東京都文京区、昔ながらの個人商店も立ち並ぶ江戸川橋の地蔵通り商店街は昼間も夜も人々で賑わう人気のエリア。その一角にあるビルの前に「入りづらくないですよ。フツーのバーです」と黒板に書かれた文字を見つけた。しかも「楽器演奏、自由です!! ピアノ2台買っちゃいました」とある。“フツーのバー”のようだがピアノを2台買ったと、あえてコミュ二ケーションを発信しているところに何かありそうな雰囲気を察知し、店がある地下1階に降りてみた。
店先には東南アジアの雰囲気をかもし出す小物や家具が置かれている。楽器と関係があるのか? そんな疑問を持ちつつ、中に入ってみると……。
広めの店内にはゆったりと腰掛けられるソファがデンッと置かれ、テーブル席とカウンター席があった。そのまわりに例のピアノが。確かに演奏ができそうな空間だ。
席についてぐるりと周囲を見渡すと、ワオ! 楽器がそこらじゅうにあるじゃないですか!
思わず立ち上がり、楽器のそばに寄る。そして「この楽器は何ですか?」と問いかけると、オーナーは快く説明をしてくれた。並んでいる楽器は、ヨーロッパからアフリカ、中東、インドやバリに渡り、韓国、日本を経由して、オーストラリア、そして南米までと世界一周ができるほど、ワールドワイドな品ぞろえだ。唖然(あぜん)。
さらにオーナーは、説明しながら楽器を手にして即興を披露。とてもリズミカルな心地いい演奏に、自然と拍手をしていた。
興味はますます高まり、オーナーご自身に問う。オーナーである飯田さんは音大の作曲家コースを卒業し、自身もクラシックを中心とした演奏活動を行っているという。大学時代に音楽事務所を設立。ライブやショーなどにアーティストを派遣し、自身も出演することがあるそうだ。その傍で音楽教室を行い、もうひとつの新規事業として6年前にここをライブハウスにしようとした。つまり、アーティストたちが脚光を浴びる場をもっと増やそうという思いだった。
しかし、飯田さんは料理が得意だったこともあり、カフェに変更。所持品である楽器を店内に置き、自由に触れてよし、演奏してよしとして、音楽の楽しさを享受してもらう場所としたのだった。
ところで、なぜアジアンカフェ? と聞くと、「民族楽器が好きだったから」とシンプルな答えが返ってきた。40〜50万円という高額な楽器も数多くラインアップする中、オブジェのように飾られていた楽器は東南アジアの民族楽器。自然の木の実や植物を使用した楽器まであった。これらも手にして、サクッと音を奏でてくれた。さすが!
これだけの楽器がそろうとなれば、セッションが自然と発生するのでは? 尋ねると、瞬く間にライブハウスと化す日もあるそうだ。
飯田さんは「楽器は演奏するためにあるものなので自由に弾いたり、叩いたりして楽しんでほしいんですね。それから、人がつながる場やミュージシャンが活躍できる場にしたいと思っています」と話す。そのため、音楽に限らず、さまざまなアーティストの個展なども随時開催しているそうだ。
店頭の黒板にあった文字に惹(ひ)かれ足を踏み入れたが、予想をはるかに超えるシチュエーションに驚かされたのはいうまでもない。数々の楽器、それらをすべて自由に使ってOKという、一風変ったコンセプトは音楽好きにはたまらないだろう。自分のアイデアを形にしたい――、そんな想いでさまざまな活動を繰り広げているオーナーのお店には、演奏を楽しむ以外にも違う楽しみも見いだせそうだ。
(茂木宏美/LOCOMO&COMO)
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