今春は晴れの日が続きますね。窓を開けて、ぴかぴかのお天気にびっくりするほど。季節をうたう鳥の鳴き声も聞こえるころ、かっこいいイラスト集をご紹介します。
今回紹介する同人誌
『鎧鳥』
A5 20ページ 表紙・本文カラー
作者:とびはち
鳥が鎧(よろい)を纏うとこんなにかっこいい!
丁寧に描かれた一羽のワシ。淡い色合いながら細やかな線の重なりで、あたたかみを感じる羽毛……でも、それを覆っているのが、鎧兜だなんて! かっこいい……。第一印象で、その格好よさに撃ち抜かれます。
猛禽類の鋭い眼光が兜の下からのぞくと迫力が増します。一方で、まるまるとした小さな鳥の鎧兜姿は凜々しくも、キュートさだって感じます。今まで考えてもみなかった組合せなのに、違和感なくそのいでたちを楽しんでしまいます。
リアルと幻想。生物と人工物。異質がページの上で混ざり合う
動物と鎧兜、どちらも繊細に描かれながらも、日常にそれらが混ざりあうことは、まずありえないファンタジーです。けれどもそれが、ふわりとした色合いでまとめられているせいか、見事に溶け合っています。
鳥たちがまとった鎧に目をやると、鮮やかな色使いが要所要所で武具を引きたてますが、やわらかくくすんだ色味は、突出することはありません。そんな鎧はきっと長く愛用され、手入れをされてきたものではないかと想像してしまうのです。古来、大切な武具は丁寧に汚れを取り、磨かれてきたに違いありません。それはもしかしたら、鳥が自らの羽を毛づくろいするのに似ているでしょうか。この鎧は、どこかから借りてきた新品ではなく、長く慈しまれた愛用の品……そんな雰囲気を感じます。
そして、それを身につける鳥たちも、存在感を持って紙面の上に存在していて、あり得ないはずの「生き物と人工物」がページの上で混ざり合う様子は、違和感からの「気になる」ではなく、かっこいいものとかっこいいものが融合して、一層かっこよくなった! というすてきなマリアージュのようなんです。
「まなざし」と「しつらえ」から描かれた「鳥の感情」を思う
そうして、ゆっくりとページをめくっていると、鳥たちの姿に個性を見いだしている自分に気が付きました。きりりとした姿ばかりではなく、ふくふくとした生き物の丸みからは愛嬌(あいきょう)を、羽を伸ばした姿からは飛び立つ前のような躍動感をそっと切り取ったようです。中には、煙管をくわえて紫煙をくゆらせる一枚も。
この方は、戦の中でどんな立ち位置なのかしら? 調度品から、そういう立場って調べられるかも。歴史風俗の書架に行って、調べてみなくちゃ。それにしても、物憂げな雰囲気で、どんなことを考えているのかしら……。と、いつの間にか絵の中の鳥の気持ちや生き様を、脳内で追いはじめてしまいます。ああ、妄想はかどるわー!
物言わぬけれど、その目、その姿、その身にまとった武具、それらの心地よい溶けあいが、全身で物語を語っているご本です。
今週のシャッツキステ
著者紹介
司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る
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