工事現場にひな人形、サンタ、カブトムシ! 仮囲いのディスプレイに熱注ぐ「ガテン系アート」 中の人にインタビュー(2/3 ページ)
ある工事現場の仮囲いに現れた、ひな人形やカブトムシ――やたらとこだわっているディスプレイ、手掛けている建設業者に思いを取材した。
櫻田: 最近の工事現場では、仮囲いが死角を生んで通行人がぶつかったりしないように、角を透明にして見通しをよくするところが増えているんです。そこで今回のように生まれた透明なスペースに、植樹したり造花を置いたりすることがあります。我々も何も置かないのは殺風景だなということで花をよく植えますし、他の現場でも見掛けますね。
ただ今回みたいに、定期的に展示物を変えたり、プロジェクターで絵を照射したりと、ここまでこだわったのは初めてです。
今野: 他の現場でも花を一つ置いているところはよく見掛けますが、ここまで凝っているのはあまり見ないですね(笑)
櫻田: クリスマスになるとタワークレーンから電飾を吊り下げてクリスマスツリーを作っている現場とか、そういったものは10年前ぐらいから見るようにはなりました……が、まだまだまれだと思います。この麹町から四ツ谷までの間の現場でも、うちぐらいでしたね。
――なぜここまでこだわるように……?
櫻田: 仮囲いを作ったのは2017年のGW明けでしたが、このスペースも最初は花を置いただけだったんです。ですがせっかく人通りの多い場所ですし、この一帯の現場でうちだけでも面白いことができないか、ということで、クリスマスに合わせて12月からサンタクロースの絵をプロジェクターで投射することにしました。
今野: 所長はプロジェクターを、ぼくは足元に設ける花を担当していたのですが……正直言うと、最初は所長のノリに付き合わされる形でいやいやながらやっていたんです(笑) 本物の花だと枯れてしまい手入れが面倒なので、11月上旬には造花に切り替えたくらいでした。
ですがその時期にすごく強い台風が来て、コーナーのなかにイチョウの枯れ葉がたまってみすぼらしくなってしまって。せっかくコーナーを作っているのに現場が汚く思われては逆効果ですし、もともと上のサンタの絵との統一感も気になっていたので、百均ショップでクリスマスグッズを買って代わりに置いてみたんです。綿で雪を再現して、クリスマスの小物をちりばめて……全部で400円ぐらいでした。
――そんなスロースタートだったとは……。
今野: 現場が終わってから作業しなくてはいけないので早く帰りたかったですし、あのコーナーって上にしか出入り口がないので、展示のためわざわざ入り込むのが大変なんです(笑) あとは歩行者にぶつからないよう配慮するためのクリアパネルなので、展示に凝りすぎて注意を引いてしまうのも本質でもないのかな、とも思っていました。
櫻田: 仕事に向かう人々に、一つの憩いや癒やしを提供できたら、くらいの気持ちでしたね。心があたたまってもらうことで、仮囲いで仕切られている工事現場の世界と世間の人たちとの間に、ちょっとでもつながりが生まれるのではないかと。
仮囲いのため週末は百均ショップへ行くように
――どうやって展示がエスカレートしていくのですか?
今野: それが季節ものにしてしまったせいで、シーズンが終わるたびにディスプレイを更新しなくちゃいけなくなったんです。
1月に入るとクリスマスはもう似合わないので、急いで百均で赤い布、鏡餅、門松を2つ買って、400円で正月らしい展示を作りました。でも小正月が終わるタイミングで現場の人から「もう正月じゃないじゃん」「次どうするの」って指摘が来まして、次は節分、その次はバレンタイン、ひな人形……と。
――終わらない流れじゃないですか。
今野: 自分としては忙しいし材料費も自腹だったので、前田建設のオリジナルキャラクターの人形を置いて終わりにしたいと言っていたんですが、会社のPRとなるようなものは公道に向けて設置するのもNGらしく……。
それでも現場の人たちから反応をもらっていくうちに、「次はこんなテーマで行ってみよう」と、義務感ではなく自分で展示づくりを楽しむようになっていきました。うちの近所に百均ショップがたくさんあるので、週末はだいたい必ず3店巡ってディスプレイ用にいい感じのアイテムがないか探す生活になっていましたね。
――完全にライフワーク。
今野: 特に夏は百均にアイテムがめちゃくちゃ多くて……「カブトムシ」「海」「ひまわり」の3パターンも思い付いてしまったので、全ての材料を買って家で用意していました。忙しくて展示を入れ替える時間がなさすぎて、お盆休みのある日、「海」をセットするためだけに現場に来たこともあります。
――こだわりがどんどん半端ないことに。
櫻田: 自分のプロジェクターは、サンタが終わった次は歩道に魚が泳ぎ回っているような絵を投影しようと思っていたのですが、敷地の外ですしお子さんが注視してしまって事故につながる可能性もあったので断念しました。これだけ構想を練っていたんですが……(方眼紙を見せる)。
――うわ、方眼紙にラフ絵がびっしり……!
櫻田: なので引き続きサンタと同じように、絵をデザインしてはそれを投射するための専用レンズを機械機器のリース業者さんに作ってもらい、コーナーの壁に映し出してきました。
春は子どもたちがランドセルを背負っている絵、夏は天の川を眺めている絵……これも注文と違うイメージが仕上がってきたりとか、なかなか大変なんですよ。最初は2週間くらいで作る予定だったのに、どんどん制作時間がのびていって……最後の作品は3カ月くらいかかっていました。
――こっちも裏でそんな手の込んだことを……夜にプロジェクターに気づいたときは「こんなことまでやっていたのか」と本当に驚きました。
櫻田: 今野くんがだんだんいいディスプレイを下で作ってくれるようになったので、私も負けないつもりで相乗効果が生まれていきましたね。
――音楽ユニットのインタビューみたいな発言ですね。お二人で印象に残っている展示はありますか?
今野: 節分の展示をしたとき、一悶着(ひともんちゃく)あったんですよ。
――一体どんな……(ゴクリ)。
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