2月29日にオープンした小説投稿サイト「カクヨム」(関連記事)。二次創作作品も受け付ける許容性が話題になるなか、イスカリオテの湯葉さん(@yubais)のオリジナル小説「横浜駅SF」が、あらすじだけで面白いと注目を集めています。
小説の舞台は、横浜駅が幾度もの増改築を繰り返すうちに自己増殖能力を獲得し、膨張し続けて本州の99%を覆った、数百年後の日本。社会は駅の中と外とで分断された二重構造に……と、突飛な発想がこれでもかと詰め込まれたあらすじは、一読で「なんじゃこりゃあ!」となること必至。これだけ読むと出オチで終わりそうな予感がしかねないところですが、中身もしっかりと練られたSFに仕上がっています。
物語は、古代地層から発掘された「18きっぷ」を足がかりにエキナカへ侵入した主人公の冒険と、横浜駅による侵食を防ぐJR北海道やJR九州の戦いを軸に展開。SUICAをベースにしたネットワークや、喫煙所に集落を構える棄民の存在など、「自己増殖する横浜駅」という着想から出発した世界観が、活き活きと描かれています。作品ページのレビューも、「これこそがSF」「このタイトルで途中息切れしないのがすげえ」「ディストピアものの傑作」と、絶賛の嵐。
「横浜駅SF」は2015年に、「横浜駅は『完成しない』のではなく『絶え間ない生成と分解を続ける定常状態こそが横浜駅の完成形であり、つまり横浜駅はひとつの生命体である』」という作者のネタツイートから始まったもの。その後作者はこれを基にTwitter上で小説を執筆し、短編として完結。Togetterでまとめられ、好評を博しています。さらに作者はTogetter版を大幅に肉付けした完全版を執筆し、tumblrで発表。今回カクヨムにも投稿されたことで、ふたたび話題となっているようです。外伝的なエピソードも「増発」として、カクヨム版に随時追加されるもよう。
横浜駅に限らず、新宿駅に改札口が新設されるなど(関連記事)、大都市の駅が増改築で複雑化する昨今。「横浜駅SF」が描く世界は、決して絵空事ではないのかもしれません。
(沓澤真二)
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