気象学的に「予測困難な局地的大雨」を意味する言葉「ゲリラ豪雨」もニュースなどで定着し、季節や場所を問わず大小さまざまな規模の水害が発生している近年の日本。
大雨による被害が最近とても多くなっているように感じますが、実は本来もっと甚大な被害を及ぼすはずだった洪水被害を、最小限に食い止めている治水工事があるのをご存じですか?
なかでも埼玉県にある「首都圏外郭放水路」は、世界最大級の治水施設。誕生の経緯と、その圧倒的規模に迫ります。
増えてきた「都市型水害」への対応
昭和30〜40年代から急激な発展を遂げた日本経済と産業。それに伴って急激に都市化も進み、水害のカタチも変化してきました。
鋪装されていない道路や田畑が多く残っていた頃は、雨水は地中にしみこんだり、水田やため池にしばらくとどまったりして時間をかけて川までたどりついていたため、大雨のあとしばらく経ってから川が増水し、やがてあふれるという経過をたどっていました。
しかし、都市化にともなって道路の舗装が進み、田畑や森林が減ったことで、雨水が地中にしみこむことができなくなってしまったのです。
その結果、とくに大都市では、多量の雨が降るとすぐに水が街中であふれてしまうようになり、そうした雨水が一気に川に流れこむことで、川が氾濫する被害が頻出するように……。
こうした新しいタイプの水害が全国で頻発するようになったのを受けて始まったのが「総合治水対策」です。この対策は、堤防やダムの整備といった従来の対策に加え、流域全体の土地が本来持っていた「水をしみこませて(保水)しばらく抱え込む(遊水)」機能を取り戻すことで、浸水の被害を解消、軽減しようとするものでした。
世界最大級の地下河川「首都圏外郭放水路」
中川・倉松川・大落古利根川などの中小河川に囲まれた低平地のため、慢性的な浸水被害に悩まされていた埼玉県東部を中心とする地域に、いくつもの中小河川を結ぶルートで建設された「首都圏外郭放水路」も、総合治水対策のひとつ。総延長約6.3kmという規模は地下放水路として世界最大級です。
「首都圏外郭放水路」の仕組みを大まかに説明すると、あふれそうになった川から水を地下に取り込み、しばらく貯めておいて、タイミングを見計らって流すというもの。
まず、豪雨などで流域の河川の水位があらかじめ決めた高さを超えると、川に設置した「越流堤(えつりゅうてい)」という設備から、縦型の大きなトンネルのような「立坑」を通して川の水を地下の巨大なプールに取り込みます。
その後、降雨や河川のリアルタイムの状況、その後の降雨予測などから安全と判断できた時点で、排水ポンプ調整しながら大トンネルを通して一級河川の江戸川に流します。
2002年から部分的に稼動を始め、06年6月に完成した「首都圏外郭放水路」は、13年3月までになんと73回にもわたって洪水を調整! 私たちのしらないところで、流域の浸水被害を大幅に軽減してくれていたのです!
最新技術が壮大なスケールで集結
国道16号の地下約50mに建設された「首都圏外郭放水路」ですが、最先端の土木技術の粋を集めて造られただけあり、そのスケールも壮大!
- 水を取り込む5本の立坑……直径30m×深さ70m(スペースシャトルや自由の女神がすっぽり入るサイズ!)
- 各施設をつなぐ地底トンネル……直径10m×長さ6.3km
- 水を貯めておく調整水槽……幅78m×長さ177m(サッカーグラウンドくらいの広さ!)
- 調整水槽に立つ柱……重さ500t、高さ18mの柱が59本!
- 江戸川への排水……毎秒200立方m(25mのプール1杯分!)
一部をあげただけでも、想像がつかない壮大な規模であることがわかると思います。
地下にあるため、ふだん目にすることはありませんが、日本が世界に誇る最先端の土木技術を結集して建設・管理され、文字通り縁の下の力持ちとして日々、私たちの安全な暮らしを守るために奮闘してくれているのです。
余談ですが、「地下神殿」の異名を持つ巨大な調整水槽は、どこか荘厳な雰囲気も漂う空間。特撮ものやヒーローものをはじめとするドラマや映画などのロケにもよく使われているそうです。
春休みももうすぐ! ぜひ見学に行ってみよう
個々の水害への備えももちろん大切ですが、こういった設備はとても心強いですね。
「首都圏外郭放水路」は平日(火曜〜金曜)のみ・小学生以上に限られますが、見学することができます。
また、この施設や洪水について学べるミュージアムも併設し、こちらは月曜と年末年始をのぞいて毎日、見学することができます。お子さんがいる方は、春休みのお出かけ先候補に加えてみてはいかがでしょうか。
「首都圏外郭放水路」の詳細についてはリンク先参照
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