たいてい群れを作って過ごし「起きて・ぺちゃくちゃして・食べて・寝る」を繰り返すのだそうです。
スズメの「スズ」は小さい・身近などを表す「細小(ササ)」、または「チュ、チュ」というさえずり。「メ」は「鳥」または「群れ」を表すといわれます。漢字で書くと、「小」の下に鳥を表す部首「ふるとり」で「雀」。つまり「群れてさえずる、その辺にいる小さい鳥」という名前なのですね。
昔からのたとえもまた、「江戸(京)雀」「楽屋雀」「雀の酒盛り」など「深くものを考えず噂好きで、にぎやかな(うるさい)小さい者たち」。なんとなく所作も人っぽく見える茶色い「普通の」小鳥に、日本人は深く親しみを感じてきました。その一方で、スズメには他人の巣を覗いたり卵やヒナを捨てたりする、人としてダークな一面もあるのでした……。
大きな群れでヨシ(葦)原などに作るねぐらは、「スズメのお宿」と呼ばれています。「舌切り雀」では、あの警戒心の強いチュン族が、なんとおじいさんをご招待! 究極のVIP待遇です。ヒナにするように甲斐甲斐しくご馳走が運ばれ、おしゃべり上手で座持ちも良く、楽しいおもてなしだったに違いありません。ただ、スズメは大切なお米を荒らす「農害鳥」でもありました。米で作った糊を食べられたおばあさんが激怒するのも、当時としては無理なかったのかもしれません。「そうなんだけど、悪気はないから乱暴しないでね」というお願いメッセージ民話にも思えます。
スズメが人との距離を保とうとするのは、長い間駆除されたり食べられたりしてきた結果ともいわれます。昔は子供もよく卵やヒナを捕って遊んでいたと聞きます。じつは現在、あまり人を警戒しない新タイプのスズメも出てきているとか……。これから少しずつ、関係は変わっていくのかもしれませんね。
住宅難と少子化で、チュン(人)口減少も
スズメには、まだわかっていないことがたくさんあるようです。
雄雌の区別も人間には難しく、研究時にはなんとDNA鑑定で識別するのだそうです! 「交尾しているとき下にいる方が雌じゃない?」と思うのですが、同性同士で戯れる「なんちゃって交尾」もけっこう多いらしく、油断できないのです。
スズメはこの数十年で半減しているといわれます。人の住宅が気密性の高いものになり巣を作れず、空き地が舗装されてエサがない……日常の小さな変化が積み重なって減少が進み、場所によっては巣が火災など事故の原因にもなり、共存には工夫が必要かもしれません。
「子育てしにくい」街では、子スズメを1羽しかつれていない親の姿が見られ「少子化」が起きているという報告も。スズメの平均寿命は1〜2年ともいわれます。100個の卵のうち、巣立ちを迎えられるスズメは50羽、翌年まで生き残れるのは10羽、5年目まで生き残れるのは1〜2羽。出生率でカバーできなくなると、あっという間に絶滅の可能性すらあるのです。人の住む場所でしか生きられないスズメ。未来の街から朝の「チュン、チュン」が消えないでほしいですね。
もし、「巣から落ちた?」というヒナを発見したときは、しばし様子をみてください。じつは、親はちょっと離れていただけなのに「戻ってみたら、うちの子がいな〜い!」という「誤認保護による誘拐事件」が、とても多いのだそうです。また本当に落ちたらしいヒナも、よほどのことがないかぎり拾って帰らないようにしましょう。いったん人間が保護してしまうと自然に戻るのが難しく、その子のチュン生が変わってしまいますから……まずは「戻すべき巣」がないか探し、 保護した場合は、 野鳥なので必ず都道府県の窓口へ相談してくださいね。
スズメの巣は街のいたるところにあって、慣れるとバスの中からでも見つけられるそうですよ!
<参考>
- 三上修 「スズメ」(岩波書店)「スズメの謎」(誠文堂新光社)
- 唐沢孝一 「スズメのお宿は街の中」(中公新書)
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