既存のeスポーツ実況に足りないもの
―― 具体的にはどう改善できそうですか?
平岩: そうですね……まず、実況と解説の役割分担がほとんどできていないと思います。実況はしゃべりのプロで、解説の人は競技のプロですから、解説に説明してもらわないと説得力も出ないですし。あとは、選手のバックボーンを実況に入れられる人がいないと感じます。選手のストーリーが見えてこないと“すごくゲームがうまい人が対戦しているだけ”になっちゃうので。
―― なるほど、選手の人間性が見えれば応援しやすくなりますね。
平岩: そうなんです。RAGE(国内最大級のeスポーツイベント)の「Shadowverse」大会で西日本予選があって、初めて海外の招待選手が優勝したことがあったんです。参加選手は2000人ほどいたんですが、海外の選手は数人しかいなかった。でも、完全にアウェイで言葉も通じない中、その選手は日本人と対戦し続けて勝ち上がったんです。ものすごい強さを見せていました。
そういうときに僕だったら、「海を渡り、戦った」という言葉を入れて、言葉も通じず、ゆかりのない国で戦って、周りの選手とはまったく環境が違うのにブレずに自分の強さをしっかり出した、ということを伝えたいですね。そうすれば、見てくれている人も「確かに言葉も通じない国に来てよく頑張ったなあ」となって応援する人も増えると思うんです。強いという言葉は、優勝した人全てに言えることですからね。
―― 確かに(笑)。実況の技術で言えば、eスポーツの実況と通常のスポーツの実況は必要になるスキルが全然違うものなんじゃないかと思うのですがどうでしょうか?
平岩: いや、変わらないと思いますね。ただ、eスポーツの場合タイトルの理解は必要です。ゲームタイトルの実況をするときには、少なくとも100時間はプレイして知識を入れるようにしてます。実況できないゲームとかはないんですけど、タイトルによっては準備期間はかかったりしますね。例えば、ストリートファイターシリーズであれば歴史も長いので、常識は固まっているし、過去の名勝負やプレイヤー間の因縁などがありますから。
―― 実況からは話がそれますが、タイトルの話で言えば「eスポーツ」という言葉がどのくらい広い範囲をカバーしているのかもいまだに不明瞭だったりしますよね。競技性はあるのにeスポーツとして受け入れられていないものもありますし。
平岩: ゲームで対戦している人がいて、それを傍から見ている人も楽しめて盛り上がるのであれば成り立つとは思いますよ。ただ、「じゃあそれでどのくらいお客さんが集まるの?」みたいな“興行として成功するか”という面も見ないといけないんですよね。
こないだも中野にあるレッドブルのゲーミングスフィアで「星のカービィ スーパーデラックス」の「刹那の見切り」ですごい盛り上がったという話があったんです。プレイヤーだけでなく、第三者がそれを見て盛り上がれるわけですから、そういうものでもeスポーツになる要素があるし、むしろ「それはeスポーツじゃないよ」と切り捨てるのは難しいですよね。
―― となると、プレイヤーがいて観客がいてその場が盛り上がればeスポーツ、という認識ですか?
平岩: かなぁ……。そもそも「スポーツ」の範囲が広いですから明確にはできませんが、どちらかと言うと「タイトルは関係ない」と思ってるほうです。もちろん、仕事として依頼されたらどんなタイトルでもやりますよ。
収入は「めちゃくちゃ減ります」
―― まだ会社を設立したばかりでこんな話をするのもなんですが、収入は増えそうですか?
平岩: いやー、めちゃくちゃ減りますね! 3月の時点で「会社辞めます」と伝えて仕事を探していたんですけど、その時点で決まってる仕事でいけば10分の1くらいの収入でした。今はニュースにもなったおかげで盛り返してきたんですが、それでも半分には届いてないくらいですね。
―― 気合を入れて働く必要がある環境ですね。
平岩: そうですね。今は実家の近くの祖母の家に部屋が余っていたのでそこでオフィスを構えていて家賃もかからないので助かってます。
―― 現状、仕事はどのくらい決まっていってるんですか?
