おいしいものを食べると、人間は幸せになるようにできています。けれども『人魚姫のごめんねごはん』は、食べれば食べるほど悲しみに満ちていくマンガ。今回は涙にくれながら友達を食べる人魚姫エラ姫をご紹介。
1話目が公開されたとき、ネットでの反響は絶大で、瞬く間に2万7000RTされました。「面白いからこれちょっと見てよ!」って言いたくなる、インパクトがある。
海の底のお魚たちの王国。人魚姫のエラは、お友達である魚たちと仲良く暮らしていました。リトルなマーメイドでアンダーのシー。それはそれは幸せでした。
ある日、カツオの鰹男がいなくなってしまいました。釣られてしまったのです。魚たちは口々に言いました。「お別れくらい言いたかったね」「誰にも弔われぬとはさぞ無念でござろう……」
エラは、せめて鰹男を弔いたいと願います。陸上の料理屋に行くと、そこにはたたきになった鰹男の姿が……あな悲しや、手を合わせるエラ姫。食べようとしない彼女に、何も知らないとなりのおじさんは、言いました。
「これじゃあ釣られたカツオも、成仏できねぇな」
野蛮で冷酷な人間の所業……ッ!
弔いたい。その一心で、カツオのたたきにエラ姫、箸をすすめる。口に入れる。その瞬間、電撃が走りました。いいお味ですーー!!
エラの口は人間の形で「魚を食べる」ようにはできています。この1ページだけ見ると、普通の人間のグルメ漫画のよう。
問題は、仲間の魚たちと情愛を交わしてきたこと。飼っていた鶏やブタを食べるのと、だいぶ違う。意思疎通し、会話をし、一緒に友情を育んできた相手を、彼女は食べている。
友食い(「共食い」ではない)です。魚が人間的な考え方をしている分、どうにもカニバリズムを想起させられて、ギョッとしてしまう。
1話のエラは「お友達を食べてしまった」ことへの恐怖心と、おいしく感じた罪悪感に押しつぶされます。
2話では、かつてエラが片想いをしていた(重要)マグロの鮪郎が、その場で解体(殺魚!)され、極上の寿司に。「こいつは、姉さんに食われるために生まれてきたのかもな」という、すしざんまい的な顔の職人の言葉が、刺さる。そんなこと言われたら、食べるしかないじゃない!(涙)
弔う人魚姫様
アイヌの人々は鮭を「神の魚(カムイ・チェプ)」と呼び、捕まえたときは身体を全て捨てることなく、大切に食しました。敬意と感謝です。ならば丁寧に調理された友達の魚たちも、敬意を払っておいしくいただくのなら、罰当たりじゃないでしょう?
いやいや待てよ、じゃあぼくら人間は家族や友達が亡くなったら、礼儀を払って食べるのか。そういう地方も世界にはあるかもしれないけど、ちょっと考えたくない。
エラ姫の食は加速。一度食べてしまった禁断の果実=仲間の肉の魅力に、もうあらがえない。だんだん「食べたい」気持ちが先走りはじめる。まるで、血の味を知ってしまったクマのよう。
次第に、周りの友達がみんな食べ物に見えてしまうようになります。
注目したいのは、タラの鱈淵くんに「一番ヤバい奴」と言われたり、マタギの千代バァさん(人間)に「ケダモノを感じる娘」と称されていること。ひょっとして、エラ姫の中には残虐な何かが最初からあったんだろうか?
ポンコツ姫エラ
エラの本来の性格は、明るくて純粋で、ものすごくポンコツ。記憶喪失になったとき、彼女はなぜか選挙に立候補し、当選してたりします。なんでだ。やっぱカリスマがあるのか?
何もかも忘れて振り切って人間になれれば、思いっきりおいしいお魚食べられるのにね。でもあなたは、魚でも人でもないんだ。
彼女が1つ絶対変わらないのは、魚への冒涜(ぼうとく)を許さない姿勢。魚たちは幸せなことに(?)、魚を愛する人々に丁寧に料理され、おいしく食べられています。だからこそ、魚への向き合い方が失礼な人のことは、許さない。
そもそも海の中も弱肉強食。マグロなんかはイカとかサンマとかを食べています。だからひょっとしたら、「弔い」という真意を説明をすれば、彼女は海の仲間にも認められるんじゃないかな。エラの血肉となって、友達がいっぱい生きているのですし。ただし距離は置かれるかもしれない。
なお1巻最後で「釣り」に誘われるという過酷な試練が。自分の手で仲間を殺すのは、ちょっと!
ごめんねと言いながら、いいお味の魚を食べ続け、苦しみがつもっていく彼女の葛藤は続く。踊り食いとか生け作りとか見たら、彼女のメンタルどうなっちゃうんだろう。
(C)Hiroshi Noda・Takahiro Wakamatsu 2017
(たまごまご)
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