建築の専門雑誌「建築知識 1月号」が猫のための家づくりを特集したところ、大きな注目を集めて売り切れが続出。なぜバリバリの建築専門誌が「猫」にスポットライトを当てたのか、販売元・編集部を取材しました。
普段は「魅力的な庭がほしい」「外観に表情をつくりたい」など、建築を専門とする人に向けた情報を発信している「建築知識」。しかし2017年1月号を見てみると目次に並ぶのは「猫にも人にも快適なリビングにする」「猫のステージ」「これだけは必要! 猫グッズ」など猫の話題です。
本文中でも「通常時」「伸びた際」「爪で壁をカリカリした際」「丸まった際」といった猫のサイズが記されていたり、猫はどれくらい跳躍できるのかが品種別にまとめられていたりと、猫専門誌顔負けの内容が続きます。一方で「人と猫も大満足のキャットウォーク」といった建築らしいページもしっかりとあり、建築業界の人が読んでも、猫好きが読んでも楽しめる内容となっています。なぜ猫と住宅の特集に踏み切ったのか「建築知識」編集長にお話を伺いました。
猫ファーストな住宅こそが、家族にとって心地よい住宅
――普段は建築の専門誌としてお堅い内容を取り上げている「建築知識」ですが、なぜ1月号は「猫」を取り上げたのでしょうか
編集長:「半外飼い」から「完全室内飼い」へと、猫にとっての生活環境が近年変化しつつあります。伝染病や交通事故など問題もあり、獣医師も完全室内飼育を推奨しているのですが、猫にとっても暮らしの場となる室内を「猫のためにどのようにつくるか」については建築の業界でも真面目に議論されていなかったと思います。一般的に住宅の設計では、一番長時間家の中にいる方の要望をくみ取れると満足度の高い住宅になります。であれば、生涯を通じて家のなかだけで生活する猫のキモチを優先した猫ファーストな住宅をつくれば、ともに暮らす家族にとっても居心地のよい住宅になるはずと考え、この特集を企画しました。
――なるほど、めちゃくちゃよく考えられた企画だったのですね。編集部でも猫を飼っている方はいらっしゃいますか
編集長:私自身もロシアンブルーのメスと暮らしており、お布団の上でおしっこをする、夜中に大暴れをするなどの問題行動と住環境の関係を痛感しております。
――あまりの人気に売り切れているという情報も目にしたのですが、普段と比べての売り上げや反響はいかがでしょうか
編集長:ありがたいことにいつもの倍くらいの売れ行きです。ネット書店は全て完売、大手書店でも完売店が多数出ました。ずっと在庫がなくお求めになりたい方には本当にご迷惑をおかけしております。とはいえ雑誌の宿命上、次の号(猫特集は1月号なので2月号)が出ると少しは返品がございましたので、それの再出荷にむけての準備をしているところです。近々ネット書店でも、近所の書店でも購入が可能になるかと思います。
――おぉー! プレミアがついているなんていう情報もありましたからそれはうれしいですね。誌面では猫についてかなり細かくまとめられていますが、いろんな専門家の協力で成立した企画だったのでしょうか
編集長:弊社はもともとは建築専門の出版社なのですが、近年は「世界で一番美しい猫の図鑑」「ネコの看取りガイド」「ネコのキモチ解剖図鑑」など多数の猫関連書籍を出しておりまして、獣医師や猫の行動学者の方との面識がございました。今回の執筆陣の1人、哺乳類動物学者の今泉忠明(ねこの博物館館長)さんには「世界の美しい野生猫」という書籍でも監修をしていただいております。そのほかの執筆陣は、猫と暮らす家づくりを専門とする建築家(金巻とも子さん、廣瀬慶二さんほか)となっております。
――1月号に関しては「建築」に興味のない「猫好き」のハートも射止めたのではないかと感じたのですが、最初からそうした狙いはありましたか
編集長:まったくありませんでした。既存の読者である建築関係者に対して「いつもとは違う新鮮な企画を」というつもりで編集作業を進めておりましたので、社内でも歴史的に売れない号になるかもという危惧(きぐ)のほうが大きかったと思います。私も正直売れるとは思っていなかったのですが、実際にはこのような取材を受けるほどの反響をいただいたのですから、分からないものですね。
――購買層もいつもとは違いますか
編集長:某大手書店の売り上げデータは男女・年齢などの属性が把握できるようになっていて、それによると、いつもの号は購読者の75〜80%が男性なのですが、この特集は50%が女性でした。ですので、通常購入されたことのない猫好きの方々に支持をいただいたのだと考えております。感謝申し上げます。
――今後もこうした「動物と建築の特集」などを検討されていますでしょうか
編集長:これだけ反響があると検討しないわけにはいかないですね。
戦前に創刊後、一度の休止を経て来年で創刊60周年を迎える雑誌「建築知識」。今回は「猫」でしたが、今後はどのような企画が出てくるのか楽しみですね。意外な特集をきっかけに「建築」に目覚める人が出てくるかもしれません。
画像提供:「建築知識」編集部
(Kikka)
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