もはや歴史資料 東京の廃線をあたたかみあるイラストでよみがえらせた同人誌が興味深い:司書メイドの同人誌レビューノート
『イラストで巡る東京都港湾局専用線の今昔 完全版』『イラストで巡る東京港の貨物鉄道今昔』の2冊をご紹介。
気付けば今年も12月。師走に入って慌ただしい日々をお過ごしでしょうか。そろそろ年賀状や、来年のスケジュール帳の準備をされていますか? 年を越すのって、そわそわする高揚感がありますが、時にはこんな風に、穏やかに落ち着いて、ひとむかし前を振り返ってみては?
今回紹介する同人誌
『イラストで巡る東京都港湾局専用線の今昔 完全版』 B5 24ページ 表紙・本文カラー
『イラストで巡る東京港の貨物鉄道今昔』 B5 22ページ 表紙・本文カラー
著者:豊洲機関区
レトロ感のあるイラストとベストマッチ! 東京湾の鉄道の今昔を探る
今回ご紹介する2冊は、どちらも東京の海辺の鉄道をたどるイラスト本です。ただし! たどるべき線路はすでになく……。そう、実はこのご本は廃線になった路線の軌跡を追うイラスト本なのです。
『イラストで巡る東京都港湾局専用線の今昔 完全版』では、東京湾岸を「晴海地区の晴海線」「豊洲地区の豊洲物揚場線」「塩浜地区の深川線」に分けて、かつて存在していた3路線を紹介しており、さらに『イラストで巡る東京港の貨物鉄道今昔』では、港区の海岸・中央区の築地エリアに注目して「芝浦臨港鉄道」「築地市場専用線」にスポットを当てていらっしゃいます。
全ページカラーのイラスト本なのですが、まずは鉄道のある風景が描かれたイラストがとってもすてきな雰囲気です。緻密でありながら、やわらかな線と色にほのぼのします。そして、見どころは2017年現在のスケッチと同ページに、「もしかして当時はこんな感じだったかも……」と、鉄道が現役だったころをイメージして描かれたイラストが掲載されているところ! ビフォーアフターを見比べる楽しさはもちろん、この当時をしのぶイラストが、あくまで「もしかしての想像」を交えていらっしゃるのがまたすてきなんです。写真ではなく、作者さんが調査したことをイラストにすることで、どこにもない、記録に残らない風景を思い出しているような感覚を味わっている気分になりました。
こんな光景あったんだ!? お散歩のお供にもってこいの一冊
作者さんは実際に現地を歩いて、いまも残る当時のおもかげをあちこちに見出しています。例えば、豊洲の川の中に残された橋げたや、歩道にそっと埋め込まれたレール……そして、道路に踏み切りの警報機だけが立っているなんて珍風景も!? ただ痕跡を載せるだけでなく、この古い鉄道の跡たちはどんな役割を果たしていたのかを分かりやすく書き添えているので、当時の路線をたどるのと一緒に、そのころのにぎわいも伝わってくるようです。ところどころの手書き文字が、ぬくもりがあってまた味わいが増しますよー。この痕跡たちを見に行きたくなります。
「もしも……」の世界。ほのぼのマンガで過去と未来の交錯を感じて
『イラストで巡る東京都港湾局専用線の今昔 完全版』には、小さな男の子を主人公にしたストーリーマンガも載っています。ほっぺがまあるくピンクなかわいい少年が迷い込んだのは、今は使われていないはずの廃線跡で……。2冊を通じて描かれる「過去と今」が交錯する様子が、マンガでファンタジックに伝わってきます。
このご本で紹介されている当時の痕跡の中には、作者さんがスケッチ後に解体されてしまって、今はもう消えてしまった景色もあるのだとか。廃線だからと言って時が止まっているわけではなく、街の廃線跡はいまも刻々と姿を変え続けているんですね。私なら、知らずにただ通り過ぎてしまうかもしれません。けれど、景色に溶け込んで消えていってしまいそうな痕跡を丁寧に描かれたことで、やさしいスポットライトが見えない廃線跡を浮かび上がらせてくれるようなご本です。
ちょうどあと3週間もすれば、大きな同人誌即売会が海辺で開かれるころ。ゆりかもめでしか見られない痕跡もあるようなので、行き帰りに探してみる楽しみも増えるかも!
サークル情報
サークル名:豊洲機関区
Twitter:@sachiofujima
pixiv:16243152
次回イベント参加予定:コミックマーケット93日曜日 東地区 Rブロック 38a
購入先:『イラストで巡る東京都港湾局専用線の今昔 完全版』 まんだらけ
『イラストで巡る東京港の貨物鉄道今昔』 まんだらけ メロンブックス
今週のシャッツキステ
著者紹介
司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る
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