「新幹線ゲーム」「ピカデリーサーカス」「ジャンケンマン」……。かつて、全国各地の駄菓子屋やデパートの屋上を彩ったこれらのゲームを、昭和生まれの方であればほとんどの人が遊んだ記憶があることでしょう。そんな懐かしいアーケードゲームの数々を一冊にまとめた、おそらく史上初めての本「日本懐かし10円ゲーム大全」が先日発売されたと聞き、早速その著者である岸昭仁氏にお話を伺ってみました。
「本書の大きなテーマは『昭和』なんです」(岸氏)
―― 「日本懐かし10円ゲーム大全」を作ろうと思ったそもそものきっかけは何だったのでしょうか?
岸氏 去年の暮れに辰巳出版さんから本を書いてみないかというお話をいただいたのがきっかけです。以前に辰巳出版さんが「日本懐かし自販機大全」という本を出したところ、かなり好評だったということで、その続刊という形で本書の企画がスタートしました。
―― 昔のいわゆるビデオゲームの歴史や紹介記事をまとめた本は今までにたくさん出ていますけど、10円ゲームをテーマにした本はとても珍しいですよね。
岸氏 そうですね。以前にピンボール系のゲームをまとめた本は確かあったとは思いますが、いわゆるエレメカ系や駄菓子屋ゲームの本はおそらく今までなかったのではないでしょうか。
―― 私も早速拝読させていただきましたが、79種類もの貴重な10円ゲームの写真やカタログが載っているのは実に壮観です。
岸氏 自分で持っている機械と、インタビュー取材などのご協力をいただいたお店や知り合いが持っている機械を集めて撮影しました。カタログも私のコレクションと、伝手をいろいろとあたってお借りしたものを合わせて載せています。
―― 大阪の阪神梅田本店や富山県の富山大和の屋上など、すでに閉園になってしまったゲームコーナーの写真もいろいろ載っていますよね。これぞ昭和時代という風景は見ていてとても心が和みます。
岸氏 はい。まさに本書の大きなテーマが昭和でしたので、当時の懐かしい風情のある写真も添えて紙面にメリハリをつけようということで載せました。ゲーム機単体の写真だけでなく、周囲の景色もいっしょに楽しめるようになっていますよ。
―― では、この本によって歴代の10円ゲームはすべてリストアップできたわけですね?
岸氏 残念ながら全部ではないんですよ。実際に何種類あったのかは私も正直分からないですし、今となってはコンプリートするのはおそらくもう不可能でしょうね。ビデオゲームであれば、「それは『ポン』から始まった」(※)などの本があるのですが……。そういう意味でも、今回自分で本を作った価値はあったのではないかと思っています。私自身もできるだけ集めはしましたが、持っているのは全部で100台ほどで、しかもそのうち何台かは同じものがダブっているんですよね。
10円ゲーム、機械いじりが大好きな著者の愛情あふれる紙面はこうして実現
―― 本の中では、10円ゲームを「パチンコ系」「10円はじき系」「ルーレット系」などとジャンル分けしていますよね。当時の業界ではこのような呼び方をしていたのでしょうか?
岸氏 いいえ、これは編集者からの提案ですね。ジャンル別にしたほうが読みやすくなるだろうということで、私のほうでジャンル分けを考えました。
―― 執筆の際に、特にご苦労なさった点などはありますか?
