ソウギョを採捕したら1万円――。野尻湖漁業協同組合が春から実施している環境復元のための施策は功を奏するのだろうか。
野尻湖(長野県上水内郡信濃町)の野尻湖漁業協同組合ではソウギョによる水草の食害を食い止めるため、ソウギョの根絶を目指している。20年ほど前から賞金をかけて採捕を呼び掛けていたが、2016年春からは予算を拡大し1メートル以上の個体であれば1万円を進呈すると賞金額を引き上げた。ネットでは高額賞金のインパクトもあって話題になった。
ソウギョはコイ目コイ科ソウギョ亜科に分類される中国原産の淡水魚。1878年以降に食糧難の解決のために日本に導入され、利根川水系をはじめ全国で放流された。水草を食害することもあり、環境省により要注意外来生物に指定されている。
「野尻湖に関する水草帯の復元と保全手法に関する検討」によると野尻湖は、1970年代に高度経済成長の影響や外来植物の侵入により、水草が船の運航を妨げるほど繁茂してしまい、その駆除目的で1978年にソウギョを5000尾ほど放流されたとある。当初はゆっくり水草が減少し、ソウギョ自体も寿命で数を減らすと見られていたが、3年で水草は食べつくされ、水草に産卵する生物の減少や水質汚染など生態系に深刻な影響を与えてしまった。ちなみにソウギョの寿命は一般的に10年ほどといわれているが、野尻湖が住みやすかったのか大幅に寿命を更新している。
野尻湖の生態系復元にはソウギョの根絶が必須と、現在の漁業協同組合は地道だが確実な釣り人の手助けを求めた。「今年は3本届け出があって賞金を渡した」と取材に答えてくれたのは代表理事組合長の石田和夫さん。大型化してしまったソウギョを釣り上げるには時間を要するため、偶然かかっても途中で糸を切ってしまう釣り人も多いという。賞金はこうした放棄されるルアーや釣り糸を湖底に残さないためでもある。
ソウギョはその生態から野尻湖では繁殖しないため、現在生息している個体は38年前に放流された生き残りということになる。漁獲したソウギョを確認・計測する野尻湖ナウマンゾウ博物館の担当者によると、現在野尻湖には採捕や自然死で数を減らしたとはいえ、100尾から200尾ほどのソウギョが生き残っているのではないかと推測されている。
賞金は野尻湖で釣り上げたソウギョが対象。釣り上げた場合は前述した博物館(026-258-2090)に連絡が必要で、引き取ったあとは生態調査のデータ蓄積に役立てたのち、標本にしたり土に埋めたりして処分されている。なお、賞金は年10尾限定で、それ以上は賞金が出ない。
これからの季節は水温が低くなるためソウギョの活動も鈍くなり、徐々に釣れなくなるという。野尻湖はブラックバスなどの外来魚全てを駆逐するのではなく、あくまでも豊かな水草の復活を目指している。豊かな水草は豊かな生態系につながる。最近は長年の活動が実り、エリアによっては少しずつ水草が増えてきているそうだ。釣り人にも優しい1970年以前の野尻湖に戻る日は近いのかもしれない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 絶滅の危機→保護したら増えすぎた ポケモン新作のラプラスの設定がリアルすぎる
生態系って、人間の思い通りにならないものですね。 - 「ごく稀に生き返る場合がございます」冷凍どじょうの注意書きに驚く人が続出 メーカーに本当か確認してみた
鮮度とは……! - レアな「アオザメ」がオーストラリアに出没 釣り人に華麗なジャンプを見せつける
わりとヤバイ状況なのに青ざめもせず、みんなけっこう陽気。 - 米アラバマ州、魚釣りに行った男性がなぜか猫をゲットする
世の中いろいろなことが起こります。 - 米袋の結び口がネコ耳に! ツシマヤマネコ保護につながるお米のパッケージが心つかむデザイン
お米×ツシマヤマネコの組み合わせをここぞとばかりに活かした商品! - ジャイアントパンダが「絶滅危惧種」から「危急種」に 緊急度は1段階下がるもIUCNは今後の個体数減少を懸念
パンダが住む竹林地帯の減少が危ぐされており、森林保護なくしては再び減少に向かうとの予測。 - JR西日本と須磨海浜水族園が“カメの事故死を防ぐ方法”を開発 みんなが「さわやかな気持ち」に
カメがポイント(分岐器)に挟まり列車を遅らせる事象をなんとかしたい。 - オランウータンがアーティストデビュー 保護活動の一環でジャズ楽曲を販売
8月19日の「国際オランウータンの日」に合わせてリリース。