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「もせあ」って覚えてる? 音楽データの扱いに革命を起こした「MP3」の衝撃かーずSPのインターネット回顧録

MP3の普及で、音楽・音声の扱いは一気に変わりました。

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MP3

 今年(2017年)の4月、MP3の特許権が消滅したとのニュースが流れました(関連記事)。

 MP3が普及し始めてからおおよそ20年はたっているわけで、時代の流れを感じます。

 今じゃ考えられないことなんですが、昔のネットではMP3=アングラなイメージが濃厚だったんです。


出会いは違法コピーから

 最初にMP3に出会ったのはインターネット以前の、パソコン通信(※)のオフ会でした。東京BBSをはじめとして、個人運営による草の根BBSのいくつかに出入りしていた時代。X68000というパソコン(パーソナルワークステーション)の同好の士が集うオフ会に参加したのがMP3との出会いでした。

※個人宅のパソコンに電話回線を繋げたもの。ユーザーは各自モデムを通じて電話をかけて、ホスト宅のパソコンにアクセスする仕組み。そこでは掲示板でオタクな会話をしたり、データ置き場に自作イラストやオリジナルMIDIを公開したり、今とそう変わらないのが人の性ってことなのかも。個人の電話回線なので、誰かが繋いでいるあいだは他のユーザーはログインできません。新参者は過去のCGをかたっぱしから集める傾向があって、何時間も回線を占領してシグオペ(BBSで権限を持つ管理者の1人)や古参からお叱りを受けるのが習わし

 メンバーは男20人くらいで全員男。メガネ率90%、シャツをズボンにイン率50%。初参加の僕は「お、おう」とビビりつつも部屋の片隅で気配を消していると、ヒョロメガネでチェックシャツの人が、手焼きの謎CD-Rを持参してました。

「MP3でござるよ〜」

 すいません盛りました。そんな沙織・バジーナみたいな女子じゃなかったですが(というかおっさん)、その人のCD-Rの中身がアニソンMP3詰め合わせでした。「機動戦士ガンダム」「魔女っ子メグちゃん」など70年代から90年代にかけてのアニソンがギッシリ。


MP3 ※違法コピーは犯罪です

 他のオッサンたちは「おおぉ〜っ!」と歓声を上げていましたが、正直、僕には「MP3?」がさっぱりわかりません。

 昔のオタク同士はサル山のサルのごとくマウントを取り合うのが性質です。「え、お前こんなのも知らないの? ププ」ってバカにされそうなので、さも当然みたいな顔で知ったかぶりをしてました。舐められちゃダメだという謎の矜持。当時のオフ会の、刺すか刺されるかって緊張がハンパなかったんです。

 帰宅後にいろいろ調べて、Winamp(※)というミュージックプレイヤーを知り、使ってみてその圧縮率に驚がく。

※編注:当時もっともよく使われていたMP3再生・圧縮ソフト

MP3 Winamp。懐かしいですね

 普通、CDに音楽データを入れれば12〜13曲しか入りません。ところがMP3で圧縮すると、1枚のCD-Rに150曲以上入る。MP3は非可逆圧縮なので、音楽CDよりも音質は劣化しているらしいのですが、自分の耳には違いが分からなかったです。1曲が10分の1のサイズに圧縮できちゃう技術に心臓バクバクです。

 音楽といえば、音楽CDをCDコンポに入れて聞くことしか選択肢にない時代。MP3との出会いは衝撃的でした。いちいち音楽ディスクを交換する手間すら要らずに、HDDに入れておけば何百曲も延々と流し続けられるんですから。

 MP3はネットでのコピー配布に使われやすいこともあって、パソコン通信やインターネットではキーボードのかな入力からきた隠語「もせあ」と呼ばれていました。


MP3 「M」「P」「3」で「もせあ」

 当然そんな隠語は真っ先にバレてサーバ会社から消されるので、MP3を埋め込んだJPG画像など、偽装ファイル文化が発達していきます。謎じゃむ、うめ〜このみかん、猫缶、いろいろあったなあ……(遠い目)。

 またWinampには「スキン」と呼ばれる機能がありました。デザインを自由に変えられるのです。当時は泣きゲーがブームになっていました。特にLeafの「To Heart」やKeyの「Kanon」のキャラクターでスキンを作成して、配布するサイトが多かった印象です。これも厳密に言うと著作権しn(ゲフンゲフン)。


アニラジで開眼したMP3

 確かに初期のMP3は違法コピーと密接な関係がありました。けれどアングラ色が強かったのは90年代まで。あくまで個人的な体感ですが、00年代以降はそうしたイリーガルなイメージも払拭されていって、取り回しが良い便利なファイル形式として爆発的に普及します。

 個人的にMP3がもっとも活躍したのは、ラジオ番組の録音でした。自分は子どものころから「コサキンラジオ」のヘビーユーザーで、毎週120分カセットテープが増え続けるのがドラえもんのバイバインのごとく脅威でした。


MP3MP3 際限なく増えるカセットテープの恐怖

 「鷲崎健と浅野真澄のアニスパ!」「田村ゆかりのいたずら黒うさぎ」「電撃大賞」「松来未祐と金田朋子のRADIOデコピンないと」。楽しいアニラジが爆発的に増えていき、MD増えすぎ問題が深刻化した我が部屋。そのころ、ラジオチューナー機能付きで、ラジオ番組を直接MP3で録音できるデジタルプレイヤーが登場しました。当時3万円。今じゃ2000円代から見つかりますけど、当時は高額な商品です。

 これでラジオ番組の保存が捗りまくりでした。当時一人暮らししていた部屋には電波が入らなくて、土曜の夜にわざわざ会社に残って、夜中3時まで録っていたのも懐かしい思い出です。野球が延長しまくって「アニスパ!」が全然始まらなかったり……。


個人Flashの盛り上がりにも寄与した、縁の下のMP3

 個人的なアニラジの思い入れが暴走しちゃいました。それほど便利な技術だったのです。ファイルサイズの縮小がもたらしたことの恩恵は他にもあります。以前にお話した個人Flash動画の音源にもMP3が使われることが大半でした。



 ああいう面白いFlash文化が盛り上がったのもMP3があってこそ。もしもMP3がなかったら無音か、WAV形式(無圧縮の音声データ)がそのまま使われていたかもしれません。当時のアナログ・ADSL回線が主流の時代に、WAVを埋め込んだFlashはさすがに流行らなかったでしょう。そのまま個人Flash文化は消えてしまっていたと思います。

 今や音楽配信も当たり前になってますが、これってすごい革命です。深夜アニメを見ながら、気に入った主題歌があったらすぐさまポチってフルで聴けるなんて、素晴らしい。昔は深夜ラジオで気になる曲が流れていても、買えるのは翌日CDショップが開店するまで待たなくてはいけなかったんですから。

 かつては誰の部屋にも1台は置いてあったCDコンポと、CD収納棚。現在はスマホ+Bluetoothスピーカーで済んでしまう、シンプルな音楽生活に変わりました。

 「音」を取り巻く環境が激変した、その中心にいたのがMP3。数年経てば激動するネット文化において、20年たっても現役で使われている規格というのがまた驚きです。

 優れた技術は時代を超えて存続するんだなあと、さきの特許権消滅のニュースを見ながらしみじみと思ったのでした。


かーず


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