バラエティー番組などですっかりおなじみとなったカラオケの採点機能。テレビでは99点や100点などの超高得点がたたき出されていますが、一般の人でも出せるのでしょうか。コンテンツの開発元である第一興商を取材し、ねとらぼ記者が実際に歌ってみました。
関ジャニの仕分け∞(テレビ朝日系)、THEカラオケ☆バトル(テレビ東京系)など、多くのバラエティー番組に取り上げられている第一興商(DAM)のカラオケ採点コンテンツ「精密採点DX-G」。画面上部に表示される音程バーに合わせて歌唱することによって、音程正確率(音程がどれだけ正確か)や表現力などを最高100点でカラオケマシンが総合的に採点するコンテンツです。
カラオケ番組などでは99点や100点などハイスコアが飛び出しますが、実際にカラオケ店で採点に挑戦した人からは、「そこまでの点数が出ない」「100点なんて出ないんじゃないか」「あれはテレビだから点数が出やすくなっている」といった声も聞かれています。そこで今回は「どうすればカラオケ採点で100点を出せるのか」を調査したいと思います。
第一興商・開発者に聞く「カラオケ100点への道」
攻略法を聞くのであればこの人しかいない、と筆者が訪れたのは、カラオケ機器を開発・販売している第一興商の開発本部です。取材に応じてくれたのは商品開発部技術課のチーフで精密採点の生みの親・橘聡さん。
1973年からカラオケに関する事業をはじめた第一興商は1995年に「カラオケオーディション」という採点ゲームを開発・搭載したことを皮切りに、複数のカラオケ採点コンテンツを開発。2003年には現行システムの礎となった「精密採点」、2007年には「精密採点2」、2010年には「精密採点DX」、2015年からはテレビ番組などでも多数取り上げられている「精密採点DX-G」を搭載する機種を発表しています。
採点の仕組み
橘さんによると、高得点を獲得するためにはまず、採点システムを理解することが重要とのこと。「精密採点DX-G」では以下のように細かな採点基準が設けられています。
音程
画面上部に表示される“見えるガイドメロディー”(音程バー)は、正しい音程で歌えると黄色く色づき、誤った音程だと赤色に表示されます。音程がより正確な場合には、歌唱バーをなぞるように青・赤・金・虹のキラキラが表示されることとなっており、赤色のキラキラ、金色のキラキラ、虹色のキラキラが表示されれば「スゴイ!」といわれています。歌唱終了後には音程正確率が発表され、これが100%に近ければ近いほど高得点が期待できます。
表現力
歌唱テクニックを総合的に評価する「表現力」は100点満点で採点されます。採点対象のテクニックは「抑揚」「しゃくり」「こぶし」「フォール」の4種類です。
抑揚
「抑揚」とは、パートやフレーズによって声量を変化させるテクニックで、表現力の要。プロ歌手の多くがこのテクニックを効果的に使用しています。
しゃくり
「しゃくり」とはあえて本来の音よりも少し低い音から入り、声をしゃくりあげながら本来の音に近づけていくテクニックです。平井堅さんの「楽園」の冒頭、「満たされた」という部分などは「みぃたぁされたぁ」となりますが、この「みぃ」の部分がしゃくりです。
こぶし
「こぶし」は声を細かく強弱することにや音程を一瞬だけ上下させることによって節回しを強調するテクニックです。民謡や演歌などでよく言われる「こぶしが効いている」はまさにこのテクニックのこと。元ちとせさんの「ワダツミの木」のサビ、「星もない」の「ほぉしもぉお ないぃい」の「もぉお」と「いぃい」の部分がこぶしです。
フォール
「フォール」は本来の音程からあえて音程を下にずらすテクニックです。ポルノグラフィティの岡野昭仁さんはさまざまな楽曲でこのテクニックをうまく使っています。例えば「サウダージ」の「泣くも笑うも好きも嫌いも」のあとの「あぁー」では声が途切れる瞬間にフォールして情感を出しているのです。
ビブラート
