大学教員として、学生の書いたレポートを多く読む中で発見した「ダメな文章の書き方」。いわゆる「ダメ文講座」の続編をお届けします。前回は、
- 読点を使わない、変なところに打つ
- 文をねじれさせる
- 並列関係を混乱させる
という3つのダメ文ポイントについてお伝えしました。
今回はさらに踏み込んで、もう少し“書くのが難しいダメ文”についての研究をしてみたいと思います。これらのポイントをきちんと守れば、人に全然伝わらない、正真正銘のダメ文を書くことができるでしょう。
植田麦
明治大学政治経済学部専任講師。研究の専門は古代を中心とした日本文学と日本語学。
多義文 〜1つの文に複数の意味がある〜
次の文を読んで、意味を説明してみてください。
誰よりもキミが好き
どうでしょうか? この文には2つの内容があります。1つは、「(他の女の子の)誰よりも君が好き」で、もう1つは「(君のことが好きな他の)誰よりも君が好き」という内容です。
つまり、「誰よりも」で比較されるのが相手の側なのか自分の側なのか、というちがいです。
このように、1つの文に複数の意味があるタイプのものを「多義文」と呼びます。このような多義文は、読み手に複数の解釈をさせてしまうため、もしも読み手が書き手の意図とは異なった意味で解釈してしまった場合、読み手がそのあとの文章を読み進めたときに混乱してしまいます。
以下は、あるWebメディアの記事を改編したものです。
小野寺さんは東京都日野市のマンションに居住していたが、今年4月ごろから、家族も含め、連絡が取れなくなっているという。
上の文の場合、「小野寺さん一家と連絡がとれなくなってしまった」という解釈と、「小野寺さんとは、周囲の人間だけでなく家族ですらも連絡がとれなくなってしまった」という解釈の2つが成り立ちます。
さらに、以下も実際にあった新聞記事を少し変えたものです。
補助金は来年度から大規模企業に対象を絞った上で支給額を減らし、企業の自立を促す方針だ。
この文では、「補助金の支給を大規模企業のみにして、その上で支給額を減らす(これまで支給してきた、小規模企業対象の補助金は打ち切る)」のか、「補助金の支給額を減らすのを大規模企業のみにする(小規模企業の支給額は減らず、現行のまま支給される)」のか、どちらか判断に困るところです。
多義文は、書こうとしても、なかなか書けるものではありません。多くは前後の文脈で1つの意味に固定されるものです。ですが、前後の文脈が少ないとき、例えばまとまった文章の冒頭部や見出し文などに多義文があると、その後の読解をミスリードしてしまうことがあります。
上の文章を例にすると、「補助金の対象を大規模企業のみにする」場合は、
補助金は来年度から支給対象を大規模企業のみとし、また支給額を減らすことで、企業の自立を促す方針だ。
とするか、あるいは、
補助金は来年度から小規模対象のものを打ち切る。また、大企業についても支給額を減らし、企業の自立を促す方針だ。
とすれば、文脈が明確になります。
「補助金の支給額を減らすのを大規模企業のみにする」場合であれば、
補助金は来年度から大規模企業に対象を絞った上で支給額を減らし、企業の自立を促す方針だ。なお、小規模企業については、現行の補助金が継続される。
と、一文を加えればよいでしょう。
ところで、この多義文については、集中的に解説している本(『誰よりもキミが好き―日本語力を磨く二義文クイズ』山内博之)があります。本の題名をみれば分かる通りですが、本稿の執筆についても参考にしました。
ダメ文のポイント
- 複数の解釈を許す文=多義文がある。
- 複数の解釈を許さないように、文脈を明確にする。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.