8月29〜30日に開催された「第54回日本SF大会 米魂(こめこん)」の中で、「『オタク』に関する高等教育(海外編)」というプログラムがあった。そこで話したのは慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の准教授、杉浦一徳氏。杉浦氏は「オタク文化」の講義を受け持ち、自らコスプレし授業を行っている。
なぜコスプレで授業をするのか。杉浦氏はその理由をこう話す――「『オタク』を意識した講義は他の高等教育機関においても多数存在する。しかしぼくは、わざわざ大学院にまで来ている学生に対して、授業のコンテンツ自体を売りものにしようとは思っていない。今はネットを探ればそんなものはいくらでもある。『何かを上から教える』、そうではなくて、下から目線で接する。『下から目線』というのは、例えば『一方的に教える人』ではなく、自分が『実際にやってる人』であること。だから自分自身もコスプレして講義する」(杉浦氏)。
杉浦氏が2011年度に授業のために使った衣装代は36万6000円(クリーニング代含む)。講義資料といえど、これらの衣装代は全て杉浦氏のポケットマネーから出ている。このままでは生活が破たんしてしまうことに気付いた杉浦氏は、あるアイデアを思い付いた。――「買うと高いなら作ればいい」。
こうして、ミシンをはじめとする裁縫道具が研究室に取り揃えられた。作戦は成功。これまでの費用よりぐっと抑えられた。しかし問題があった。講義の資料に加えて採寸や衣装制作に膨大な時間を消費することになった。
そこで応募したのが、企業などの協力により基金を設置しその資金をもとに優秀な講師を迎えて講義をするという「未来先導チェアシップ講座」。これに採択されれば、運営資金としての援助が受けられる。その助成対象として「図書・資料費/消耗品費(備品不可)・印刷物刊行費」があることに杉浦氏は気付いてしまったのだ。そう、「図書・資料費/消耗品費(備品不可)・印刷物刊行費」といえば、アレが対象になる。コスチュームは「図書・資料費/消耗品費」に分類されるのだ。
採択された杉浦氏は無事に新規衣装を導入し、その功績が認められ2年連続援助を受けることとなった。
そしてもう1つ、興味深い話があった。授業と言えば必ず付いてくるのが「成績」。「オタク文化」の講義にももちろん成績が付けられる。
成績の付け方は、主にチケット制。授業中、積極的に発言すると最大5ポイント分のチケットが渡される。さらにレポートの提出で最大3ポイントGET。レポートは2時間遅れるごとに1ポイントずつ減り、課題提出遅延における言い訳を何もしなければマイナス4ポイントされる。しかし、「最新アニメ事情を録画からサーベイしていた」「ドラフト(下絵)を完成させないといけなかった(趣味的な意味で)」「ニコニコ動画にアップロードするためのビデオエンコに時間がかかりすぎたから」「突然あるキャラが受けなのか攻めなのかで議論が始まってしまった」「提出2時間前に突然面白いトピックを発見してしまい夢中になっていた」などの正当な理由を述べれば減点はされない。これに最終発表を加え、計10ポイントのうち10が「A+」、9と8が「A」、7と6が「B」、5が「C」、4〜0が失格となる。
シラバスの最初には必ず「秋葉原散策」という課外活動が入る。これが慶應義塾大学大学院准教授、杉浦一徳氏のやり方だ。
(太田智美)
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