監督「いっぱい、甲子園の土をさわっておけ!」
1991年、夏大会に出場した岡山東商業高校ナインにもお話を聞けました。1回戦、センバツ準優勝で、後に日本ハムへ入団する上田佳範投手擁する松商学園(長野)を前に、惜しくも2-6で敗退。
キャプテンで3番キャッチャーだった橋本さんはこう語ります。
「お世話になった方々へ配りました。親がリビングの棚に、花と一緒に飾ってあります」
「甲子園練習で、監督に『試合前に、いっぱい甲子園の土をさわっとけ!』と言わわれ、すごくサラサラで、砂のような手触りでビックリしたのを覚えています」
「息子の野球友達がみんな、こっそり土を触っています」
1番セカンドだった大森さんは、当時のクラスメートへ粋なはからい。小さなビンに詰めて、20人へプレゼントしたそうです。いまはメダルや盾らと共にビン詰めで土を飾っているとか。
「甲子園の土はやはり『いい思い出』ですね! 息子が野球をしているのですが、友達が来て、勝手にみんなで触ったりしているそうです」
「土を見て、甲子園を目指す我が子を思います」
6番センターの大塚さんもやはり同じクラスの子に配り、いまはビンに詰めて寝室のタンスの上に飾っているそう。
「子供がいま、甲子園を目指して頑張っていますので、この土を見ていろいろ思います。本当に……良い思い出です」
「甲子園の土をまいた畑の野菜を、毎日食べています」
滋賀の高校で甲子園へ出場した佐藤さん(仮名)。土はビンに詰めて家族や親戚に配った後、なくしてしまったとか。
「特に飾っていたわけではなかったですし。その前に……残った土は祖父母の畑にまきました。夏はトマトやきゅうり、ナス。冬は白菜やキャベツが採れて、その野菜を今も毎日食べていますよ。野菜がおいしくなるかな、と思ってまいていたと思います。特に味の変化はありませんが、高校生のときは何か、豊作になるなどのご利益でもあるかな……と思っていたことは確かです」
「タンスの上にあって、時々見ていました」
1999年の夏、3番ファーストとしてタイムリーを放ち、公立高校・柏陵のベスト8躍進へと貢献した太田光一さん。
友達や親戚にあげた後は残った土を小さな瓶に入れて、タンスの上に保管し、その姿を時々見て確認していたとのこと。甲子園の思い出は大事にしているものの、土にはそこまでこだわりはなかったそうで、「土を眺めて、何かを想ったり……はしませんでした。今は押し入れの中です」と笑います。
甲子園の土は「特別」としか言えない
青森の高校で高3のときに甲子園へ出場した下畑さん。県大会決勝の光星学院戦では、1番バッターとして殊勲の先制タイムリーを放ち、甲子園へ導いた彼も、親戚などに配っていったとか。いまは実家のリビングのトロフィーらとともに、甲子園で買ったビンに入れて飾ってあります。
「甲子園の土は、特別……としか言えない。強豪たちを倒して、苦労をして得られたものなので」
普段あまりされないような質問に、本当に皆さん誠実に、丁寧に答えてくださいました。
“甲子園の土”はたかが土、されど土。解釈によってその重さは変わり、それを反映するような、それぞれの「土のその後」がありました。
時には、人の大きな思いも込められる甲子園の土。それは野球少年の誰もが目指した舞台に立てたからこそ、つかめたもの。そんな特別な土は、これからも憧れでありつづけるでしょう。
今年ももうすぐ、甲子園の決勝がやってきます。
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