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キズナアイの「写真集」は本当に写真と言えるのか? 「写真の定義」を考えてみる

イラスト集じゃないの?

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 2005年に米国で動画共有サイト「YouTube」が設立されてから十数年。誰かが投稿した動画を見て楽しむことが当たり前の娯楽となった現在、今や動画投稿で生計を立てる「YouTuber」は子供や若者にとっての憧れの職業になるまでに至りました。

 今回ここで注目したいのは、そうした「YouTuber」の中でも特に異彩を放つ存在である「バーチャルYouTuber」です。

 「バーチャルYouTuber(以下VTuber)」とはYouTubeで動画投稿を行っている(という設定の)架空のキャラクターのこと。VTuberは生身の人間が直接出ないという点で、従来のYouTuberとは大きく異なった存在です。

 1000以上もいるといわれるそのVTuberのフロントランナーとでも言うべき存在がキズナアイです。

 キズナアイは2016年11月から動画投稿を開始しているVTuberで、自称「インテリジェントなスーパーAI」。自身のチャンネルA.I.Channelは175万人以上の登録者(2018年5月1日現在)を誇ります。

 そんな人気VTuberキズナアイは2018年3月、ついに自身初の写真集を世に出したのです。



筆者も購入済み。かわいい。

 さて、ここで問題となるのがその写真集は本当に写真集と呼べるのか? ということ。

 キズナアイという3Dのキャラクターや、YouTubeのスクリーンショットが印刷されたこの本は写真集ではなくただの画像集(画集)であるようにも思えます。しかし実際、どこからが画像でどこからが写真なのでしょうか?



写真と画像とは何が違うのか?

 まずは写真について考えてみます。

 写真の歴史は古く、カメラの原型ともされるカメラ・オブスキュラ(暗い箱の中にレンズを通して外の景色を移す道具)は古代ギリシャでは既に知られていたとされます。しかし写真術が今のような形に実用化されたのは、ダゲールやタルボットによってそれぞれ技法が発明された19世紀になってからのことです。

 それ以降、「写真」とは一般的にはカメラによって得た光を専用の用紙などに焼き付けたものを言います。

 しかしデジタルカメラの普及以後、前述の写真の定義は大きく変わっていきました。デジタルカメラもレンズによって光を捉え、それを定着させるという点では旧来のカメラと変わりませんが、印刷される前の画面に映ったデータも写真と呼ぶことがあります。

 スマートフォンのカメラでも同じように、画面に映った撮影されたデータを私たちは当たり前のようにそれは「写真」であると認識しているのです。

 対して画像は、広くは絵画や写真にも用いることのできる言葉ですが、ここでは主にデジタル媒体上のデータを指すように、物質的な媒体によらないイメージそのものを指す言葉である言葉だと考えることができます。


写真の拡大

 そして更にはインターネットの普及によって、今ではWeb上にある誰かが直接撮影したか定かでないような画像すらも写真と呼ばれるようになりました。



画面に映るデータでしかないこの富士山も「写真」

 現代はデジタルメディアの急速な発展によって、「写真」の意味が拡大している真っ最中であると言っても良いでしょう。


キズナアイの登場

 ここで登場するのがキズナアイです。今回出版された『キズナアイ 1st写真集 AI』で写真だと言われているのは、3Dであるキャラクターのイメージであり、動画のスクリーンショットです。

 そこに印刷されたイメージには、今までのデジタルカメラやスマートフォンで撮影された写真のように、カメラによって捉えられた被写体が現実に存在するわけでもありません。キズナアイの写真集は一見すると従来の写真からは外れたものであるようにも考えられます。

 ではなぜ「写真」と銘打たれて出版されているのでしょう。それにはいくつか考えられる要因があります。

 まず第一に、キズナアイを人間のモデルに見立てているという可能性。キズナアイはバーチャルの存在とはいえ、それを人と同じようにモデルとして見なすことで被写体としているのです。これは旧来の写真の枠組みに当てはめた考え方です。

 第二に、バーチャルの光景自体がそのまま被写体として認められている可能性。こちらはつまり、YouTubeの動画の中やバーチャル空間であろうと、それは一種の光景であり、それを捉えたものであるならば写真になりうるということです。こちらは決してキズナアイを旧来の被写体に見立てているのではなく、バーチャルなものを新たに被写体としているわけであり、拡大した写真の新しい姿だといえます。

 近年ではRPGなどのゲームでも、プレイ中にゲーム内の景色をスクリーンショットとして保存できる機能がついたものも生まれています。ゲーム内のバーチャル空間を写した画像ですら当たり前のように写真と呼ばれるようになる日もそう遠くはないのかもしれません。

 そう言った意味では、新たな被写体としてこの土俵に立ったキズナアイは「写真」の最前線にいるのです。


まとめ

 写真をどう捉えるかということは、眼に映るイメージをどう捉えるかということ。写真の捉え方が変わるということは、われわれの価値観の変化にも関係してきます。

 キズナアイ、ひいてはVTuber達の存在が次世代の世界の見え方を作る、と言ったら少し大げさでしょうか。

 これからもVTuberからは目が離せませんね。ちなみにですが、筆者の推しVTuberは月ノ美兎(つきのみと)です。聞いてないですか、そうですか……。

制作協力

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