毎年7月14日に横浜市戸塚区の「八坂神社」で開かれる「お札まき」は、神奈川県屈指の奇祭として知られています。祭りの主役はなんと男の娘、つまり女装した男性たちなんです。行ってきて御利益にあずかりつつ、女装子として参加している方にお話も伺ってきました。
祭りの内容は、彼ら(彼女ら?)が街を踊り歌い歩きながら御利益のあるお札を配るというもの。見物人たちはその列を追いかけて、お札を拾います。一瞬ふざけてるのかな? と思ってしまいますが、実は市の無形文化財にも指定された、元禄時代から脈々と続く由緒正しきお祭りなのです。
病弱な子どもを持つ母親が、子どもの着物を神社に持って行き、健康を祈願してお札を持ち帰った、というのが始まりだそう。要するに、華やかな着物は「子どもの健康を願うお母さんのコスプレ」なんですね。それにしては明るいですが……。かつては江戸や大坂(現在の大阪)でも流行していたそうですが、今はここ八坂神社でしか行われていません。その珍しさもあって、毎年たくさんの屋台が出て2万5000人以上の人で賑わう、と聞いていましたが……。
お店が少ない……? 神社近くの空き地に数件あるだけです。実は、騒音やルールを守らないゴミ捨てが問題となり、今年は近隣住民に配慮して出店を最小限にしたとのこと。お祭りが人気になったがゆえの問題、悩ましいところです。来年は屋台が復活することを祈ります。
さて、八坂神社につきました。すでに見物客が行列を作っています。
こちらの行列に並べば、見物人たちと死闘を繰り広げなくても手軽にお札をゲットできます。そして、境内へ。いよいよ、お札まきの開始です。
お札の行列や屋台を撮影していたら、なんと開始のシャッターチャンスを逃してしまいました。こちらの写真は神社にお借りしたものです。
華やかなおそろいの衣装で15人前後の女装子さんが歌い踊ります。歌の内容はこんな感じ(以下抜粋)。
さあこい子ども さあこい子ども さあこい子ども
てんのう様は 泣く子はきらい けんかもきらい
はやすのが大好きで わいわいはやせ
お札をさずけるぞ ありがたいお札
さずかるものは 病もよける ころりも逃げる
ここいらでまこか 赤 青 黄色 いろいろまぜて
油断をすると 拾えぬぞ そらまくまくまくまくまく……
と、踊りの最後に満面の笑みでお札をまきまくる女装子さんたち。そこに多くの見物人が集い、くんずほぐれつの死闘が始まります。筆者もたんまり御利益がほしいので、いざ参戦!
無理でした。撮影しながらお札拾うのは。カメラ片手にふらふらしてたら1枚も残っていませんでした。もうみんな御利益求めすぎ! と途方に暮れていたら、親切な女装子さんがお札一枚くれました。
よかった。筆者にも福がやってくることになりましたので、ここで美女たちのご紹介です。
1人だけカツラをかぶっているのは、踊りの中心でお札をまく「音頭取り」のお姉様です。さすが貫禄あるわぁ。こちらのお姉様こと神崎征美さんに、お話をお伺ってみました。
―― 女装は住民男性の義務なんですか?
お姉様 違います(笑)。確かに、かつては引っ越して来たばかりの方や、婿としてこの町に来た方に参加をお願いしていました。このお祭りが、住民たちと新たな住民との顔合わせの意味もあったんです。でも、現在は自由参加です。この町に住んでいて、男性であればどなたでも参加できますよ。ただ、14〜16人という人数制限があって、ここ2〜3年は常連メンバーが毎年立候補しています。残念ながら、新たな希望者は順番待ち(!)の状態です。今年もフジテレビや神奈川新聞が取材にきたりなど、年々注目度が高まっています。私が参加し始めた30年前は、住民の高齢化で人数が足りないくらいだったんですけどね。私も人に頼まれて、仕方なく参加したくらいです。
―― 今や希望者が溢れているくらいなのに、昔はイヤイヤだったのですね。
お姉様 最初は恥ずかしくて恥ずかしくて……こっちを見ないでくれ! と思っていました。でも今はすっかりクセになって(笑)。毎年、この祭りを楽しみにしています。
―― 思わずオネエ言葉になったりとか?
お姉様 それはありません(笑)。でも、女装にはなぜか何度もやりたくなるような、不思議な魅力があるんですよ。
―― なるほど〜。貴重なお話をありがとうございました! これからも、元気にお札を配り続けてください!
お札まきコースの最終地点では、女装子さんたちが休憩しています。このあと境内に戻り、最後の踊り&とお札まきをしてフィニッシュ。
貴重なお札をゲットしたので、これから福が舞い込むに違いない!
(長谷川京子)
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