「世界一臭い食べ物」ともいわれる「シュールストレミング」。スウェーデンの伝統的なニシンの缶詰※ですが、その空輸のための梱包が厳戒態勢すぎて完全に危険物の取り扱いのようだとTwitterを騒がせています。
※加熱殺菌していないため厳密には「缶詰」ではなく「缶入り食品」などと呼ばれる。
シュールストレミングといえば、焼いたくさやの6倍以上ものにおいを発するやばい食べ物。販売サイトでも、周辺に被害を与えないため、水の中や迷惑のかからない屋外での開缶を勧めているほどです。
それだけに輸送にも相当な苦労があるようで、シュールストレミングの輸入販売を行う三幸貿易は公式Twitter上で輸入時の梱包状態を公開。梱包の上には危険物を指し示す「危」のラベルが貼られ、密閉された容器からは物々しさが伝わってきます。さらに輸送中は航空規制液体として、国連により定められた危険物取り扱いルール「国連番号」の下で管理。梱包を開くまではとても食品が入っているとは思えない姿で運ばれてきていました。
輸入には相当な苦労があるようなので、その辺りを三幸貿易の担当者に聞いてみました。
「そもそも毒劇物や爆発物用の規格」
――輸入にあたり特に苦労した点をお聞かせください。
担当者:最大の障壁は輸送コーディネートです。航空便はそもそも、ほとんどの航空会社が禁止していますし、海上便となるとかなり長い陸路、あるいは水路を使って大きな港へ運び、そこで他の貨物と一緒に冷蔵コンテナ(リーファー)に積み合わせをしてもらう事になります。ですがそもそも冷蔵の積み合わせをしている所が少ない上に、高価なグルメ食材との積み合わせは嫌がられます。さらに危険物用の特殊梱包や煩雑な手続きがある為、最初に問い合わせた5社は全て断られました。
――おお……。
担当者:もう1つは輸入自由化していない商品なので、輸入許可を取得する必要があった事です。対象の商品かどうか税番号を確定してもらうために税関でチェックしてもらうのですが、皆さん開けたくないので、なかなか話が進みませんでした。
――過去に輸送中爆発するなどの事故はありましたか?
担当者:私は10年間、扱っていますが自然爆発は起きたことがありません。昔、缶の製造技術が低かった時は、スーパーの棚で自然爆発という大災害が頻発したそうですが、今のシュールストレミングの缶は通常よりも分厚い上に、内圧を逃がせるように蛇腹状の構造になっています。このため爆発は起きません。たぶん。
――航空規制液体「国連番号3334」とは一般的にどういうものに使われるものですか?
担当者:航空規制液体とは、国連が定めた国際標準の約3000種類ある危険物の中の液体にあたります。かなり細分化されている中で3334というのは極めて珍しいらしく、他に該当する商品は今の所、見たことがありません。そもそも、毒劇物や爆発物用の規格なので食品に使用されるのは食品輸入商社の私達も、シュールストレミングでしか見ない物です。
――普段はどんなお客さんが買われていきますか?
担当者:特に目立つのは研究職の方々です。アカデミックな興味をお持ちの方が多いと思われます。
――三幸貿易の社員さんたちもよく食されて……?
担当者:シュールストレミングは私達にとって毎日、晩ごはんには欠かせない存在です……と、言いたい所ですが、食べた後は数日間地獄の臭いに苦しむので食べません。臭いが無くて、塩気がもう少し抑えられれば、たまに食べても良いのですが。
シュールストレミングをスウェーデンの田舎にある工場から直接買い付けているという三幸貿易。特殊な輸入方法のため運賃と関税が「恐ろしく高い」とツイートしている通り、現地で約600円で売られているものが、日本での販売価格は5000円ほど。価格だけ見ると高い気がしましたが、輸入経緯を聞くと妥当な気がしてきます。
Twitterでは迫力ある梱包の様子に「航空でなんておそろしやー」「爆発するとバイオテロになる」「食品だけど機内持ち込み禁止の最凶クラスの危険物」などなど、そのアグレッシブな輸入姿勢に恐れおののく感想が相次ぎました。怖いけど、一度くらいは食べてみたいかも。
取材協力/画像提供:三幸貿易(@SANKO_TRADING)
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