岸氏 「ピカデリーサーカス」などのルーレット系は似たようなゲームがたくさんありますので、それぞれの違いをどうやって書き分けるかで随分悩みました。文章自体は短いのに、書き終わるまでかなり時間がかかってしまいましたね。
―― ルール解説だけでなく、ゲームによっては岸さんが編み出したアナログ操作ならではの攻略法や裏技が載っているのも実に微笑ましいですね。
岸氏 原稿には私自身の思い入れですとか、当時の社会事情などを盛り込んでほしいというリクエストも編集者からあったんですよ。ゲームの基本的なルールは写真を見ればだいたいわかりますけど、それ以外の思い出話もいろいろ書いたことで私なりに面白いものができたと思います。
―― ゲームの発売年以外にも、寸法や重量などのデータが細かく書いてあったのにも驚きました。
岸氏 実は、いくつかのゲームについては発売年は推定で書いてあるんです。どうやって調べたかといいますと、ICや部品、電源コード類など使用されていたパーツの製造年代をいろいろ調べたうえで、それらが使用されていた年代を元に発売時期を推定しました。もし誤差が出てもせいぜい1、2年ぐらいで何とか収まるからまあ大丈夫かなあと。
―― なんだか古代遺跡の発掘作業みたいですね(笑)。さらに「新幹線ゲーム」では、ゴールするともらえる当たり券の写真も添えたり、筐体内部やパーツごとの解説もかなり細かく書いてあるのも目を引きました。レバーのサイズがパチンコ機より小さくなっていたこともこの本を読んで初めて知りました。
岸氏 私は元々機械いじりが大好きなので、ついつい機械の話ばかり書いてしまうんですよね。でも、それだけでは面白くない人もいるかと思いましたので、当たり券とか運営マニュアルなどの写真もいっしょに載せるようにしました。この手の当たり券や付属品は、今ではもうあまり残っていないのでとても貴重なんですよ。
―― せっかく当たったからと、景品に引き換えないで記念に持って帰っちゃう人も当時はよくいましたよね……。それから巻末には、今でも10円ゲームが遊べる駄菓子屋やゲームセンターの店主や経営者のインタビューがたくさん載っているのも面白かったです。
岸氏 編集やカメラマンの方にもご協力をいただき、いくつかの候補があったお店の中から選んで取材をお願いしました。例えば渋谷で「あそびば20」の店主をされている荒巻さんは、今から10年ほど前に私がお客さんとして遊びに行ったのがきっかけで知り合ったんです(笑)。
―― さらには、かつて10円ゲームやそのパーツ類を作っていたメーカーの開発者インタビューが載っているのも非常に珍しいですね。
岸氏 まだ現役でいらっしゃる方のお話をぜひ載せたいという強い思いがありましたので、楠野製作所(※)の楠野さんや10円ゲームのパネル印刷をしていた秀和工芸の鈴木さんなどをインタビューしました。鈴木さんは6年ほど前に私が載った新聞の記事を見たのがきっかけで、「今度ウチの会社を見に来てよ!」とお声掛けをいただいたことで面識ができたでんすよ。インタビューではインクの特殊な使い方など、実際に作った職人でなければ絶対にわからないお話がいろいろ読めてとても面白いですよ。
―― それでは最後に、「ねとらぼ」読者のみなさんにメッセージをお願いします。
岸氏 本書の執筆や取材を通じて、今でも10円ゲームって本当に面白いんだなあと再認識しました。私の10円ゲームへの思い入れですとか、日々お店でメンテナンスをしていて気づいたことやお客さんの反応などもたくさん書いてあります。私と同年代の方だけでなく、若い人にもきっと面白さが伝わるのではないかと思いますので、ぜひ本書をご覧になってみてください。
著者のインタビューをするにあたり、筆者も早速本書を購入しました。昭和時代の懐かしい風景を見て楽しむ写真集としてはもちろん、貴重な資料や当事者の証言をまとめたことによるゲーム、あるいは文化史の資料的価値も高い一冊となっていると思います。まだコンピュータが身近な存在ではなかった、当時ならではの手作り感があふれる10円ゲームのデザインは今見ても実に味わい深いものがあります。もし興味を持たれた方はぜひ、「日本懐かし10円ゲーム大全」をお読みになってみてはいかがでしょうか?
取材地:駄菓子屋ゲーム博物館
- 所在地:東京都板橋区宮本町17-8
- 開館時間:平日は午後2時〜午後7時、土日祝日は午前10時〜午後7時
- 定休日:火、水曜日(※祝日の場合は営業)
- 入場料:200円(1歳以上共通。ゲームメダル10枚付き。当日に限り再入場可能)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- アーケード用ゲーム「スター・ウォーズ:バトル ポッド」がまさかの個人向け販売決定! お値段456万円
1200万円の特別仕様もあるよ! - 東京から30分で行ける廃墟 川崎駅前にそびえ立つ巨大ゲーセン「ウェアハウス川崎」のダンジョンっぷりがやばい
中身はちゃんとしたアミューズメントセンターですよ。 - なつかしさがあふれる PC・スマホ向けレトロゲームコントローラー
ノスタルジック! - 蘇る昭和の名機 「山のぼりゲーム」が省エネ設計で復刻
駄菓子屋やスーパーの店先で少年少女を魅了した、あの昭和エレメカの名機「山のぼりゲーム」をあなたは知っていますか? - どういう謎技術だよ! 「マインクラフト」で実際にプレイできちゃう「パックマン」を再現する猛者が登場
ゲームでゲームを作るという剛の者の発想。 - ファミコンを楽器にしたら、もう8bitが止まらない
あのころを思い出す世界に1つだけの楽器。 - あの「ワニワニパニック」がナナメ上に進化しすぎて大不評 「軟弱」「どうしてこうなった」
コレジャナイ……。