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「今年の恵方は南南東」は間違い? 方角が7.5度ズレている理由

どうせなら、寸分狂わぬ方角を向いてモグモグしたい。

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 日本最大の恵方巻きイベントである節分が近いですね。

 「恵方」とされる方角を向いて巻き寿司を食べるわけですが、「今年の恵方はどの方角?」と思って調べると「2018年の恵方は南南東です!」と紹介されていることが少なくありません。

 しかし! それは正確には間違いなんです!

 では、なぜ間違いなのか? 実際はどこを向いて食べればいいのか? それを解説していきましょう。

そもそも恵方とは?

 恵方という言葉を辞書で引くと、こう説明されています。

え‐ほう〔ヱハウ|エハウ〕【恵方/▽吉方】

その年の十干(じっかん)によって定められる、最もよいとされる方角。その方向に歳徳神(としとくじん)がいるとされる。吉方(きっぽう)。明(あ)きの方(かた)。 (デジタル大辞泉より)

 つまり、歳徳神という神様がいる方角を恵方と呼ぶのです。

 歳徳神は陰陽道の神様で、その1年の福徳をつかさどっています。歳徳神のいる方向はとてもめでたく、縁起がよく、万事に吉とされます。しかし、歳徳神は毎年引っ越ししちゃうんです。だから毎年恵方は違う方角になるというわけですね。

 では、その方角は何によって決められるのでしょうか。「その年の十干(じっかん)によって定められる」と書かれていますが……そもそも十干とはどういうものなのでしょうか。

十干って何?

 みなさんご存じの十二支は子(ね)、丑(うし)、寅(とら)……と毎年入れ替わり、12年で1周します。これと同じように、毎年その年の十干があり、10年で1周しています。十二支のことを干支(えと)と言うことがありますが、正確にはこの十と十二を合わせたものが干支なのです。

 十二支には動物などの名前が付いていますが、十干に使われているのは古代中国の五行説に由来する名前です。

 五行説とは、古代中国の5つの要素(五行)で、全てのことを解釈しようとする考え方。具体的には木・火・土・金・水を指すのですが、それらはさらに陰と陽の2つに分けられると考えられていました。

 ここから陰を兄、陽を弟として「木の兄」「木の弟」「火の兄」「火の弟」「土の兄」「土の弟」「金の兄」「金の弟」「水の兄」「水の弟」と10種類に分類したのが十干です。

 木・火・土・金・水は普通「もっかどこんすい」と読まれますが、日本風に読むと「き・ひ・つち・か・みず」となります。そして兄は「え」、弟は「と」と読みます(干支の読み方もここから来ています)。

 つまり、上に挙げた10種類は「きのえ」「きのと」「ひのえ」「ひのと」「つちのえ」「つちのと」「かのえ」「かのと」「みずのえ」「みずのと」と読むのです。

 これらは中国の表記を用いて甲、乙、丙、丁、戊、己、庚、辛、壬、癸と表すことが多いです。「甲」の1字で「きのえ」、「癸」で「みずのと」と読みます。

年を表す十干

 十干では、この10種類が毎年順番に回っていきます。2016年は「ひのえ」、2017年は「ひのと」と火の兄弟が担当していましたが、今年2018年は土の兄弟にバトンタッチして「つちのえ」になります。

 すでに書いたように、「干支」とは本来、十干・十二支のことです。そのため、2018年の十二支は戌(いぬ)ですが、干支は正確には「戊戌(つちのえいぬ)」です。

方角を表す十干

 古代中国では、方角の表現にも干支が用いられました。まず、十二支が時計回りに一巡し、子が北、午が南を指す十二方位が決められました。

 ここでポイントとなるのが「十二方位は『東西南北』で表される方位とは違う刻み方になる」ということ。

 試しに、子とその隣にある丑の間の角度を求めてみましょう。

 やり方はいろいろありますが、十二方位が12種の方角で1周する(360度回る)ことをヒントに「360÷12」と計算すると、正解の「30度」が導き出せます。しかし、東西南北を使った八方位で同様の計算をすると、角度は45度になります(例えば、北と北東のあいだの角度)。

 「北北東」「西南西」などを用いる十六方位の場合、この角度は22.5度。さらに細かく方角を表現できる三十二方位(※)では11.25度で、ちょうど30度を表すことができません。つまり、丑の方角は北東でも北北東でもなく、「北東と北北東のちょうど真ん中」でもないのです。

※三十二方位では「微」という字を使って、方角をより細かく表せる。例えば、北と北北東の間は「北微東(ほくびとう)」

恵方を決定するルール

 十二方位に十干を取り入れると、二十四方位になります。方角の名前には、年を表すときと同じように「甲(きのえ)」などの表現が使われます。

 五行説では木は東を、火は南を、土は中央を、金は西を、水は北を意味します。中央という方角はないので、土の兄弟だけは登場しません。

 さて、このようなわけで、十干を使うと年も方角も表すことができ、ざっくり言えば、恵方はその年と対応する方角になります。ただし、ここにはちょっとややこしいルールがあります。

  1. その年がお兄さん年のときは、恵方はその名前通りの方角
  2. その年が弟くんの年のときは、恵方は5年前の恵方と同じ方角
  3. 土の兄の年の恵方は、2年前の恵方と同じ方角

 このルールでそれぞれ考えていきましょう。

 例えば、甲(きのえ)の年はお兄さんの年なのでルール1が適用されます。恵方はそのまま「きのえ」の方角。東より少し北ですね。

 これに対して、弟くんの年である乙(きのと)は、ルール2が適用されます。乙の5年前は庚(かのえ)です。ちなみに、5年前を計算するのが大変だったら5年後と読み替えてもOKです。10年周期なので、反対周りで同じ結果になります。

 そして、その庚の年の恵方はというと、ルール1により庚の方角。ということで乙の恵方も庚の方角になります。西より15度南寄りです。

 1と2のルールだけだと困るのが戊(つちのえ)。だって、土の兄弟は年の表現には出てきますが、方角では出番がないんですから。そこで昔「じゃあ、1つ前の兄と同じにしてしまおう!」と、3のルールが追加され、戊の恵方は丙(ひのえ)になりました。

 もっとも複雑なのは、癸(みずのと)の年です。ルール2から戊(つちのえ)と同じ恵方になりますが、その戊はルール3で丙と同じ恵方に。その丙はルール1により、丙の方角です。たらい回しにされている感じがしますが、やっと癸の恵方も丙になることが分かりました。中央から南を向いて少し左の方角です。

 ルールをよく見ると、恵方は必ず「兄の方角」になることが分かります。このため、恵方は「東より15度左」「南より15度左」「西より15度左」「北より15度左」の4通りしかありません。

結局、2018年の恵方は?

 さぁ、全ての準備が整いました。戊(つちのえ)である2018年の恵方はズバリどこでしょう!

 ここまで読んだ方ならもうお分かりでしょう。ズバリ、丙(ひのえ)の方角です!

 巳と午のちょうど真ん中、つまり南から左に15度だけ向いた方角。それが今年2018年の恵方です!

 南南東(南から左に22.5度)よりは少し右、だけど、南と南南東のちょうど真ん中(南から左に11.25度)よりはちょっと左。そんな絶妙な角度です。もし「今年の恵方は南南東」という情報を見かけたら「この人7.5度間違えてるな」と思ってください。

 寸分狂わず歳徳神様を求める皆さまに幸あれ!

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