コミックマーケットや東京おもちゃショーなど、イベントや展示会の開催地として知られる東京ビッグサイト(東京都江東区)。こちらが2020年東京五輪・パラリンピック(以下、2020東京大会)の開催中に一般利用できなくなることが、ここ2年ほど問題視されています(関連記事)。
東京ビッグサイトは4月26日、約1年2カ月ぶりとなる企業向け説明会を行い、2019年・2020年度の利用状況の変更点を発表しました。企業が施設を利用できる期間は増えましたが、2020東京大会時期に一切利用できないのは依然として変わらぬ状況。東京ビッグサイト側は理解や協力を呼び掛ける一方、企業からは不安や反対の声が出ています。
これまでの経緯と今回の変更点
同施設は、2020東京大会で世界各国が報道活動の拠点とする「国際放送センター」(IBC)や「メディアプレスセンター」(MPC)として使用されることが決まっています。そのため2019年4月〜11月には半分以上を占める東展示棟と新東展示棟が、2020年4月〜10月には施設全体が利用できなくなる計画が発表されていました(2016年2月時点)。
しかしコミケのように施設全体を使用してきた大規模なイベント・展示会は、代わりの会場が用意できない場合、その時期は開催中止または規模縮小が余儀なくされます。経済的に約1兆2000億円の損失になるとして計画変更の署名活動を日本展示会協会が行うなど、業界からは反発の声があがってきました。これを受け2020東京大会の組織委員会と東京ビッグサイトも、2015年秋から複数回に渡って軽減策を講じてきたのが現在の状況です。
説明会は今回で3回目。参加登録していた企業数は500を超え、会場には目算で500、600人ほど集まっていたといいます。
変更は主に以下の2点。
- 青海展示棟(前・仮設展示場)を利用できる期間が、5カ月分延長。
- 西展示棟・南展示棟(前・拡張棟)を利用できる期間が、それぞれ2カ月ずつ延長。
青海展示棟は、2019年4月から一時的にりんかい線・東京テレポート駅(東京ビッグサイトより徒歩約20分)付近に建てられる仮設展示場。展示面積は2万3200平米、これまで主に利用されてきた東展示棟と西展示棟の合計9万6540平米に比べ、約4分の1程度の広さになります。
2万平米ほどの展示面積を要する中規模なイベントにとってはメリットがあります。しかし大規模なイベント側にしてみれば1年前と状況は余り変わらない内容となりました。
また、2020年7月〜9月は全施設利用不可のままです。青海展示場は企業に開放しても良さそうですが、2020東京大会中に東京ビッグサイト近隣でイベントが開催されるとセキリュティの問題など大会に支障を来す可能性があるため、利用不可にするとの説明でした。
東京ビッグサイト側の主張 「企業の協力によって調整は可能」
東京ビッグサイトに取材したところ、説明会の質疑応答では企業側から、2020東京大会では他の施設を使えないのか計画変更を求める意見が多々あがったそうです。代替案としてあがった施設は豊洲市場など。
しかし東京ビッグサイト側は、IBCやMPCとしての使用の見直しはないと回答。豊洲市場の今後の利用については都で検討中ですが、東京ビッグサイトの代わりに利用する方針も特にないことも伝えました。
代替施設として企業に案内しているのは、パシフィコ横浜や幕張メッセなど。
「2019年・2020年度の細かい利用状況がようやく固まってきたので、5月下旬から各企業へ順次個別に利用調整を相談していきます。まだ月単位でしか利用状況は決まっていないのですが、これからさらに日数単位で見直すことで、企業が使用できる期間が増える可能性はあります。企業側に開催日の移動などあらゆる面で協力してもらうことで、従来のようにイベントや企画展を開催することは可能なのではないかと考えています」(東京ビッグサイト担当者)
企業側の主張 「根本的な問題が解決されていない」
説明会に出席した企業側の人は、今回の変更や説明にどのような感想を抱いているのでしょうか。この問題について2015年から情報を発信し続けている、同人印刷会社「栄光」(広島県福山市)の社長・岡田一さんに取材したところ、次のように振り返ります。
岡田: 西展示場・南展示場の利用制限が、7カ月から5カ月に短縮された――これは施設側も努力されたなと認めています。しかし企業側が要求しているのはこうした枝葉の部分じゃなく、根幹の“2020東京大会で東京ビッグサイトを使用することの見直し”なんです。
こちらについては“決まっていることだから”という説明しかなされませんでした。『IBCやMPCとして使用するのはオリンピックがあるので仕方がないこと』『大会組織委員会も最大限努力したので受け入れて欲しい』など。東京ビッグサイトそのものは都の所有物なので、都が招致するオリンピックでどう使おうが勝手という姿勢にも受け取れます。
――東京ビッグサイトをオリンピックで使うことにはどのように考えていますか。
岡田: これまでのオリンピック組織委員会はMPCの拠点を選ぶ際、リオ大会、ロンドン大会、北京大会いずれも、企業側のイベントや展示会の開催に支障が出ないよう配慮してきました。既存の展示会場を一部使うことはあっても、しっかりMPC用の仮設会場を作ってきています。
東京ビッグサイトを使用する案は、2008年石原都知事のころ五輪を招致する際に立候補ファイルへ書き込んだだけのもの。一度は市場移転後の築地を利用する案もあがっていたので、ほかの施設へ変更することも不可能ではないはずです。
企業側からは築地か豊洲のどちらかを使えないか提案しています。いずれも土地は20万平米あるなど広さとしても十分だからです。
――このまま使用された場合、経済への影響は。
岡田: オリンピックの開催時期だけとはいえ、大規模な展示会が一時期的に開催中止、規模縮小してしまうのは、大きな経済損失を生んでしまいます。
国際的な展示会というのは出展企業や品ぞろえが多ければ多いほど海外メーカーから注目を集めやすいので、1カ所かつ広い会場を用意しなくてはいけない。日本の展示会はすでに、広い会場を確保している北京や上海に人気を奪われ始めています。例えば東京モーターショーも、近年は中国の上海モーターショーに後塵を拝している状況です。
こうした流れで展示会が一時的でも規模を小さくしてしまえば、海外からの注目をますます失い、経済損失につながるでしょう。
――企業がほかの施設を探すことは難しいのでしょうか。
岡田: パシフィコ横浜は2万平米と、大規模なイベントには狭すぎます。幕張メッセはそれこそ組織委員会から2020東京大会の会場として6カ月利用したいという要望が出ていて、千葉市も『さすがにそれだけ長く使わせるのは難しい』と調整している段階。代替施設を見つけるのは難しいと思います。
――今後はどのように働きかけていきますか。
岡田: 決定事項の変更はどこに訴えればいいか質問したところ、東京都が窓口になるというのが東京ビッグサイト側の回答でした。2020年まであと3年……正直、もう時間切れが差し迫っている段階です。7月の都議選が終わってしまったら、頼みの綱ともいえる小池都知事もこちらの要望を一切受け付けなくなる可能性もあるので、この2カ月が最後の勝負と言えるでしょう。
説明会には都の担当者が1人出席していただけで、大会組織委員会からは誰もいませんでした。今後東京ビッグサイト側が、都と企業が話し合える場を設ける予定はありません。都はもう決定事項として済ませ、企業側は根本的な問題として指摘し続けている、“オリンピック東京ビッグサイト利用問題”――タイムリミットは刻々と迫っています。
(黒木貴啓)
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