「ビブラート」は声を一定の幅で上下させるテクニックです。演歌などでも多用されますが、さまざまなジャンルで最も耳にすることの多いテクニックではないでしょうか。アンジェラ・アキさんの「This Love」のサビ最後、「愛を自由にする」の「するぅー」の部分のようにゆったりとかける場合、高橋洋子さんの「残酷な天使のテーゼ」の冒頭、「残酷な」の「ざぁー」のように細かくかける場合などさまざまな使用方法があります。
精密採点DX-Gでは、ビブラートの上手さを5段階で評価する他、合計秒数と回数、A-1からC-3までのビブラートタイプを判定してくれます。
ビブラートタイプA-1は俗にいう「ちりめんビブラート」で、非常に狭い振れ幅を早く細かく行き来させるタイプです。そこから「C-3」に向けてに振れ幅の感覚が広くなっていきますが、「B-2」から「B-3」が採点的には高評価になる割合が高いそうです。
「ロングトーン」「安定性」「リズム」
「ロングトーン」はひとつの音をキレイに伸ばし続けられるかどうかという判定で、5段階評価されます。ビブラートを掛けすぎると、このロングトーンの評価が下がってしまいますので、使いどころが重要となります。「安定性」は声がまっすぐ伸びているか、震えていないかを判定するもので、10段階評価で判定されます。「リズム」は歌唱スピードが遅れがちになる「タメ」から歌唱スピードが早い「走り」までの7段階評価。真ん中になれば、ちょうどよいスピードで歌えているということになります。
これらの評価について橘さんは、「全てを満点にする必要はない」と話します。
――ズバリお聞きします。厳しい採点基準項目でそれぞれどの程度の評価を獲得すれば100点を出せるのでしょうか。
橘:音程であれば正確率95%以上、表現力は90%以上を目標とすれば良いでしょう。安定性とロングトーンは10、ビブラートの上手さは3.5以上、リズムは中央を目指すと100点のラインが見えてきます。
――最も重要視される項目は何ですか。
橘:機械がもっとも正確に判定できる分野、音程です。ちなみに先ほど音程正確率95%以上で超高得点が狙えるというお話をしましたが、92%あれば十分に可能性はありますし、それ以下でも総合的な採点で超高得点となる場合もあります。
――音程は繰り返し原曲を聞きこんだり、原曲にかぶせるようにして歌ってみる練習でなんとかなるのですが、表現力、特に抑揚の点数を上げるのが難しいです。
橘:抑揚は声量に変化をつけるのを意識することが大切です。昔はマイクを激しく振ったりすると抑揚のポイントを稼げるようになっていたのですが、現在は改良が重ねられて対策されています。まずはAメロは小さめ、サビは大きめなどの形で練習していき、慣れてきたらワンフレーズの中でも声量をコントロールしてみると良いと思います。
――マイクといえば、中には“マイマイク”をカラオケ店に持ち込む方もいますよね。良く聞くのはSHURE製のSM58というマイクは点数が出るというお話です。
橘:開発時にいろいろなマイクでテストをして、どんなマイクを使っても点数に大差が出ないようにチューニングしていますので、「このマイクを使えば点数が伸びる」というものはありません。差が出る可能性としてあり得るのは有線と無線の違いです。
――マイマイクは有線でつなぐけれども、お店のマイクはワイヤレスだということですよね。
橘:そうです。無線の場合、マイクとDAM本体の間の受信機の音量レベルが極端に小さい場合に点数が伸び悩むということはあり得ます。一方有線の場合は、どんなお部屋でもいつもの条件が整いやすいので歌いやすく感じるのだと思います。
――この他にもお部屋の形やフロントパネルで調整できる「ミュージック音量」「エコー」「マイク音量」の設定によって点数が出やすいというのも聞いたことがあります。
橘:確かに良く聞きますね。でも実はフロントパネルで調整できるものは、お店のスピーカー出力に作用するものなので、あくまで聞こえ方に影響するということなんです。ですので直接的には採点への関係はありません。またお部屋の形や部屋のどの位置で歌うのかというのも採点へは影響しません。
――ではなぜそのようなオカルト的なウワサが広まったのでしょうか。
