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海を割ったモーセ、「磁界を操る能力者」説

海を割って渡った伝説、知っていますか?

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 海を左右に割って渡ったモーセの伝説は、細かい背景はともかく聞いたことがあるはずだ。

 このエピソードが登場するのは旧約聖書の『出エジプト記』。エジプト人に奴隷として扱われていたヘブライ人を脱出へと導く途中、モーセ一行は王の軍に追い詰められる。紅海に逃げ道を封じられ絶体絶命という中、モーセが自身の杖(つえ)を振り上げると海が真っ二つに! 一行は割れた海を渡って無事に逃げ切り、追いかける軍は海の底に沈んだ……。



紅海

 3000年以上前の神話だが、割れた海の底を悠々と歩いていく……というロマンたっぷりな逸話だからこそ広く知られているのだろう。

 そのモーセの名は、神話と縁遠そうな物理学の現象にも名を残している。水の中に強力な磁石を入れると水が磁石から逃げるように分かれる現象を「モーセ効果」と呼ぶのだ。


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 磁石が鉄などの限られた金属にしかくっつかない、というのは小学校でも習うはずだ。しかし、水が磁石を避けるというのは何事か? 何が起こっているのだろうか?


水は磁石がキライ

 あらゆる物体を構成する原子は、それぞれが小さな磁石が「向き」を持ったような状態になっている。ちっちゃな磁石が入っていると考えても良い。



 通常は、無数にあるこの「向き」がランダムなため、互いに打ち消し合って物体全体で見ると磁石のような性質は現れない。一方、いわゆる「磁石」は全ての「向き」がそろった状態で安定しているため、全体としてもその方向の磁場が生じる

 磁石ではない物質でも、周囲に磁石を置くなどして磁場が生じると「向き」が磁場の方向にそろう。このそろい方は物質によって「磁場に引きつけられる向きにそろう」(常磁性)場合と「磁場に反発する向きにそろう」(反磁性)場合の2通りがある。



物質内の小さな磁石が磁場を打ち消すような向きに方向を変える場合。その結果磁場に対する反発力がはたらく

 要するに、「磁石によって周りの物質まで磁石のようになり、引きつけられたり反発したりする」わけである。

 水は反磁性体、すなわち磁場があるとそれに反発する性質をもつので、水に磁石を近つけると逃げるように動くのだ。ただし、水の反磁性はかなり弱いので、よっぽど強い磁石でないとこの現象は現れない。


海を割る前に神の国に行ける

 神話の話に戻って、モーセはどのようにして海を割ったのだろうか?

 といっても、ここまでお読みの皆さんなら私が言いたいことが分かってしまうと思う(タイトルにも書いてあるし)。そう、モーセは磁界を操る能力者だったのでは!?

 海を一直線に割るためには、通り道に磁気を加えて海底を磁化させればよい。モーセ効果が現れるのは10テスラ程の非常に強い磁場で、10m程の深さまで割るには数百テスラ以上が必要だそうだ。

 ※テスラは磁場の強さを表す単位。参考までに、永久磁石で最も強いネオジム磁石は1.25テスラ、医療用MRIは1.5〜3テスラとのこと。

 これにより磁場で海が割れたとして、心配なことが2つある。まず、人体には多量の水が含まれているから、海水が割れるほどの磁場だと身体が浮いてしまうかもしれない。実際、マウスは17テスラで宙に浮くらしいから、数百テスラで人体が浮くことは十分に考えられる。

 そしてもう1つはヘブライ人一行の健康状態だ。世界で最も強力なMRI装置で発生する磁場もたかだか10テスラ、その数十倍の磁場を足元から受けることになるわけで、脳から血が下りてこない赤血球など身体の鉄分が下半身に偏る……などの危険性が考えられる。

 ……こんなことをしていたらヘブライ人達が出・エジプトの前に出・現世してしまう。

 というわけでこの仮説はあえなく没。物理学では超えられぬ神の力ということにしておこう。

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