悪魔でアーティストのデーモン閣下さんが、広島県「がん検診へ行こうよ」推進会議のイメージキャラクターを務めていると人間界でじわじわと話題になっています。なぜ広島県は悪魔を広島県がん検診啓発特使に任命したのか。また閣下の起用によってどんな効果があったのかを聞きました。
悪魔教教祖を名乗るデーモン閣下は類まれなる歌唱力と奇抜な容姿が特徴的なアーティスト。泣く子も黙る悪魔中の悪魔です。
そんなデーモン閣下が広島県の「がん検診へ行こうよ」推進会議のポスターに登場したのは2012年7月のこと。「広島県民よ! まだ受けておらぬのか『がん検診』」とにらみを利かせつつ、「この国では3人に1人が『がん』で他界しておる。手遅れになる前に、早く見つけて治すがよい」と呼びかけました。
このインパクトがありすぎるポスターは県内のみならず、ネットでも話題になっており、「広島県民にがん検診を受けさせたくて、どんどんエスカレートして行くデーモン閣下」「閣下ありがとう。悪魔なのにいい人」「閣下は良い悪魔」などのコメントが寄せられています。
広島県がん対策課に聞く、「デーモン閣下」起用の理由
やはり気になるのは、なぜデーモン閣下が「がん検診」の啓発をしているのか。一説には「閣下がかつて世を忍ぶ仮の姿で暮らしていた小学校時代に広島県に潜伏していたから」という話もあるようですが、本当のところはどうなのかを広島県健康福祉局がん対策課の担当者に聞いてみました。
――広島県とデーモン閣下がコラボした理由を教えてください。
広島県:広島県では、2010年からがん検診普及啓発キャンペーンを行ってきましたが、2012年に(それまでの小中規模から)大規模なキャンペーンにパワーアップさせることを決めました。その際、大規模キャンペーンの「顔」となる人物の検討を行い、デーモン閣下に白羽の矢を立てました。
――“悪魔”を起用することに抵抗はなかったのでしょうか。
広島県:広島県として最も求めたのはキャンペーンを強烈に押し出す「インパクト」です。デーモン閣下の持つ「見た目のインパクトの強さ」は他の誰にもない大きな魅力でした。さまざまなポスターが掲示されている中、やはりデーモン閣下のポスターは際立って目を引いていると感じています。
――思い切ったキャッチコピーも目を引きます。歴代ポスターのこだわりを教えてください。
広島県:2012年に作成した第一弾のポスターから、毎年度メッセージ・衣装・ポーズを変えて新たなポスターを作成してきました。最初は「まだ受けておらぬのか」(2012年7月)と頭ごなしにがん検診に行くことを促し、「なぜ受けぬのだ」(2012年10月)からの「いつ受けるのだ」(2013年6月)というようにストーリー性を持って展開していっているところです。
――ポスターは広島県内に掲示されているとのことですが、県民の反応はいかがでしょうか。
広島県:広島県独自のアンケート調査では、「デーモン閣下を活用したがん検診普及啓発キャンペーンの県民認知度」は、キャンペーン開始当初は約47%でした。そこから年々上昇し、最新の調査(2017年9月調査)では約85%にまで向上しております。これは「広島県民であれば誰でも知っている」といえる水準です。
――すごい認知度ですね。閣下が啓発し始めてから検診を受ける人が増えたなど、何か変化はありますか。
広島県:3年ごとに国が実施しているがん検診の受診率調査では、デーモン閣下を起用する前と現在を比べると、着実に広島県のがん検診受診率は向上しています。ただ、全てのがん検診(胃・肺・大腸・子宮頸・乳)で受診率50%以上を目標としている広島県では、まだまだ十分な水準には達していません。
――そもそも広島県ががん対策に力を入れるようになったのはなぜなのでしょうか。
広島県:2009年に現職の湯崎英彦知事(※)が就任したことが大きなきっかけとなりました。湯崎知事は県知事選挙の際に「広島県はがん対策日本一を目指す」と公約に掲げていたことから、広島県におけるがん対策が加速することとなりました。
(※)湯崎知事の「崎」は正しくは異体字ですが、機種依存文字のため代用しています。
――ネットでも閣下のポスターが話題になっていますが、これについてはどう受け止めていますか。
広島県:デーモン閣下を起用したがん検診の普及啓発キャンペーンは広島県内のみで展開しているのですが、他の都道府県からの照会や、全国メディアからの取材依頼を多くいただくことに驚いています。やはりデーモン閣下の影響力は非常に大きいものがあると実感するとともに、広島県のがん検診受診率をもっと向上させていかなくてはいけないと強く感じます。
――最後に今年のポスターの見どころを教えてください
広島県:今年のポスターでは、検診に行くのを「後回しにしていた・忘れていた・時間がない」などの正当な理由がない未受診者が多くいることを受けて、県民認知度の高いデーモン閣下の顔を見て危機感(ガーン!)を覚え、すぐに受診するように訴えています。また、今年のポスターにはAR技術を使った“ある仕掛け”が隠されているので、ぜひ広島県の方は街でポスターを探してみてください。
ユニークな施策で「がん検診に行かなくては!」と思い起こさせるこのポスター。元は広島県民に向けて製作されたものですが、蝋人形にされないためにも県外の人も自発的にがん検診にいきましょう。
画像提供・取材協力:広島県健康福祉局がん対策課
(Kikka)
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