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「分裂」する現代クイズ番組と、『高校生クイズ』35年目への挑戦 〜『国民クイズ2.01』としての現代クイズ概論〜(1/9 ページ)

2度優勝の筆者が分析。

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 いつまでたっても自称クイズ王の伊沢です。文部科学省とかが他称してくれないかしら。

 自傷クイズ王なんて肩書も考えたけれど、「ためらい傷」くらいしか自傷知識がない。失敬。

 もう3カ月以上前のことになってしまったが、2017年の『高校生クイズ』を見て僕はある種の衝撃と疑問を覚えた。疑問は膨らむばかりで、参考文献や過去の映像をあさっていたら文章にまとめるのに実に3カ月を要した。

 その疑問とは、まとめてしまえばつまり、

 「過去と同じような『高校生クイズ』をやっているのに、過去と違う『高校生クイズ』ができている」違和感であった。



筆者が高校生クイズで優勝した際のトロフィー。連覇したので2個ある

違和感の正体

 具体的に書く。それは、過去と同じ「形式」なのに、過去と違う「出演者」と「問題」が並んでいたことによる強烈な違和感だ。

 僕はその違和感の原因を「相反する『クイズ番組の2大要素』のハイブリッドに挑戦した」ことに見出した。もちろんこれが正しい結論かは分からないし、一応の整合性をもたせた仮説の1つにすぎない。

 ただ、仮説というものはその存在自体に意味があるので、ここからは長々と仮説を書く。

 今回は、

  1. まずクイズ番組の2大要素を「エンタメ性」と「スポーツ性」と定義し、
  2. それらの相対する構造を確認した上で、
  3. 『高校生クイズ』の歴史及び今年の放送について掘り下げていく。

 視聴率を基準に番組の良し悪しを計ることはできないが、今年の平均視聴率は9.0%とココ10年で2番めに低いスコアだった(最低は2013年の8.9%)。1983年から続き35周年を迎える『高校生クイズ』にとって、そして今年で5年目となる海外横断形式での番組制作において、今年はキーになる年だっただろう。

 そんな今年の『高校生クイズ』についてのあくまで主観的な違和感を、なるたけ客観的に解き明かしていきたい。


現代クイズ番組の2類型

 現在のクイズ番組は、その性質から大きく2つの種類に大別できる。

(1)エンタメ型

 1つは、「エンタメ的」なもの。現在では『ミラクル9』や『Qさま!!』がその好例だ。

 エンタメというのは、単に笑わせることではなく、楽しませること全般を指す。この中に、クイズ番組を成立させる大事な要素「正解する喜び」「教養を蓄える喜び」「会話する喜び」の全てが含まれる。

 このタイプの番組では、単にクイズが出題されるだけでなく、解答者は解答プロセスや周辺知識を披露し、解説VTRや笑いも挟まるギッシリとした内容で進んでいく。視聴者はゲーム的に番組を遊びつつ、知識も得ることができる。

 最近では『Qさま!!』のように優勝を争うスポーティな要素もうまく融合されている番組が多く、幅広いお茶の間を射程に捉えている。

(2)スポーツ型(ショー型)

 これに対するもう1つは、「スポーツ的、クイズショー的」なものである。古くは『史上最強のクイズ王決定戦』や『FNS1億2,000万人のクイズ王決定戦!』、最近でいえば「知力の甲子園」と呼ばれていた頃の『高校生クイズ』『頭脳王』などがここに分類される。

 ここで出題される問題は、基本的に「視聴者が解ける」ことを想定していない。むしろ、アスリートの超絶技巧や、「超人マジックショー」に近い。

 理解できないほどの難問を、よく分からない手段で解き明かしていく素人挑戦者。彼らは何者なのか、どのようにしてその能力を手に入れたのか……ということすらあまり明かされず番組は進んでいく。解答にたどり着いたプロセスすら明かされない。

 この「超次元の戦い」を観戦する楽しさを追い求めたのが、この「クイズショー」型である。

 SF作家アーサー・C・クラーク(真ん中が顔みたい)は「高度に発達した科学は魔法と区別がつかない」と述べた。原理はこれと同じだ。

 要するに、中にある仕組みが分からないとき、人間は理解することよりも「これは魔法だ、異次元だ」と考えて片付けたがる。そして、それを利用して番組は進んでいく。解答の仕組みをブラックボックスにすることで、いとも簡単に魔法は完成する。

 この魔法を楽しむのが「スポーツ型」の面白さの原理であり、『史上最強』や『頭脳王』は、あえて本人たちに語らせないその進め方でもってこの魔術を魔術たらしめてきたのだ。

 (余談だが、僕は『東大王』についてはエンタメ型に分類したい。解答プロセスを明確に説明することや、難易度がある程度抑えてあることがその理由だ)

 過去のクイズ番組のほとんどが、このどちらかに分類可能なように思う。

 ただ、これだけだと論拠に乏しい。後の議論のために、両タイプについて歴史や先行研究を掘り下げていくことにしよう。

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