5月22日まで東京・銀座のヴァニラ画廊で開催されている「人造乙女美術館」展は、2007年より開催され、今回で5回目。今回は美術評論家の山下裕二氏監修のもと、オリエント工業のラブドールとのコラボレーションという形で、日本美術の作品が立体化されています。入場料は1000円で、18歳未満の入場は不可。
今回撮影できたのは、池永康晟氏の「如雨露」をもとに生み出されたドールと、オリエント工業の職人の方が、オリジナルで仕上げたスチームパンク風な世界観のインスタレーションの2点。他にも日本画とコラボしたドールが2点と、実際に触ることができるラブドールなどに加え、歴代ラブドールの写真や年表なども展示されています。
展示室は大きく2つのエリアに分かれていて、歴代ラブドールの写真や、職人によるインスタレーションが展示されているエリアと、日本画などとコラボレーションしたドールが展示されているエリアがあります。
不気味の谷を越えたたたずまいに感動!
展示されているドールたちは、いずれも不自然さがない独特の雰囲気をもっています。最も深い部分で人と関わることを宿命づけられ造り出されてきた彼女たちは、より自然に、時には人間よりも人間らしさを求められ続けてきたとも言えます。その1つの回答として、人間を忠実に再現しているかではなく、妄想を受け止める器になっているかということなのかもしれません。
池永康晟氏の「如雨露」を元にしたドールはそれが際立っているように思えました。首の関節部にドールとしての人口的な部分を感じるものの、等身大の彼女と対峙すると思わず引き込まれてしまう感覚に襲われます。
彼女は展示室の奥に立っているので、入室すると、今まさに振り返ったかのようなポーズの彼女を見ることになります。まさに絵のままの印象を受けるのですが、予備知識なしで見たらドールとは思わないかもしれませんし、目の前に佇んでいたら、その手をとって、そっと手をつなぐというシチュエーションを想像(妄想)してしまいます。
近くで見ると、髪の毛の生え際やほのかにぬれているような瞳などがリアリティを生んでいるように感じました。一般的なドールはウィッグ(カツラ)を使用したりするようですが、彼女の場合は植毛をすることで、リアルな生え際を再現しました。また、指先にまで関節が入っていて、絵のポーズに近づけるよう微細に設定、調整されています。特に、制作過程で池永氏の監修のもと、描かれていない部分の解説や細部の調整などが行われたということで、これにより、つま先や着物の裾を摑む指の表情までもが絵画の通りで、とても萌えます。また、撮影の際の光の加減かもしれませんが、撮影した写真の仕上がりがむしろ絵画のように写ったものがあり、次元の融合を感じました。
技術的な部分以外でも、ラブドールや絵画には一種の技法があります。人は、目で見るときに余分な情報を処理しないと言われており、脳が処理していない(あえて認識していない)ディテールをあえて描かない(造作しない)事で、不気味の谷を越えるリアルさを得ているのかもしれません。自撮りアプリで自撮りのようなアングルで撮影してみたところ、「コレ俺の彼女」と言って人に見せても疑われないレベルに写りました。いや、お前の彼女がそんなにかわいいわけがない! と言う意味で疑われるかもしれませんが。
妄想×妄想=恋?
池永康晟氏の画集「君想ふ百夜の幸福」には、次のような一節が記されています。「これを描き終えたら 私は君を失うのだ。」
絵を描いている間は、そのモデルは私のもの、なのか現実には自分のものにはならないから、その思いを絵にこめるのか。いずれにしても完成した絵は、モデルそのものではなく、画家の思い(理想)が込められたオリジナルな存在ともいえます。
ドールもまた、求める人の思いに応えるべく作られており、実用品としてもバックオーダーを抱えているほどだそうです。
これら2つの思い(=妄想?)が掛け合わされた事で生まれた彼女には、油断したら恋に落ちてしまいそうな魅力があります。
非日常との融合によるリアリティ
もう1つの展示室に展示されているインスタレーションは、スチームパンク調の調度品や衣装をまとっており、非現実的な空間を演出しています。そこにいるドールはカスタマイズされていない通常のモデルということですが、人間サイズの服を着て、セットの中に座っているだけで、妙なリアリティがあります。
先に触れた池永康晟氏の「如雨露」を元にしたドールは、氏の絵をドールで再現するために技巧を凝らしたのに対して、こちらのドールは造形師のイメージ(妄想)を注ぎ込んで作られたように感じます。着ている服やアクセサリーはそのまま人間が着ても違和感のない凝った作りで、世界観の異質さと相まって、人間がこの衣装を着て座っているより自然に見えます。
美しいというよりはかわいらしい、娘として愛でたいという感じです。
1/3〜1/6スケールのドールと異なり、実在の服を着せることもできますし、大きさ的にも投影しやすい(現実のものとして受け入れやすい)ので、余計にそのように思うのかもしれません。
今回紹介した2点のドール以外も、日本画から再現したドールには、妙に艶(なまめ)かしかったり、人外(妖怪)なのにリアリティが感じられたりと興味深いものが多くありますし、歴代ラブドールの写真や変遷をみるのも面白いです。ぜひ実際に足を運んで全ての展示を堪能して欲しいと思います。画廊のWebページで使用されている写真は、今回の展示内容とは別物なので注意が必要です。
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さすがのオリエント工業クオリティでした。