CMでもおなじみの、肩こりや筋肉痛に効用がある小林製薬の塗り薬「アンメルツ」。この製品名の由来が、「あんま(按摩)」をパッケージに「詰める」製品、「あんまつめる」から「アンメルツ」になった、とTwitterでうわさになっています。
きっかけは、「『アンメルツ』ってそういう意味だったの」という一文を添えてTwitterに投稿された、1926年の広告イラスト。神戸精研堂医局の薬品「アンメルツ」を宣伝したもので、キャッチコピーに「あんまの瓶詰」の字が大きく掲げられています。効能はリウマチ・神経痛・肩こり・疲労痛と、現在の我々が知る小林製薬の「アンメルツ」に似ています。
「あんま」とは当時国内で主流だった、身体をもんで血液の循環を良くする手技療法のこと。これを生業とする人も略して「あんま」「あんまさん」と呼ばれていました。その「あんま」をビンに「つめる」イメージで名付けられた「アンメルツ」という薬品が、小林製薬に渡って今の「アンメルツ」になったのでは――という見方がネットで広がっています。
さて、実際に「アンメルツ」は「あんま詰める」が由来なのでしょうか。
小林製薬の広報部に聞いてみたところ、同社では戦前に「あんまの瓶詰」というキャッチコピーが付いた薬品「アンメルツ」を他社から譲り受け販売していたことがあるそう。薬品は、瓶に入った液体を付属の小さなハケで患部に塗るタイプ。資料がほぼ残っていないため、いつどこから受け継いだのかは不明です。
Twitterで話題の広告を確認してもらったところ、小林製薬へ譲る前に元の会社が作った可能性があるとのこと。おおお、では、「アンメルツ」の由来は本当に「あんま詰める」だったのか!?
「その可能性は否定も肯定もできません。そもそも小林製薬が今現在販売している『アンメルツ』は、昔譲り受けた『アンメルツ』とは関係なく、弊社がゼロから新しく作った用法も成分もまったく異なる別物なんです」と広報担当者。
なんと小林製薬には、昔に譲り受けてすでに終売した“旧アンメルツ”と、今CMなどでも見かける1967年に発売された“新アンメルツ”、2つのアンメルツが存在しているのだそうです。うわー、なんかややこしくなってきた!
新「アンメルツ」誕生のきっかけは1960年前半。社員の男性が外用薬を貼ったまま女性とデートしたところ、年寄り臭いとフラレてしまう悲劇が起こってしまいます。そこで外から見ても使っているのがわからない、液体の外用消炎鎮痛剤を開発することに。当時の液体の外用薬は、ビンに入ったものを小さな筆を使って患部に塗るのが主流だったのですが、塗りながらビンを倒してこぼしやすいのが欠点でした。試行錯誤を重ねた結果、患部へ直接塗れる上に倒れても中身がこぼれないフタ「ラバーキャップ」を完成させ、今私たちが知る「アンメルツ」の形で発売したそうです。
このように塗り方がまったく違う上に、新「アンメルツ」は主成分にもサリメント、メントール、マレイン酸クロルフェルラミンを使うなど薬品の成分も完全に異なるのだそう。
新薬にどうして「アンメルツ」と名付けたのかは、資料が残っていないため小林製薬でもわからないそう。ただし社内には、英語の「アンチ」(反対)とドイツ語の「メルツ」(痛み)を組み合わせて「アンメルツ」になったという説があり、これが一番有力だとされています。うーん、こちらも説得力がある。ただ、旧「アンメルツ」との関わりも完全に否定することはできないそうです。
まとめるとこう。
- 販売されている小林製薬「アンメルツ」の名前の真の由来はわからない。
- 社内で一番有力な説は、英語「アンチ」とドイツ語「メルツ」を組み合わせたというもの。
- ただし小林製薬では別の薬品「あんまの瓶詰 アンメルツ」を販売していた過去があり、現在の「アンメルツ」の名前がまったく関係ないとは断言できない。
CMで聞き慣れすぎた商品名に、まさかここまで複雑な歴史背景が詰まっていたとは……これも50年近いロングセラー商品ゆえなのかもしれません。「あんま詰める」なのか「アンチ+メルツ」なのか。いずれにせよ「なんか効きそうなネーミング」ということで患部にぬりぬりしていきましょう。
(黒木貴啓)
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