平岩: 年末までの土日はほぼ埋まっています。平日は取材や打ち合わせが入るんですが、平日をどうしていくかは課題ですね。キャスター専業だと土日だけでなく平日の仕事もないとキツイので。
―― テレビ局からeスポーツの現場に移ったという形ですよね。最近ではテレビでeスポーツの話題を見ることも増えましたが、現場からみてテレビ局のeスポーツへの取り組みかたに満足できない部分もあったのでしょうか。
平岩: うーん、「ここだとやりたいことができない」という思いはありましたね。朝日放送は「パワフルプロ野球」の決勝大会を取り上げたり、テレビ局の中ではeスポーツへの取り組みが進んでいる方ですが、当然他の仕事もあって専業ではできないんですよね。
あとはスポンサーの制限もあるんです。「パワプロ」で言えば、コナミさんとの兼ね合いがあるからEA(Electronic Arts)のことはしゃべれないとか、そういうことになっちゃうんですよねえ。
―― テレビ局に「もっとeスポーツのことを取り上げてほしいな」という思いもあるんですか?
平岩: 思ってますよ。ニュースにしてもスポーツにしても、テレビ局は“伝える映像コンテンツ”を作る能力がすごく高いと思いますし。ただ、ゲーム好きな人が多いかというと割合としては少ない。「昔っからゲームが好きでテレビでゲームの仕事がしたくて、ようやく時代が来た!」という人もいればうまくいくと思うんですけど、まぁアナウンサーでは少なかったですね。
―― まぁアナウンサーになるような人は、普通一般的なスポーツの方が好きなものでしょうね。
平岩: そうですね。そもそもそれが好きだからなるものですから。僕はそんなにプロスポーツが好きになれなかったという部分もあって……。
―― もともと普通のスポーツ実況をしてたのにそんなこと言って大丈夫ですか(笑)。
平岩: 大丈夫です。休みの日にまでサッカーを見たり野球を見たりはしてなかったですから。で、何をやっているかといえばゲームやってたんで(笑)。もともとスポーツするのは好きなんですけど、見るのは好きじゃないんですよね。
そうなると、スポーツに対して100%注力することができないんですよね。基本的にはできてるけど「残り5%の完成度を高めるために頑張ろう!」みたいなのはできなかったんです。誰しも仕事でそういう思いはあるでしょうけど、やっぱ1番になる人って100%注力してる人ですよね。
FPSと名のつくものは片っ端からやっていた
―― ご自身もゲーム好きなわけですよね。どういうゲームをやっていたんですか?
平岩: まず、小学校の高学年くらいから洋ゲーにハマって……。
―― 洋ゲーにハマるの早いですね(笑)。
平岩: 早いですね。だから「レインボーシックス」シリーズの1作目とかやってました。
―― 相当前のゲームですよね。グラフィックとか超粗いころの。
平岩: そう。もう画面に照準だけあって手元の銃が映ってないんですよね。で、エイム補正が強くてワンショット・ワンキルが簡単。でも、地図を見てブリーフィングして……という戦略性が面白くて、それがきっかけで洋ゲーにハマったんです。
そういえば、「レインボーシックス」は「Nintendo64」で出ていてリージョンコードは無かったんですけど、海外版だとカセットと本体の突起が合わなくて物理的にプレイできないようになっていたんです。海外で買って日本でプレイしようとしたら「入らない!」って(笑)。どうしてもプレイしたくて、最終的にはカセットの外側を外して基盤だけ挿してやってました。任天堂さんに怒られるかもしれないですけど、そこまでしてもやりたかったんです。しかも当時の海外ゲームってローカライズされてないですし。
―― ……結構、変わった子どもだったんですね。でも、ローカライズされてないゲームをやってたということは、英語は得意だったんですか?
平岩: いや、できなかったです。辞書引きながらやってましたよ。大学生になって留学してから英語は話せるようになりましたけどね。
―― なるほど、ということは洋ゲーで英語を学んで勉学の面でも役に立ったわけですね。
平岩: まぁ、変な単語は覚えましたね。「エイム」とか銃の英単語だけはやたら知ってました。海外のゲーム雑誌も好きだったんですよ。読めないけど写真だけみて楽しんだりとか。
―― でも、子どものころから基本洋ゲーばっかりとなると友達と話が合わなくなりませんか?
平岩: 合わないんですよ。友達と同じゲームを全然やってなかったので、寂しさは感じてました。洋ゲーFPSの布教活動もしてたんですけど、もう全っ然ダメでした。もう途中からは諦めて自分だけでやってましたね。
―― ちなみに、他にはどういうゲームを?
平岩: FPSと名のつくものは片っ端からやってました。ただ、「PUBG」はめちゃくちゃハマりましたけどTPSはあんまりやってなかったんですよね。あとは映画のゲームをよくやってましたね。海外って「これをゲームにするのか?」っていうゲームが結構あるんですよ。「エイリアンvsプレデター」のゲームとか……。
※一人称視点のシューティングを「FPS」、三人称視点のシューティングを「TPS」と呼ぶ
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