日本の硬貨はなぜ「五円玉」だけアラビア数字が使われていないの? こんな疑問が6月上旬からTwitterで話題になっています。確かに、一、十、五十、百、五百円玉は表面に漢数字、裏面にアラビア数字で金額が表示されているのに、五円玉は表に「五円」と漢数字のみ。何か意図があるのでしょうか?
きっかけは、あるTwitterユーザーの何気ないつぶやき(現在は削除済み)。外国人がレジで五円玉がいくらか分からず戸惑っている姿から五円玉だけが漢数字のみだと気付き、現代社会では不便では? と疑問を投げかけます。すると「言われみればそうだ」と驚く人が続出し、疑問の声が広がっていきました。
日本の硬貨の発行元は日本政府、製造は独立行政法人の造幣局。現在新しく硬貨を発行する際、デザインは造幣局が数種類の図案を提示し、最終的に政府が閣議で決定する形を採っています。
五円玉が現行デザインになったのは1959年。漢数字のみである理由を財務省理財局広報課に尋ねたところ、「『五』はあくまでデザインの一部であって、なぜ漢数字なのかこれといった理由は特にありません。他の硬貨にアラビア数字・漢数字が併記されているのも同じです。当時どういった判断で『五』を用いたデザインに決まったのかも分かりません」と回答しました。
デザインを新しくする話は過去にあがったことがあるのでしょうか。
「偽造貨幣が出回ったりするとデザインを新しくするといった対応もするでしょうが、特にそういうことも無いので具体案はあがったことはありません」(理財局広報課)
造幣局の広報課にも取材したところ、漢数字のみになった詳細は「分からない」と回答。ただ、他の硬貨とのデザインのばらつきについて、次のように説明します。
「例えばEUの通貨『ユーロ』の場合、低額から高額まで全ての硬貨が同じ年に流通を開始されたので、デザインも統一されています。しかし日本の現行硬貨は、一円玉が1955年、百円玉が1967年、五百円玉が2000年、と流通が始まった年がバラバラです。デザインも順次、当時の時代背景に左右されながら決められてきたので、このように同じ硬貨でも違いが表れてくるのではないでしょうか」(造幣局広報課)
五円玉は戦後最初の硬貨として、1948年に発行開始。初めは穴はなく周囲にギザあり、表面に国会議事堂と「五円」、裏面に鳩・梅花と「日本國」と刻まれ、今とは大きく異なるデザインでした。1949年、現行デザインとほぼ変わらぬ“フデ五”が発行開始。戦後日本の発展を祈願して、表面には農業を表す「稲」、水産業の「水」(下部の水平線)、工業の「歯車」(穴の周り)が、裏面には双葉が配されます。
「フデ五の書体は筆で書いたような楷書体で、裏にも旧字体で『日本國』とありましたが、1959年に十・五十・百円玉のデザインを見直すついでに、現行デザインのゴシック体のような書体に変更。『國』も『国』に変わりました。1955年から発行されていた一円玉に書体を合わせた可能性があります」(造幣局広報課)
十円玉は1953年発行開始(いわゆるギザ十)の際、五円玉より高価なため刻印が精緻な平等院鳳凰堂をデザインしました。五十円や百円はさらに高額なため、図柄の凹凸がより顕著に。このように時代時代の個性が残っているのが日本の硬貨の特色なのかもしれません。
それでもここ20年ほど硬貨にはユニバーサルデザインが提唱されているため、造幣局でも2012年と2014年、ユニバーサルデザイン国際会議の併設展示会にて、来場客に五円玉について意見を求めたとのこと。目が不自由、外国籍などさまざまな人から「言われてみればそうだけど、確認すれば分かる」「他の貨幣と比較すると分かるよね」と、あまり問題ないという声をもらったそうです。
「硬貨のデザインの見直しは必要に迫られた場合に行われます。例えば五百円玉は外国貨幣からの変造が流行ったため、2000年に現行デザインへ変更されました。しかしその際もデザインを変えると社会に混乱を招くため、1982年からの図案を大きく踏襲し、偽造防止技術を盛り込む方針を採りました。五円玉はお子様からお年寄りまで違和感なく使ってもらっているので、よほどのことが起こらないとデザインをいじるのも難しいのでは」(造幣局広報課)
特に変更する予定もなく、当面は現行デザインのままの五円玉。「五」の意味に戸惑っている人がいたら、これも何かのご縁ということで教えてあげましょう。
(黒木貴啓)
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