例えば、2020年にアップデートと配布の終了が宣言された「Flash」を引き合いに出すと、初出時にFlash形式で作成・閲覧されたコンテンツは、別の形式に変換して閲覧できるようにするのではなく、やはりFlash形式で閲覧可能な保存方法を探るべき、という考え方があります。
さらに冒頭の『さよなら絶望先生』の話にちなむと、マンガ原稿がデジタル製版で保存されていても、初稿が紙であるかデジタルであるかでも意義が異なってきます。閲覧環境だけでなく、初めて紙に出力したものを「初稿」とするのか、その際の制作環境まで含めたアーカイブを考えるべきなのかという問題です。
つまり制作に使用されていたPCやソフト、紙に出力して入稿した場合はプリンタやインクまで保存の対象に含めるという考えです。特にカラー原稿の場合は、モニターに表示した場合や紙に出力した場合の発色も無視できません。
文化庁による施策は
こうした課題に関して、文化庁では「メディア芸術アーカイブ推進支援事業」を進めています。
我が国の優れたメディア芸術作品や散逸,劣化などの危険性が高いメディア芸術作品の保存及びその活用等を支援することにより,我が国のメディア芸術の振興に資することを目的とします。
なお,本事業で対象とする「メディア芸術」とは,デジタル技術を用いて作られたアート(インタラクティブアート,インスタレーション,映像等),アニメーション・特撮,マンガ及びゲームとします。
(平成29年度文化芸術振興費補助金 メディア芸術アーカイブ推進支援事業について/文化庁)
ただ、これまでに採択された事業のアーカイブは、アナログデータやその環境に関するものが多いので、今後はデジタルデータに関するものも増えることを期待したいところです。
また文化庁というと「文化庁メディア芸術祭」などの開催でも知られますが、それらの作品の展示では、ゲームと比べるとマンガやアニメは殺風景な印象を受けます。これもゲームが筐体や実機などの環境を含めて保存対象としているのに対し、マンガやアニメは作品のみが保存対象となりがちだからです。
例えば、プロダクションI.Gが2017年4月にが開始した「タテアニメ」は、スマートフォンなど縦型デバイスでの視聴を想定して作られたサービスです。こうした例では、やはり視聴環境まで考慮する必要も出てきます。過去にはPlayStation Storeから展開を始めたアニメ『亡念のザムド』などもあり、初出がゲーム機やゲーム配信サイトを介するような作品も珍しくなくなりました。
2017年9月にはデジタルアーカイブ学会がTwitter(@digitalarchivej)を開始し、活動を本格化させるなど、議論が活発化しています。今後、コスト面や技術面での問題をクリアし、失われていく作品と環境をどのように残していくのか。今回のWeb上での議論の盛り上がりを受け、マンガやアニメといった文化についても、環境を含めた保存・展示を検討すべき段階に至っているといえるでしょう。
(真狩祐志)
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