どうしても風を切って空を飛びたい!! こんにちは。ライターでナイスガイの須貝です。
先日は、空を飛ぶために舞空術をマスターしようとしたんですが、無理そうだという結論になってしまいました。
いや、悲しい。どうしても風を受けて颯爽(さっそう)と空中を闊歩(かっぽ)したい。そこで前回と同じく、名作からアイデアを得ようと思ってたんですが、いいものを思い付きましたよ。
映画「Back to the Future 2」のホバーボードっていい感じじゃない!?
スッと空中を滑る未来のアイテム! 1985年の世界から、タイムマシンに乗って2015年の未来に飛んだ主人公マーティが、自分の子孫から借りた未来のスケボーです。
道具を使うけれどこれなら許容範囲。飛行機のように閉じ込められることなく風を切って空を行くという目的も達成できるし、舞空術のときのように「自分が帯電する」なんて命の危険とも無縁です。早速どうやって実現するか考えてみよう、というところで、見つけてしまいました。
ホバーボードって2015年に実現してるじゃん!!
自動車ブランド「レクサス」の研究所で開発されて実際に人が乗って滑ってる動画がコチラ。
浮いてますね〜。素晴らしい。まさに求めていたものです。
なぜ浮いているのか
さて実現していたらもちろん原理が気になります。危なくないのか、とか、自分で作れるのか、とか。というか、単純に知りたいよね。なんで浮いとるんだお前は。
これが浮いている原理、実は僕が博士課程で専門的に研究しているテーマなんです。その名も超伝導!! 英語でいうとsuperconductivity!!
かっこいいね〜。カッコイイ。日本語でも英語でもかっこいい。
ゼロ抵抗のチカラ
ゼロ抵抗
超伝導はざっくりいえば電気がめちゃめちゃ流れるということです。「めちゃめちゃ」というのはどれくらいか気になりますよね。これが超伝導の性質の1つ目、「ゼロ抵抗」です。
電流が流れるとき、それを邪魔しようとする「抵抗」が生じています。抵抗は電流のエネルギーを熱に変えてしまい、電流に本来の仕事をさせません。スマホが熱くなったりしてるのはスマホの回路の抵抗が原因です。
超伝導はこれをなくします。抵抗がないからエネルギーの損失もない。電流を非常に効率よく流すことができるということです。
とにかく電気が流れるので、大電流が必要な場面で使われています。例えば磁気浮上式リニアモーターカー、それから医療機器のMRI。どちらもとても強力な磁石を必要とするものです。その磁力を電磁石で作るときにめっちゃ電気が流れる素材が役に立つ、というわけです。
完全反磁性と磁束のピン止め効果
そしてホバーボードを浮かせている特質が、完全反磁性(かんぜんはんじせい)と磁束のピンどめ効果です。聞きなれない言葉ですね。
「完全反磁性」は磁石ととにかく反発する性質のこと。自分の中に絶対磁場を侵入させません。N極とN極が反発するような、尋常(じんじょう)ならざる反発力です。
「磁束のピンどめ効果」は不純物を含んだ超伝導体が磁場を束ねて自分の中に磁場を溜め込む性質です。純粋な超伝導体が完全反磁性で磁場をはじく効果の逆ですね。絶対磁場をはじく超伝導にボタン穴が空いていて、そこに磁場の糸を留めるような、そんな感じ。(実際に物体としての糸が通っているわけではないので横方向には動ける)
この二つが組み合わされば磁石との距離を変えない効果を生みます。これがすごい。
磁石との距離が変わらないので、地面に磁石が敷き詰められている時、この上に人が乗っても地面に落ちないし、上におもりが乗っていなくても、磁石同士の反発のようにどこかに飛んで行ったりもしないということですね。
この動画はピンどめ効果の実験動画です。磁石の向きがそのままなら、ひっくり返しても落ちない!! これが「磁石との距離を変えない」ということです。
ちょっと詳しくいえば、磁束をピンどめした超伝導体は、「まわりの磁場が変わってほしくない」という状態にあります。磁石が近づくと磁場が増えるし、離れると磁場が減る、そんな増減をひどく嫌うのです。
その結果、逆さにひっくり返したとき、普通だと重力に従って落ちていきますが、まわりを変えたくない力の方が勝ち、落ちていかないというわけです。
-196度と大量の磁石
この僕の願いをほとんどかなえてくれる乗り物の弱点も一応調べておきましょう。
まず、超伝導が実現するためには、超伝導状態になれる物質をかなり低温まで冷やす必要があります。このホバーボードに使われている有名な物質は-180度くらいです。(これでも結構高い方で、発見されている超伝導体は-260度まで冷やさないといけないなんてこともザラです)
(30年くらい前に東大にいた先生が陶芸が趣味で電気窯をもっており、それでいい感じに混ぜた粉を焼いてみると、この物質ができたそうです。他のグループも発見しており、論文にはギリギリ間に合わなかったらしいですが。この記事の読者にもそのような天才がいることを期待します)
ここまで冷やすには-196度になる液体窒素が不可欠ですね。昔よくケーキの箱に入っていたドライアイスは-79度なのでそんなの目じゃないですね。
もちろん取扱い注意。液体窒素を取扱うときは絶対に風通しを良くすること! 窒素の窒は窒息の窒。締め切った部屋で遊ぼうなどとは決して思わないことです。
それから上にも少し書きましたが、地面に磁石が埋まっている必要があります。磁石との距離を変えない性質なので、どうしても地面に磁石は必要です。
でもこの性質は、本物のホバーボードっぽくていいですね。映画では、マーティが水の上までホバーボードで飛んで行くと落ちてしまいました。このホバーボードも磁石と遠くはなれているような池の上では役に立ちません。動画中では水たまりの上を滑っていましたが、水たまりくらいならすぐ下に磁石があるので大丈夫です。
というか逆に考えれば、「Back to the Future 2」の2015年の世界では、全ての地面に磁石が埋め込んであってホバーボードで自由に行き来できるようにインフラ整備されている、ということなのでは?
ちょっと考察が深まりましたね。
まとめ
今回は筆者の趣味丸出しで、超伝導というスーパーな性質を持った物質を使っての空中散歩の考察でした。現状だと、個人所有はちょっと難しそうです。早くもっと高温で超伝導になる物質が見つかるといいな。いつかAmazonでホバーボードが買える日を楽しみにしましょう。
液体窒素は危ないですが、科学展示をしている博物館とかだといろいろ面白いことを見せてもらえるかと思います。
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