橘:音響面は採点エンジンに関係しないとはいえ、歌唱しているご本人にとって「歌いやすい環境」を作ることには影響します。フロントパネルの調整によって気持ちよく歌える設定を作ることで、結果的に高得点につながるということは十分あり得るので、そうしたところから広まったのではないかと思います。
――カラオケではキーの調整やテンポの調整もできますよね。あれは採点に影響するのでしょうか。
橘:キーに関しては自分に合ったキーで歌うことが大切です。精密採点DX-Gでは、点数が出た後に「分析レポート」や「声域」の評価が表示されますので、そこを参考に自分に合ったキーを探してみると良いでしょう。特に「声域」が合っていないときは、正しい音程で歌えていない音が赤色で表示されますので、分かりやすいと思います。テンポに関しては調整しても採点自体には直接影響しませんが、テンポを下げると安定性が落ちやすくなってしまいますし、ロングトーンも落ちやすくなってしまいますからあまりオススメはしません。練習のためなどに使うのは良いと思います。
――たまに「原曲ではこうだけど、カラオケではここのリズムちょっと違うな」とか「音程がちょっと違うな」っていうこともありますよね。その場合は本人通り歌うべきなのでしょうか。それともカラオケ機の音で歌うべきなのでしょうか。
橘:基本的にDAMのカラオケは、第一興商のスタッフができるだけ原曲に忠実にガイドメロディーを作っていますが、多少原曲と違うというところもあるかと思います。その場合はガイドメロディーの方を優先していただいた方が点数的には伸びます。このガイドメロディーはデンモク(曲を予約する端末)の設定のところで音を大きくすることもできるのでぜひ活用してみてください。また、極端に音が間違っている、歌詞が違うという場合はお問い合わせフォームへご連絡をいただけるとありがたいです。
――得意なところだけ歌って、曲の途中で「演奏停止」を押した場合にも100点は出るのでしょうか。
橘:条件を満たせば出ます。曲のおおよそ3分の2以上を歌唱することが条件のひとつです。
DAMの機械には精密採点シリーズ以外にも「ランキングバトル」という全国対戦型の採点ゲームが搭載されています。これは1カ月間に対象曲を歌唱した人のスコアがリアルタイムで表示されるというもので、歌唱途中にも今自分が全国で何位に入っているのかが確認できます。見事1位から3位に入賞した場合は、全国のカラオケDAMにニックネームと点数が表示される他、カラオケコミュニティーサービス「DAM★とも」では、今月のトップ100の名前とスコアが表示されます。
――2004年から導入された「ランキングバトル」も面白いですよね。精密採点とランキングバトルでは採点システムに違いがありますか。
橘:音程の合否を決める幅がランキングバトルよりも精密採点の方が厳しいです。またランキングバトルではビブラートの合計秒数を評価していましたが、精密採点ではビブラートそのものの上手さを評価しています。またランキングバトルでは評価対象外だった安定性、ロングトーンの上手さ、こぶし、フォールが精密採点では採点対象となっているので、人によって「ランキングバトルの方が点数が高い」「精密採点の方が高い」ということもあるようです。
――リリースから10年以上が経過した今でもランキングバトルは人気コンテンツですか。
橘:現在はランキングバトルよりも精密採点を楽しむ方が増えていますが、まだまだ人気のコンテンツです。プレゼントがもらえる課題曲ランキングバトルなどのキャンペーンも好評です。
――最後に、超高得点を目指すためにやった方が良いことがあれば教えてください。
橘:採点コンテンツは「歌がうまくなりたい」という方のために開発されました。上手に歌えるようになるためには、まずは自分が苦手とする部分を見つける必要があります。この苦手な部分をひとつずつ練習することにより、総合得点は上がっていきますので、採点時に表示される「分析レポート」などを参考に苦手箇所の練習を楽しんでいただければと思います。
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