文字フォントの1つである「ヒラギノ角ゴシック」をW0〜W9まで一列に並べてみたところ、「W0の雪だるまだけ他とデザインが違う」というツイートが話題になりました。 なぜW0だけがこうしたデザインとなったのか、開発元に取材しました。
きっかけとなったのはTeX2img(TeXソースコードを画像で出力するアプリ)の開発者としても知られるYusuke Terada(@doraTeX)さんのツイート。
ヒラギノ角ゴシックのW0からW9まで雪だるまを1列に並べると、確かにほかの雪だるまが白い帽子なのに、W0の雪だるまだけは黒い帽子をかぶり、微笑んでいるように見えます。
この違いについてYusuke Teradaさんは、TeXデベロッパー界では、「雪だるま」で遊ぶのが一種の「お約束」となっていると言い、今回の「W0だけ雪だるまのデザインが違う」ということに、今更ながら偶然気づいたと明かしました。
そもそもW0とはどういうフォントなのか
ヒラギノ角ゴシックW0は、10種類ある「ヒラギノ角ゴシック」の一種。これまでのヒラギノ角ゴシックの中で最も細かったW1の約半分の線幅で設計されており、いわば「極細ゴシック」です。ほかの極細フォントよりもスタイリッシュな印象で人気があります。
「なぜW0の雪だるまは黒い帽子をかぶったのか」開発元に取材
そんなW0ですが、雪だるまに関してはW1〜W9までは全く同じデザインなのに、なぜW0だけデザインが異なるのでしょうか。開発元であるSCREENグラフィックアンドプレシジョンソリューションズのフォント担当・三橋 洋一さん(以下、SCREEN)にお話を伺いました。
――なぜW0の雪だるまは黒い帽子をかぶっているのでしょうか
SCREEN:それは、W0だけ制作時期とフォントのデザイナーが異なるからです。W1〜W9までは1990年代に字游工房さんが制作したもので、W0は字游工房さんから独立したヨコカクさんが2014年に制作したものです。欧文はSHOTYPE DESIGNの岡野邦彦さんが担当されています。
――なぜW0はヨコカクさんと岡野さんが担当することとなったのでしょうか
SCREEN:ヨコカクさんは字游工房さんに長年在籍した岡澤慶秀さん率いる書体制作会社で、字游工房と同じく優れた技量を持ち、かつヒラギノフォントのデザインを完全に理解し再現できる数少ない会社です。弊社ではその時々の開発プロジェクトの内容や状況に応じて、この2社から委託先を決定し、品質を維持しています。
――そうだったのですね。具体的にはなぜ雪だるまのデザインが大きく異なるのでしょうか
SCREEN:雪だるま始めいくつかの記号類を弊社では「共通記号」と呼び、本来はフォントのウエイト(太さ)が変わっても、太さを含めてまったく同じデザインにします。しかしW0は細いデザインのフォントのためW0で同じ共通記号を使うと、共通記号だけが太く見えて違和感が出てしまいます。そのためW0では共通記号のデザインを調整してもらいました。
――ということは、雪だるま以外にもデザインが違うものがあるということですか
SCREEN:そうです。しかし多くは微妙な違いで、雪だるまのように「目立つ」違いは他にはないと思います。
――そもそもなぜ「ヒラギノ角ゴシック」に雪だるまが搭載されているのでしょうか
SCREEN:雪だるまは弊社のヒラギノフォントに限らずDTP用のフォントには1990年代から採用されています。現在はOpenTypeフォントが主流ですが、それ以前はCIDフォント、さらにそれ以前はOCFフォントと呼ばれるフォントが主流でした。このOCFフォントにも雪だるまは搭載されています。さらにOCFフォントに雪だるまが搭載されていた理由を少し調べてみたのですが、当時のワープロ専用機に由来するらしいというところまでしか分かりませんでした。
――W0の雪だるまのデザインが違う、とTwitterなどで話題になっていたことは知っていましたか
SCREEN:はい、知っておりました。しかしここまで反響があるとは意外でした。でもこういった話題を機に、より多くの方にフォントを身近に感じてもらえるとうれしいですね。
三橋さんによると、雪だるまなどの共通記号だけでなくW0では英数字や記号などのデザインも一新されているとのこと。見比べてみると確かにのびやかでメリハリのあるデザインが特徴的ながらも、従来のデザインを踏襲したステキなフォントになっています。
普段目にするたくさんの文字フォント、これからは文字そのもののデザインにも注目してみると毎日の生活が楽しくなりそうです。
(Kikka)
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